表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/86

23話 ミツキ対機械天使


慌てて異空間に飛び出したはいいがさっきまで繋がっていた

い・ろ・は・すの通信がノイズだけになってしまった。

仕方がないのでインカムを取り外し放り投げた

獣人の耳にはノイズがすこぶる気持ち悪い。

改めて目の前の馬鹿でかい天使を睨み付けた。


――侵入者確認。


 空間全体に、無機質な機械声が響き渡った。

 星の狭間に漂う光の断層。その中央、六枚の翼を広げた「機械天使」が静止している。

 無数の光粒子が展開し、目の前に立つ少女を舐めるように走査した。


《対象スキャン開始……種族:獣人。魔力:高。肉体強度:高。性別:……不明》

《内部に神格存在を確認。危険度再計算――最重要危険生物に指定》

《任務更新:星の鍵を最優先に保護。対象の排除を許可》


 カチリと、天使の身体の各所が開き、光の槍がいくつも形を成す。

 白い顔には感情の欠片もない。だが、冷たい殺意だけは確かにあった。


「……へぇ、スキャンごっこは終わりか。なら、遊んでやるよ」


 ミツキは狼耳をピクリと揺らし、ゆるりと腰を落とす。

 白銀の尾がふわりと舞い、瞳の奥に戦火の光が宿る。


『ククッ、来たなぁ。やっぱ楽しいじゃん、こういうの! ミツキ、容赦すんなよ?』


「言われなくても!」


 ――ドゴォンッ!!


 次の瞬間、天使が放った光槍が地を抉った。

 閃光が走り、爆ぜるような衝撃が広がる。

 だがミツキの影は、もうそこにはいなかった。


***


 機械天使の槍を軽々と弾き飛ばした銀狼に、茜は驚きを隠せなかった。


(……これが、捕獲された時と同じ存在なのか……?)


 あの時に感じたのは「危険な異世界人」程度の認識だった。

 だが今――目の前で繰り出される動きは、どれもその枠を超えている。

 助けに来たはずなのに、恐ろしいほどの力に、安堵と同時に胸を締めつける緊張が走った。



「おっそい!」


 ――ガギィンッ!!


 逆側から飛び込んだミツキの蹴りが、金属の装甲をえぐる。

 火花が散り、天使の身体がわずかに揺らぐ。

 続けざまに拳がめり込む。

 ――ドゴンッ! ガシャァァァンッ!


《損傷検知……修復プロトコル起動》


 すぐさま装甲が蠢き、傷口が塞がっていく。

 まるで金属の肉が再生するかのようだった。


「チッ、再生持ちかよ……めんどくせぇ」


『だから殴り続けりゃいいんだって! ほらほら、次来るぞ!』


 ――ヒュゥゥゥンッ!!


 天使の翼から無数の光弾がばら撒かれた。

 雨のように降り注ぐレーザー。避け場はない。


「なら――ぶち抜く!」


 ――ズバァァァンッ!!


 ミツキの爪が閃き、光弾の軌道を切り裂く。

 残滓が蒼白い弧を描き、衝撃が空間を裂いた。

 直後、身体をひねって懐に潜り込む。


「おらぁッ!」


 ――ドガァァァァンッ!!


 渾身のアッパーが顎を撃ち抜き、巨体が浮いた。

 そこへ回し蹴りを叩き込み、天使が弧を描いて吹き飛ぶ。

 金属の羽根が砕け、破片が宙を舞った。


《損傷率三十……出力制限を解除。最大戦力を展開》


 ズズズ……ッ!

 天使の背から伸びた翼が禍々しく変形し、刃のような形状を取る。

 さらに頭部の輪が分裂し、光学兵器の砲門が展開した。

 空間に響く電子音は、今まで以上に苛烈な殺意を帯びていた。


『おっとぉ、今度は本気モードってやつか。ミツキ、死ぬなよ?』


「誰に言ってんだ!」


 ――ギュオォォンッ!!!


 大地を砕くほどの斬撃が奔る。

 光の奔流は鋭利な刃となり、一直線にミツキを薙いだ。


 だがその瞬間、彼女の姿は霞のように揺らぐ。

 スッ――。

 残像を残して横へ滑り込み、爪で逆袈裟に切り裂いた。


 ――ギシャァァァァァンッ!!


《損傷率五十……機能低下。なお戦闘継続》


「しぶてぇな……!」


『ふふーん、でも楽しくなってきたろ? もっとやっちまえ!』


 ミツキの掌に、白い冷気が収束していく。

 指先から伸びる氷の蔦が、天使の四肢を絡め取った。


「凍りつけぇッ!!《フリーズ》」


 ――バキィィィィンッ!!


 瞬時に氷結し、動きを封じられた天使。

 その身体に拳を叩き込み、蹴り飛ばし、爪で引き裂く。

 装甲が砕け、内部から青白い光が漏れた。


《警告……構造崩壊の危険。最終防衛プロトコル起動》


 天使の身体が赤く明滅し、周囲に圧が広がる。

 崩壊寸前の自爆モード。


「チッ、面倒だな……」


『あんた、もう飽きてんじゃん? そろそろ〝本気〟見せたらどうよ』


「――ああ。壊すか」


 ただならぬ気配が戦場を満たした。

 ミツキの背後に、氷狼の影がゆっくりと立ち上がる。

 白銀の毛並みが風に逆立ち、尾は鋭く長く伸び、耳がピンと狼のように尖る。

 肌には霜が走り、白銀の氷片が舞い落ちるたびに鎧のように体へと貼りついていく。


 その姿は――神と獣の狭間。


 ミツキの声が空気を震わせると同時に、背後からもう一つの声が重なる。

 氷狼フェンリルの声だ。


「聞け――氷雪のことわり、牙を持つ災厄よ」

『聞け――氷雪のことわり、牙を持つ災厄よ』


「この身に宿るは滅びの権能」

『この身に宿るは滅びの権能』


「凍土を統べる咆哮」

『凍土を統べる咆哮』


 二重に重なる詠唱のたび、空間はビキビキと音を立てて凍りつき、地面には亀裂が走る。

 吐息すら白い氷霧となり、ミツキの全身を纏う氷鎧が完成していった。

 白銀の狼影が背後にぴたりと重なり、彼女の瞳は青白い光に染まる。


「我は氷を纏いし魔神」

『我は氷を纏いし魔神』


「――フェンリル、その名を以て汝を粉砕せん!」

『――フェンリル、その名を以て汝を粉砕せん!』


 次の瞬間、世界が閃光に飲み込まれた。


「終わりだ!《アブソリュート・ゼロ》」


 凍気を纏った拳が振り抜かれ、轟音とともに衝撃波が走る。

 機械天使の巨体は一撃で粉砕され、砕けた金属片は凍りついた氷塵となり、星屑のように宙を舞った。


 静寂の中に立つ銀狼から、ひしひしと圧が伝わってくる。

 捕獲した時には決して感じなかった、純粋な恐怖。


(……こんな存在が、この世界にいていいはずがない……)


 視線を向けるだけで呼吸が苦しくなる。

 茜は剣を握る手に力を込めたまま、心の奥底で震えを抑えきれなかった。



感想がありましたらぜひよろしくお願いします。


誤字脱字や設定がおかしいなど些細なことでも書いていただけたら嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ