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17話 No.11

第三層――ダンジョンの魔素密集区画。


霧のように濃密な魔素が立ち込め、空間の輪郭が揺らいでいた。

気温は異様に高く、呼吸をするたびに喉の奥が焼けるような錯覚すら覚える。


コンクリートを侵食した床の中心。

溶けたように禍々しい魔素の池に、それは鎮座していた。


異形の魔物。

体躯は人の二倍。腕部は肥大化し、脚部は獣のように変質。

その身からはゴボゴボと泡が弾ける音が響き、絶えず魔素を吐き出していた。


「……あれがダンジョンコアの守護体……ボスか」


連城が肩越しに低くつぶやく。


『解析完了。魔素反応は安定――危険レベル、L3』

『局地汚染源レベルです。単独行動は危険ですが、現戦力なら制圧可能』


「L3……? 中心部の魔素密度って、L4じゃなかったか?」


悠真が眉をひそめ、通信へ疑問を投げる。


『確かに突入前の観測ではL4相当でした……が、現在は明確にL3反応です』

『おそらく……別の“反応源”が混在していた可能性が高いです』


「……なるほど。じゃあ本命は、まだ――」


「考えるな。全員、戦闘準備。AパターンからBパターンへ移行」

「補助結界は私が展開する。悠真、視界制御。連城、先制打撃に移れ」


茜の命令が響く。明瞭で、冷徹で、迷いが一切ない。


「了解!」


「よっしゃ……!」


連城が魔力刀を引き抜いた、その瞬間――


ゴゴンッ!! ズズン……ッ!!


鈍く響く轟音が天井から落ちてきた。


「上か!?」


「何か――来る!」


金属の軋み【ギギギギ……ッ】と共に、巨大な影が落下する。

――それは大型コンテナだった。


「……貨物?」


「違う。人為的に搬入されたものだ。配置を崩すな」


茜が即座に判断を下し、視線を鋭く天井へと向ける。その眉間に、かすかな皺。


コンテナが地面に衝突した数秒後、凄まじい破裂音が響いた。


ドガァァン!!


「――ぎ、い゛ぃいいぃや゛ぁああああっ!!」


金属が内側から破られ、拘束具がねじ切られる音【ビキビキビキィッ!】。

そこから這い出たのは――人の形をした“何か”。


骨のような翼が背中に生え、全身には魔素の刻印が走っていた。

焼け爛れたような目。口からは泡が垂れ、そして胸部には、焼印のように浮かぶ**「No.11」**の刻印。


「な、なんだあれ……人間……か?」


悠真が一歩後退する。


“それ”は、自分の足元にいたダンジョンボスへと手を伸ばした。


そして――喰った。


ガブリィィィッ!! ズズズ……ッ!!


牙を突き立て、魔物の肉体を噛み千切る。

魔素が暴風のように巻き起こり、ボスの身体が“それ”の中へと取り込まれていく。


「食った…だと……!? あれ……いったい何をしてるんだ!?」


連城が目を見開く。


『通信妨害が発生! ジジジッ……! 魔素濃度が臨界を超えています……っ』


『再解析開始――っ、でも……っ、変です……っ!!』


詩音の声が震える。


『魔素反応の中心に……“人間の生命反応”があります!』

『体温、脈拍、呼吸――人間と一致……でも、魔素濃度が異常すぎて、もう人間じゃない……!』


「なんなんだよ、そいつ……!」


全員が息を呑むなか、詩音がさらに震える声で告げた。


『再解析完了……危険レベル、L5――!』

『本来は**A級エージェント2名以上での対応が推奨される等級です……っ!皆さんそこから退避してください!』



だが、化物が近くのコンテナを投げ込み退路を塞ぐ。


「た、退路をふさいだだと!」


「俺達を逃がさないつもりだな、どうする!」


空気が凍りついたかのような中――ただ一人。


茜の声だけが、極限まで冷たく、透き通って響く。


「――“排除対象”だ。全員構えろ」


その言葉と共に、茜の背から銀の刃が抜かれる。


《魔力伝導刀――クレストエッジ》。


シャキィィィンッ!!


漆黒の鞘から引き抜かれた瞬間、刀身は銀の光を纏い、空間の魔素を斬り裂いていく。

茜の魔力が流れ込むたび、刃の輪郭が淡く変質し、**触れた魔素を逆流させて消し去る“属性透過式エッジ”**が形成されていく。


「連城、前へ。悠真、カバー」


「了解!」


「ッス!」


茜は一歩、前に出た。


濁流のような魔素を踏み越え、冷たい命令口調で静かに告げる。


「――勝たねば死ぬ、それだけだ。」


その目に、迷いは一切なかった。


融合体が咆哮を上げた瞬間、空気が弾けた。


ガァァァァアアアアアッッ!!!


耳をつんざくような魔素の共鳴音

それに続く爆風のような膨張


第三層の濃密な魔素が衝撃波とともに荒れ狂い、視界すら歪む。

喉を焼くような圧力、全身を締め付ける嫌悪感。


「距離を取れ! 悠真、視界確保!」


茜の命令が瞬時に響く。口調は冷静で的確、それでいて戦場を支配する強さがあった。


「T.A.S起動。熱源・魔素濃度をオーバーレイ表示。やるぞ!」

「連城、右斜め前へ。奴を引き付けろ!」

「任せとけぇッ!」


連城は迷わず飛び出し、腰から取り出したフラッシュビーコンを滑らせるように投擲。


パァァァァンッ!!


閃光が爆ぜ、融合体が一瞬顔を背ける。


茜の姿が一閃とともに消えた。


《クレストエッジ》。

銀の刀身が直線に光を放ち、融合体の左肩を斬り裂いた。


ズバァァァッ!!


メキィッ、と骨をおるような手応えはあった。だが――


「……再生……」


抉ったはずの肩口から、ドロリとした魔素が溢れ出し、数秒も経たぬうちに肉体が再構築される。


「やっぱ自己修復持ちかよ!」


連城が跳び退き、融合体が豪腕を横薙ぎに振るう。


ブォォォンッ!! ガガガァァァン!!


空間ごと叩きつぶすような一撃を、悠真の指示で茜がすれすれで回避。


「悠真、側面支援。照明操作、極端な影を作って」

「了解! 照度調整、T.A.Sで明暗補正。  茜さん、左に3メートルの影落ちます!」

「誘導する。連城、再突撃」


融合体の足元を狙い、連城が魔力ナイフを投げ込む。


ヒュンッ! ドシュッ!!


爆ぜるようなバンッという破裂音と共に、融合体が低く唸る。


「ウ゛……アアアアッ!!」


理性のかけらもない吠え声。

腕を地面に叩きつけドガァァン!と衝撃波を生み出す。足元のコンクリートが粉砕され、バキバキィッと破片が飛び散る。


「くそッ、地形が崩れる!」


悠真の眼が魔素反応を追い、再構築される腕部を分析する。


「斬撃より貫通が有効かもしれません。魔素の核が中心に集中してる!」


だが、そこに攻撃を届かせるには時間が足りない。


融合体の触手が茜に伸びる。 その瞬間――


「いけええええっ!!」


連城が飛び込む。


ドゴォォンッ!!


触手の一撃をその身で受け止め、壁に叩きつけられる

ガシャァァン!

血が散り鎧が砕ける音が鳴った。


「連城ッ!」


「……構わず、やれ……!!」


咳き込みながらも、彼は笑っていた。


「……よくやった」


茜が静かに呟き、足元を踏み込みなおす。

《クレストエッジ》の刀身に、すべての魔力が注がれる。

刀の輪郭が銀から白金へと変わる。


「魔力限界値、解除」


ヒュゥゥゥンッ……!


風が切り裂かれる音。

斬撃が、空間ごと融合体を縦に裂く――


ギィンッ!! ズバァァァァァッ!!


光が弾け、融合体の中心部に亀裂が走る。


その中から、核のようなものが見えた。


「悠真!」


「――撃つッ!」


バシュゥゥゥンッ!!


魔封弾が放たれ、核に直撃。


パリンッ!!


ひび割れ、砕ける音。


融合体の動きが止まる。

崩れ、溶け、ぐずぐずと黒い泥のようになっていく。


――勝った。


しばしの沈黙。

ハァッ、ハァッと重い呼吸、焼けた空気の匂いが当たりに漂う。


「……全員、生存。任務完了だ。」


茜が静かに告げる。悠真がゴーグルを外し、顔をしかめながらも微かに笑う。

連城も血にまみれながら、親指を一本立てて応じた。


だが――その時だった。


ピキィ……ン。


空間に、白いヒビが走った。


「っ……今のは……」


『隊長、次元構造に異常。局所次元に圧力集中……』


「これは……いったい!」


ミシミシィィ……ッ!!


空間が、砕けた。


パァァァァァンッ!!


白い閃光。

揺れる地面

そして通信が途絶した。


---


感想がありましたらぜひよろしくお願いします。


誤字脱字や設定がおかしいなど些細なことでも書いていただけたら嬉しいです

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