2話 ゲーセンで絡まれる(おやくそく)
入学式と担任の長めの説明が終わり、「今日はこれで解散だ」の一言で、一年B組の教室が一気にざわついた。
鞄を机から取り、肩にかける。これで初日のイベントは終わりだ。
『やっと終わったじゃん。あー、家帰ってゴロゴロしたい~』
(おまえは最初から座ってただけだろ)
教室を出ようとしたその瞬間――
「なぁなぁ、イツキン!」
背中から軽い声。振り返ると、第一ボタンを外し、ネクタイをだらしなく緩めた男子が笑顔で立っていた。
髪はやや茶色がかり、寝ぐせのように無造作に跳ねているが、全体はきちんと整っている。
肌は健康的に日焼けし、笑うと八重歯が覗く。
陽キャのイケメンが声をかけてきた。
「……誰?てか、イツキンて俺の事か。」
「おいおい、同じクラスの悠真だって。席、あんたの斜め前」
「さっき初めて話したよな?」
「そうだっけ? まぁいいじゃん、で、このあとヒマ?」
(……距離感バグってる奴って本当にいるんだな)
「じゃあさ、ゲーセン行かね?」
俺が返事をするより早く、悠真は自然な笑顔で一歩近づき、俺の肩を軽く叩いた。その間合いは、冗談めかした軽さの奥に、測ったような正確さがあった。
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校門を出ると、春の空気が心地いい。まだ満開を保つ桜の花びらが、歩くたびに足元へ舞い降りてくる。
駅へ向かう道は人通りが多く、制服姿の新入生らしきグループがあちこちで楽しそうに話していた。
「……なんで俺に声かけたんだ?」ふと聞くと、悠真はポケットに手を突っ込みながら肩をすくめた。
「なんとなく。一番暇そうだったし」
『陰キャ認定おめでと~♡』
(うるさい)
「でもな、それだけじゃない。お前、普通じゃない雰囲気あるんだよ」
「……普通じゃない?」
「立ち方とか目つきとか……なんつーか、人と違う場所で生きてきたやつっぽい」
『おー、鋭いじゃん。やるじゃんこの陽キャ』
(おまえは反応するな)
「そういう奴、ほっとけねーんだよな」悠真は笑い、信号が青に変わると足早に渡っていく。
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駅前のアーケードに入り、ガラス扉を抜けた瞬間、ネオンの光と電子音が押し寄せた。
「ほら、あれやろうぜ」悠真がUFOキャッチャーを指差す。
『あの白いぬいぐるみ、あたしっぽくない? 取って取って~』
(おまえっぽいの取ってどうすんだよ)
悠真は真剣な顔でレバーを握り、狙いを定めるが……ガシャン、とアームは虚しく景品の脇をかすめた。
「くそっ、もう一回!」
『にひひっ♡ 下手くそ~』
(煽るな)
その後、俺たちは格闘ゲームで一勝一敗、音ゲーで悠真の圧勝、レースゲームで俺の勝ちと、交互に勝負を繰り返した。
気づけば一時間以上が過ぎていた。
格闘ゲームで盛り上がっていると、不意に背後から肩をどつかれた。
「おい、どけよ。次オレらだから」
振り向くと、茶髪でピアスをした上級生風の男が3人、ニヤつきながらこちらを見下ろしていた。
俺たちが、下級生だと言うのがわかって絡んできたんだろう。
(めんどくさい奴に絡まれたな。)
「おい、どけよ。次は俺らの番だろ」
「いや、まだクレが残ってるんすけど。」俺が苦笑いしながら返す。
「はぁ? 生意気なんだよ」
不良たちの一人が俺の腕を掴もうとした瞬間――悠真が手を挙げて軽く笑った。
「……残クレ残して帰ろうぜ、イツキ。楽しい気分壊すのもバカらしいし」
「……まぁ、そうだな」
俺たちは筐体から離れ、その場を後にした。
背後で聞こえた嘲笑が耳に残る。
「へっ、雑魚じゃん。カモ発見~」
『にひひっ♡ ほら見ろ〜。逃げ腰だと余計ナメられるんだっての』
(……平穏第一だ。それでいい)
――その帰り道。
薄暗い駐車場の奥に差しかかったところで、さっきの三人組が壁に寄りかかって待ち構えていた。
『あーれれ~? だから言ったじゃん、ほらカモられに来たじゃん♡』
(はぁ、本当にめんどくさい。)
「おう、来たな。なぁ、俺ら金ねーんだわ」
「だからさ、ちょっと置いてけよ。お年玉でも何でも」
悠真が一歩前に出て、肩をすくめた。
「は? なんでお前らに渡す必要があるんだよ」
「口答えすんな!」
次の瞬間、拳が振り抜かれ、悠真の頬にクリーンヒットした。
「っ……!」体勢を崩す悠真。
「悠真!」
思わず支えた俺の胸で、スイッチが入る。
『おー、やっと出番♡ やっちゃえミツキ!』
(……さすがに見過ごせん)
俺は一歩前に出て、不良たちを見据えた。
「もうやめとけ」
「調子に乗るなよ!」
1人目が殴りかかってくる。肩の入りは大きいが、動きは素人丸出しだ。
半歩外に踏み出し、すれ違いざまに手首を掴んで内にひねる。
「ぐっ……!」腕を取られた不良が膝をつく。
2人目が勢いよく突っ込んでくる。前のめりで、体重のバランスなんて考えていない。
俺は軽く身体を回転させ、肩を当てる。
「うわっ……!」勢いを利用され、そのまま背中から倒れ込む。
3人目の拳は大振りで、力任せに振り抜こうとしていた。
俺は前腕でそっと押し上げた。重心が浮いた瞬間、胸を軽く押す。
「なっ……!」仰け反った不良は、尻もちをついて呻いた。
――三人、制圧完了。骨も折らずに、最小限の動きで。
『にひひっ♡ 素人狩りは朝飯前〜。さすがミツキ〜』
不良たちは呻き声を上げながら立ち上がり、舌打ちをした。
先頭の男が、血走った目で俺を睨みつける。
「……てめぇ、覚えてろよ!」
その言葉を吐き捨て、三人は足音を響かせながら駐車場を後にした。
薄暗い駐車場には、俺の荒い息とコンクリートに反響する靴音だけが残った。
「……お前さ」悠真が頬を押さえながら俺を見る。
「動き……なんか、普通じゃねえな」
「気のせいだ」
『ふふーん♡ バレんのも時間の問題〜』
(向こうが調子乗ったからやり返したまでだ。)
それにしてもかなり久々に自分の体で動いたが。
ミツキを時とは違って力も出ないし、体も思うように動かない。
これは多分獣人だったのと鍛えてた体だったのもある。
(戦闘に関する感とかはまぁ残ってるが、これじゃ少し戦える一般人と変わらんな。)
『にひひっ♡ やっぱ人間モードだとトロいねぇ~。ミツキの時みたいにキレッキレじゃないし? ぷぷっ、雑魚相手にはちょうどいいんじゃん?』
(やかましい、たたかう事なんてこの世界じゃ無いんだからいいんだよ)
そんなことをフェンリルと言い合いながら、悠真と共に駐車場を後にした。
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