13話、捕まっちゃった
港の片隅、照明の届かないコンテナの影。
そこに身を潜めていたのは、カーディガンにチェック柄のスカート、ニーハイソックスという女子高生らしい私服姿の一人の少女だった。
高い位置で結ったポニーテールが揺れ、視線の先には――銀色の髪と狼耳、戦闘態勢の獣人少女。
「……やっぱり、銀狼が、いた」
呟いた声には、安堵と興奮が入り混じっていた。
少女――天城いろはは、学校帰りではない。完全に“この場所”を目指して来ていた。
(この前、港で妙な匂いがしたって言ってた。やっぱり、銀狼がまた来る気がして……)
いろははスマホを構え、ズームを限界まで伸ばす。暗くてブレもあるが、画面の中にははっきりと白銀の狼耳と尻尾。
「……撮れた」
その瞬間――銀狼の前に現れたのは、黒い全身タイツの上に長いスカートを穿き、羽織を翻す異様な装いのエージェントだった。
斬りかかる居合、閃く刀身、飛び交う攻防。
その様子をいろはは固唾を飲んで見守った。
(怖い……でも、目が離せない。あれが……“本物”の戦い)
やがて、銀狼が倒れ込む瞬間が映った。
「……やばい、これ……」
いろはは慌ててスマホを抱きかかえ、物陰に身を沈める。自分まで見つかったらマズい――そう直感した。
そのまま息を潜め、数分後。
周囲に人影が消えたのを確認してから、彼女は素早く港を後にした。
---
その夜、いろははスマホで一枚の画像を加工していた。
画質は粗く、暗い。しかし、そこには確かに――白銀の狼耳の少女が、刀を持った女性と戦っている姿が映っていた。
「……これ、ただの動物コスじゃない。絶対、本物」
SNSの裏アカウントにログインし、投稿する。
《#銀狼発見 #港の怪異 #異世界人説 #秋ヶ原市 #銀狼様マジ神》
画像を添えて投稿ボタンを押すと、数分も経たないうちに通知が鳴り止まなくなった。
---
【スレッド:銀狼再び現る@裏秋ヶ原】
1:い・ろ・は・す ◆Fanclub//l
投稿した者です。画質悪いけど見て。あれ、銀狼だよね?
2:名無し@タバコ裏通り
え、これマジ? 動いてる? 加工じゃなくて?
3:名無しの情報屋
前に見たのも港だった。あの辺、最近やばくね?
4:裏街の噂話
FAIRYってタバコと一緒に出てくる女の子がいるって話……もしかしてコレ?
5:陰謀論者2025
やっぱ異世界あるじゃん。SIDとか出てくるんじゃね?
6:元ヤンの妹
まってこの白い狼耳、ガチで好きなんだけど
7:い・ろ・は・す ◆Fanclub//l
ね? 言ったでしょ? やっぱり“いる”んだよ
8:FilmPromotionTeam_PR
これは映画のプロモーション撮影です。誤解なきようお願いします。
9:FilmPromotionTeam_PR
秋ヶ原市を舞台にした作品の一環です。SNSでの拡散はお控えください。
10:い・ろ・は・す ◆Fanclub//l
深夜に爆速で刀振るう撮影とか、どんなB級映画よwww プロモとか言って誤魔化す気満々じゃんwww
---
いろはは画面を見つめながら、頬を紅潮させていた。
(……私だけが知ってると思ってた。でも、もう誰かが“追ってる”。なら――)
彼女はスマホを握りしめ、決意を新たにする。
(負けない。私は……銀狼の、いちばんのファンだから)
*****
無機質な照明が天井から降り注ぐ。
目を覚ましたミツキ――銀狼は、金属の椅子に座らされ、両腕を後ろ手に拘束されていた。足首にも細くて強固なベルトが巻かれ、まるで“厄介な危険物”のように管理されている。
(……っつ。何があった……)
『やっと起きた? ったくもう、あんたが寝てる間、外に出ようとしても体が動かなくてさー。心配したんだからね、ほんと! しっかりしてよ』
耳の奥に響く声――フェンリル。 ミツキの中にいる“もうひとり”。
(……フェンリル。状況は?)
『見りゃ分かるでしょ。完全に捕まってる。あーあ、やっぱり昼間のあれ、警戒されてたっぽいね。』
室内はコンクリート打ちっぱなしの簡素な尋問室。壁に設置されたカメラが無音でこちらを監視しているのが分かった。
(……ここが、何かしらの組織の拠点か?)
だが、幸いにも“正体”――鏡一樹であることは露見していない。捕まった時の姿はミツキ、つまり“銀狼”。しかも気絶していた。
(やはりこの世界は何かが起きてる……この世界に存在しないものが少しずつ流れてきている。まさかこの世界にも、組織的な者が存在するとは、俺がもう少し警戒してたら……)
考え事をしていると目の前の扉が開く。
「よう、銀狼ちゃん。目が覚めた?」
(こいつ……悠真じゃねーか。)
『こいつ、ミツキの友達じゃね?』
入ってきたのは、軽薄な笑みを浮かべた男子生徒――御影悠真だった。だがその姿は制服ではなく、黒いスーツ姿。既に“陽キャのクラスメイト”の仮面は剥がれていた。
そのすぐ後ろから、制服姿の少女――御影茜が現れる。生徒会長の姿そのままに、扉の前で腕を組み、無言で立っていた。
『あ、やっぱりこの女までいるんだ。』
「姉ちゃんのことは気にしないで。あくまで君が逃げ出さないように立ち会ってるだけだからさ」
悠真は軽口を叩きながら、ミツキの前の卓上にタブレットを置く。画面には、いくつもの地図が映し出されていた。
赤いマーカーが、点々と――都市のあちこちに表示されている。
「これは君が出没したって通報のあった場所を全部マッピングしたやつ。面白いよね。最初は秋ヶ原市内の点が多かったのに、最近は港に集中してきてる。……何か探してるのか、それとも港に何かあるのか」
ミツキは黙して視線だけを向けた。
「それとも、君を誰かがコントロールしてるのかな? フェアリーが絡んでるとしたら、話は大きくなるけどさ」
「……」
ミツキは応じない。ただ悠真を睨み返す。
その沈黙に、悠真は小さくため息をつくと、肩をすくめた。
「ま、無理にとは言わないさ。どうせ、上が来るしね。……ほら、来た」
入ってきたのは、威圧感のあるスーツ姿の中年男性。重厚な体格と鋭い視線を持つ男とその後ろには、知的な雰囲気を持つ女性秘書
「これが“銀狼”か」
低い声で呟き、鋭く観察するような目がミツキを射抜く。
「尋問は我々が引き継ぐ。御影くん、下がってくれ」
「了解」
悠真が手を振りながら退出する。茜は無言のままその場に残った。
鷲津がミツキの前に立つ。
「私は。君のような“特異存在”を調査している部門の責任者だ。今は、ただ事実を知りたいだけだ」
その隣で、久遠が一礼する。
「私は。情報と分析の担当です。あなたに危害を加えるつもりはありません」
ミツキは、顔を記憶に刻むようにじっと見つめた。
(……この人たちは、いったい何者だ?ただ、“警戒”してる。何かの前触れとして俺を捉えてるだけなら……)
今は下手に騒ぐべきじゃない。話を聞いて、情報を引き出す。
尋問室の空気が、静かに、だが確実に変化していった。
まさか――日本に、こんな“特殊部隊”じみた連中がいるとは思わなかった。
誤字脱字がかなり多いと思われます。
それでも気にしない方はどうぞお読みください。




