~曇天の襲来~
そこからの夜はあっという間であった。このような校則破りの経験はあるのか、派生してルール違反をしたことがあるか、今だから言える昔の行動。
図書館でするとは思えない会話の数々を繰り広げる。ほとんど海が話していたが、時々桜雨も同じようなことをしており、その発見はさらに会話を弾ませた。
昼と夜。まるで逆転しているような時間。
「桜雨さんもやんちゃな時期があったんだねー。意外だー」
「私も元をたどれば子どもだ。今も、成長しているとは思えないがね。」
「あーあ、この調子で年取って将来どうなるんだろ」
笑いつかれた海は木造の椅子の背もたれに深くもたれかかり、腕を頭の後ろで組んでは何とはなしに妄想を広げた。桜雨も微笑んだまま、ふと本棚を眺める。
「どうなるんだろうね。」
「大学行って普通に働くのかな」
沈黙。
「、、、私は国センに行く。」
「お!、、、え?」
突拍子がなかった。深い闇に包まれた数々の本をぼうっと見つめながら桜雨は言った。
驚きと疑問が同時にやってくる。
桜雨は西日本から東日本へ引っ越してきた。その理由はいまだ不明。国センへの思いは人一倍強いということは知っている。そして高校を卒業すれば一人暮らしする人間も増える。将来像として彼女が自分をそこに立たせることは何ら不思議なことではない。
だが能力者であり知識も豊富な彼女ならわざわざ東の高校に来なくたって、国センに、少なからず西日本にはいられたはずだ。だがそうはできなかった。つまり詳細は分からずとも、あこがれの場所を諦めてまで東日本に居なくてはならない理由があると考えていた。何より、その憧れの感情も少しばかり歪んでいた。
海はてっきり彼女はこのまま東日本で大学に通うものだと認識していたのだ。
予想外の発言に、組んでいた手を解いては前のめりで机に腕をつく。
「卒業したら引っ越すの?」
桜雨は質問が飛んできてようやく視線を動かした。我を取り戻したかのように。
「え、、、あ、、、あぁ。そうだ。」
とてもじゃないが普通の返答とは思えなかった。まるで後先考えなかった結果、行き詰ったかのような動揺。突発的に国センに行くと発言したと見える。
国センに対し、そこまで知識はなく、そこでの生活もうまく想像できない海には彼女の進路への反応は難易度が高かった。
「そっか、、、いいね」
「君も一緒にどうだい。」
口から漏れ出たような素早い提案。
「え、、、いや、、、でも、、、」
勿論これへの返答も容易いものではなかった。
焦る海。
「でも国センって能力者が行くところでしょ?僕なんかは」
「指導者って役職がある。生徒を導くんだ。それなら能力なしでも、、、やれる。」
いつもとは違う早い口調。
月光照らすその図書館で、彼女は顔を赤らめていた。
高まる鼓動の中、何とか頭を回す。
誰であっても普通、こういった提案に隠された意図がわかる。
海も理解した。だが問題は、普通の提案ではなかったこと。
だとしてもその意図を読み取らざるを得なかった。
無理やり受け取らざるを得なかった。
難問への回答。
「あのーそのー、、、僕と夏祭り行ってくれない?」
「、、、へ?。」
スキップだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「って事が、、、。」
「ぷっ、、、あははははは!!」
「はあ、君は、、、。」
「ごめんごめん。未来の話されて焦っちゃんたんだよね、、、っぷ!あははは!」
「はあ。」
「違う違う!はあ、、はあ、、いやー海君もしっかりしてるなーって、、っふ」
「しっかりって、、、。」
「その子、今まで勘で生きてきたんでしょ?そんな彼に即決させなかったなら上出来よ!、、、っふ、フラれただけかもしれないけど」
「フラれていない!ましてや愛の告白なんてしていない!。」
「冗談冗談ー。夏祭り誘っておいてただの友達で終わるはずないじゃん。海君も良く考えて答えを出したいって事でしょ。だからしっかりしてるって言ったの、、、にしてもミルっちがそんな口説き方するなんて、っぷ」
「まだ笑うのかい。君が急げというからだろう。」
「急げとは言ったけどさーそれは目的と感情がぐちゃぐちゃになるからでー。っていうか、もうゆっくりやっちゃってもいいんじゃない?」
「え?。」
「だってー国センに入ってもらえばいいんでしょ?それならゆっくりやっても問題ないじゃん」
「いや、だから、、、ゆっくりやれば、、、。」
「うはー!やっぱり彼のことー、、、あはー!」
「うるさい!。」
「、、、ごめん。まあ、でも実際焦らなくてもいいんじゃない?気が変わっちゃったらさ、、、他の人でもいいじゃん」
「、、、。」
「ミルっちが認める人がほかに居ればさ。その人にきっとリオンちゃんはついていくさ。彼女の目的のために」
「未来を託せる人は滅多に、、、いない。」
「でも、人を許せる人は案外いるよ。多分ツッキーも。それに記憶は今ないんでしょ?」
「、、、。」
「はあ、、、だーれがミルっちを許さないか!そんな奴私が許さない!懲らしめてやる!」
「、、、っふ。」
「へへー、、、今まで能力者のために色々やってきたんでしょ?それなら今ぐらい恋愛しちゃったっていいじゃーん。ね?」
「恋愛って、、、。」
「むふふー。まあ、無理にしろとは言ってないんだよー?焦らなくていいってだーけ。ゆっくりやろうよ!」
「、、、そうだな。少し焦りすぎた。」
「ふ、、、ふふ、、、ふふふ。焦り、、、焦りすぎだよ、、、さすがに」
「笑うな!。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はあー」
すっかり暗くなった夜。いつも以上の暗闇だ。
警備員に見つからぬよう必死に隠れては下校道。緊張はほどけて先ほどまでの会話がふとよぎる。
「焦ったー、焦っちゃったー。変なこと言っちゃったー。祭り一緒にいこだなんていっちゃったー!だって、だあって!あんなこと言われたら誰だってー、、、どういう意味があったのかな、、、あれ」
いつにもまして大きくなる動き。人が見ていれば恐らく通報ものであろう。
ただそれでも心が体を動かすのを止めなかった。
回る血液で熱くなる全身。ただそれでも、奢った紅茶の冷たさだけは手のひらに残っていた。
電灯にともされてはリュックの重みに潰されて体を丸くする。手のひらを見つめる。
「、、、結局。ちゃんとした返事、もらえなかったなー」
勇気と混乱によって振りぼられたあの誘いに桜雨はあぁ、とだけ呟き、共に雰囲気に耐えられなくなってはその空間を後にした。
承諾の言葉とは到底受け止められなかった。
しばらくその猫背で手のひらを見つめるポーズを止められずにいた。
人が見ていれば恐らく通報ものであろう。
「はあ、、、」
ため息を。
コツ
また一つ。
コツコツ
「帰るか、、、」
コツコツコツ
ふと見上げる。
「、、、え?」
そこにはフードを被る謎の人物が。
推定180㎝はいく。電灯による逆光でその顔を正しく見ることはできなかったが、全身黒い服で、人通りの少ない郊外にて出会うには恐怖を覚える服装をしていた。
「やあ。初めまして。」
「、、、はい?」
声をかけてきた。
姿勢を中腰に、逃げる準備を整える。激しい鼓動がさらに加速した。
「どなたでしょうか」
「どなた、か。彼女の知り合いとでも言っておこうか。」
そう述べては歩み寄ってくる謎の人物。
しかし、まだ逃げられるほど十分な距離はある。恐る恐る海は後ずさりした。
「彼女?誰のことですか」
おおよそ彼女が指す人物の予測はついたが個人情報を出さないためにごまかす。
「さっきまで話していた彼女のことだよ。よく知っているだろう?友達なのだから。」
知り合いと言いつつも桜雨のことはあまり知らない口ぶり。予防が良く効いた。
「知りません。これ以上話すことはないです」
恐る恐るポケットのスマホに手を伸ばす。
「通報する必要はないさ。彼女について知ろうとも思わない。」
おもむろに近づいてくる。
「ただ、伝言。いや、挨拶がしたいだけさ。」
彼の発言に気を取られているともう逃げられる距離ではなくなっていた。顔も、その姿も見えてくる。
まくられた袖。腕には何やらやけどの跡が。そのほかにも傷跡が目立つ。不審者であれど容姿端麗。
ガウスがかかったような低い声でその挨拶とやらをつぶやいた。
「初めまして。私の名前は十濠。」
覗き見るように腰を曲げ、こちらに顔を近づけてくる。すぐ耳の隣で記憶に残る単語を囁いた。
「上層部だ。」




