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20話 ミツキダンジョンに行く

SIDの作戦室から久遠に連れられ更衣室に連れていかれた。


「命令通り、あなたのサイズに近い服、いくつか持ってきたわ」


 彼女が差し出したのは、動きやすそうな黒を基調にしたコンバットスーツだった。サイドに伸縮素材が使われており、尻尾用のスリットと耳用の装着機構も備えている。獣人仕様――つまりは完全に、銀狼用に用意された物資だ。


(いったい何故こんな者が俺以外にも獣人がいるのか?)


 ミツキは溜息を吐きつつも、その服を受け取る。


「……まあ、変な服じゃなきゃいいけどな」


『へぇー、案外乗り気じゃん。じゃあ脱ぐところから見守ってあげよっかなー? にひひっ♪』


「見てるな。出ていけ」


『あんたの脳内がアタシの居場所なの、忘れたの? あーあ、耳と尻尾の通し方、教えてあげてもいいのにな~』


 その軽口を無視して更衣室へ向かう。数分後、装備を整えたミツキは、久遠に案内されてSIDの専用車両へと乗り込んだ。



---


 車内。後部座席の隣で久遠が手際よく装備の確認を進める。


「これ、あなた用に改造したインカム。耳に合わせてカスタマイズ済みよ。ケモ耳対応は今回が初だから、テストも兼ねてね」


 耳元に装着されたインカムは、驚くほど自然に収まった。圧迫感もなく、音もクリアだ。


 インカム越しに、サポート担当の通信オペレーター・志藤の声が届く。


『銀狼――いや、対象X-α、通信チェック。こちらサポートの《S》。作戦区域まであと3分。現地での状況把握を手伝う。問題あればその場でフィードバックしてくれ』


「通信、問題ない。」


 あえて名乗ることはせず、それだけ告げた。


---


 車両が停止し、シャッターゲートが開く音とともに、現地の臨時オペレーションベースに到着する。車から降りるなり、吹き抜けの地下構造と熱を帯びた空気がミツキの感覚を刺激する。


 現場に響く電子音、表示される濃度計測――そこには明らかな異常があった。


『……こりゃまた派手に振り切れてんな。魔素濃度、レベル4超え。レベル5に近づいていってる。』


(これが、こっちの世界の“最大値”か?

まあ、勝手に向こうが決めた数値だから良く分からんが。)


『現在座標位置がダンジョンの侵食により後退しています。ダンジョンコアの到達時刻の予想時間はおよそ1時間

後10分ほどで3名のランクC戦闘サポートが臨時でつくのでしばらく待ってください。』


「必要ない。」


『ですが単独の攻略は危険度が高すぎます。』


「むしろ付いてこれないだろうし、これ以上犠牲者を増やしても邪魔だよ。」


 機材のアラートを横目に見ながら、ミツキは静かに目を閉じる。


 ――呼吸。ゆっくりと肺に魔素を満たし、魔力の流れを整える。

ダンジョンの近くのお陰で懐かしい感覚だ、それゆえ少しだけ悲しくなる。

また俺は、戦わないといけないのか。


 獣人としての肉体が、再び異世界の感覚を取り戻していく。筋繊維の奥まで、魔力が染み渡るような感覚。生きている――そう思える感覚が、背骨を駆け上がっていく。


『そっ、そんな魔力がどんどん跳ね上がって。

魔力数値が振り切っていきます!!

ぎ、銀狼がそれほどまでに強かったなんて。』


『やーっぱ強化始めるとオーラ変わるよね、ミツキ。

いいよその感じ。もっとぶちかましてこ?』


「うるさい、集中させろ。」


『はいはい、ごめんなさーい。』


ミツキはゆっくりと姿勢を低くして飛び出す準備を整える。

 ――まるで捕食者が獲物を狙うように姿勢を低く構え呼吸を止める。


 鋭く息を吐いた次の瞬間、地面を蹴って駆け出した。


---


 ――地下鉄のホームに向かう為に道路を爆走しているその時だった。



『お、おおお!? ひゃっはー! 本当に繋がった!?私天才。』


 インカムから突然、妙なテンションの声が飛び込んできた。


『テスト、テスト! こんにちは、銀狼さま! ファンクラブ会員0001番、推しの愛で電波ジャックに成功しましたぁぁあ!!』


 ミツキはピタリと動きを止める。


「誰だあんた?」


『……って、え、え!? この反応――本物!? やったぁぁぁあああ! い・ろ・は・す、見参ッ!!』


 まるで実況配信でもしてるかのような声。だが、その中には確かに覚えのある響きがあった。


(この声は……何処か聞き覚えが天城いろは?

…でも彼女はこんなテンションで喋るような人ではなかったはず。)


『いやあのさぁ!? なにしてんだコイツ!? この状況で無線ジャックとか頭どうかしてるだろ!?』


 フェンリルがツッコミを入れる中、ミツキはインカムのスイッチを切りかけ――だが押さなかった。


(……最初から途中で余計なデータを取られないように捨てようと思っていたがこれは好都合だ。)


「で、いったい何のためにジャックしたんだ。」


『銀狼さまをさらったSIDのバカではなく、銀狼さまを愛したこのい・ろ・は・すちゃんが、銀狼さまをサポートいたしますよえぇ、ぜひとも。

マップから貴方の位置と異変の中心までのナビゲートとか、状況の詳しいサポートから、銀狼様のファンアートまで何でもいたしますよ、えへん( ̄^ ̄)。』


「そうか、なら俺もちょうどSIDに頼りたくはなかったんだそのままナビゲート頼んだ。」


『かしこま!!、はぁぁぁ愛しの銀狼様のナビゲート全身全霊でやらせていただきます!!』


い・ろ・は・すの熱烈なラブコールに若干苦笑いをしながらもその場を再び駆け出した。


---


 同時刻、SID側


「……っ、通信異常!? IDが……割り込まれてる!?」


 志藤の目が見開かれた。

 ナビゲーション端末のログに、見慣れぬ認証コードが突如表示される。


 【ID:irohas001】【端末:外部接続】


「誰だ!? この通信コードは――」


 突如、スピーカーから女の子の声が跳ねるように飛び込んできた。


『お、おおお!? ひゃっはー! 本当に繋がった!?私天才。』


「――いつの間にいったい誰がこんなことを!!」


 志藤の声が裏返る。

 オペレーションルームがざわつく。周囲のオペレーターも顔を見合わせ、再起動や回線遮断を試みるが――


「……くそ、チャンネル、乗っ取られてます!」


「魔術的じゃない! これ、電算通信じゃなく……幻術式ハッキングか!?いったいどうやって!」


「ナビルート全経路、異常信号発生! 銀狼との同期通信、維持不能!」


 異常な騒ぎに、室内のドアが音を立てて開いた。


「――何があった」


鷲津が静かに入室してくる。

その目に一瞬だけ光が走り、志藤は即座に頭を下げた。


「す、すみません! 銀狼のチャンネルが外部から乗っ取られて――名前は《い・ろ・は・す》と名乗って……!」


 鷲津は一度だけ瞼を伏せ、次の瞬間には冷徹な命令を飛ばしていた。


「回線ジャックだ。全ライン強制遮断。E-7コード起動、チャンネル再構築。対魔素幻術対策も重ねろ」


「了解! E-7コード、発動! 銀狼用ナビルート、バックアップへ!」


「魔素侵食検知器の再同期、TAS側に切り替えました!」


「外部侵入者の逆探知開始! 幻術干渉構文のトレースも――!」


 怒号と共に、作戦室が再び緊迫した動きに戻る。


「……“い・ろ・は・す”」


 鷲津がその名を口にする。

 口調に苛立ちも怒気もない。ただ、冷たく沈むような声音だった。


「面白い“遊び”をする。だが……無許可の介入は許されん」


 志藤は青ざめながらも必死にオペレーションを再構築していた。

 鷲津は最後に一言だけ落ち着いた声で付け加える。


「ログを全て保存しろ。分析班に回せ。……これはただのジャックじゃない。

直ぐに身元を洗い出せし、回線を取り戻せ!!」



感想がありましたらぜひよろしくお願いします。


誤字脱字や設定がおかしいなど些細なことでも書いていただけたら嬉しいです

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