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~美しき花、実を結ぶ~

「いい人を見つけたんだね」


「急に何を。」


「一目でわかるよ~。そんな笑顔で帰ってきたの初めて見たもーん」


「まだ決まったわけでは、、、ない。」


「ほらやっぱいるんじゃーん。決め手は?決め手」


「別に。勘かな。」


「お!なら信憑性高いねー」


「高いのか。むしろ私は。」


「だって何百年と生きてきたんでしょー!そんな中で唯一きゅんと来た人だよ?その勘以上にあてになるものはないけどねー。それに私も大体勘で決めるから。それの優秀さは知ってるよー」


「恋愛感情ではない。はあ、君は、、、どこか彼と似てるな。」


「え、私に似てるなら信用に足りるじゃん」


「彼の悪い部分だけを抽出しているようだ。」


「ごめんなんて言った?(怒」


「勘はやはり頼りにならないか。」


「ごめんごめん、なんて言った?さっき(怒」


「お食事の準備ができましたよ!」


「さあ、晩御飯でも食べようか。」


(#^ω^)



ミルと音葉、ツキ。お花畑の上より。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「実は昔、数年西日本に住んでいたんだ。」


昨日の最後の質問。その答えがテスト勉強中、急に返ってきた。金曜、太陽の日はかろうじて見える頃、数人の金管バンドの練習音が微かに聞こえるいつもの席。


「それに対して質問していいの?」


海は前の会話が原因で、わざわざ聞かなくてもいいようなことを不貞腐れたように唇を前に突き出し言い放った。

それに対して桜雨はわずかに口角を上げ答えた。


「掘り下げるは禁止だ。」


「じゃあ西日本のどこに住んでたの?」


「掘り下げすぎだ。」


「これもダメ!?」


「冗談。もともとは京都の郊外。そこから愛知の下の方に引っ越したね。」


掘り下げない。その制約のせいか、話に夢中になりすぎないよう鉛筆を走らせながら会話をする。


「東海地方ってことはー、、、国センがある場所?日本史でやった気がする、、、気がする」


記憶のはるかかなたに浮遊する知識を探すためにシャープペンシルをあごに当てる。結局、でてきたものはあやふやであった。


「正解。」


桜雨は相も変わらずテスト勉強を続けていた。


「あれ、国センって高校として入るんだよね、確か。その前に引っ越してきたってこと?親の仕事の関係で、とか?」


「、、、。」


無音が続き、触れてはいけない話題に触れたのではと、再び走らせていたペンをピタッと止め、すぐさま桜雨を見る。


「、、、そんな感じかな。」


セーフのようだ。それでもこれ以上は言及してはいけない、そう感じとった。ようやく友と呼べる程度の会話数で家族のことについて聞くのはノンデリカシーであることにもう一度ペンを走らせて気が付く。海の家族が愉快すぎるが故、すぐに聞いても良い話題であると勘違いしてしまったのだ。ましてや引っ越し関連だ。一触即発の可能性もあった。


「、、、国センのことはどう思ってるの?入りたかった?」


「、、、。」


再びペンを止め、彼女を見る。ここまでくるとおふざけの類だ。彼女が笑ってくれることを期待して勢いよく顔を動かす。


「、、、。」


彼女はあごに指を当て、真剣に考えていた。海の質問について。

勉強では一切悩まない彼女が必死に回答を探す。単なる知識ではない、感情を探し出す難しさは海自信良く知っていた。ゆっくりと考えていい。そう述べるように海は表情を戻しては、もう一度ノートと向き合い、ペンを滑らし始めた。


しばらく経ち、桜雨もペンを持って、ノートに問題集の答えを順々と書き始めた。


「入って、、、行ってみたくはあった。簡単には言い表せないね。能力者ばかりで、私は向こうの方がずっと馴染めるのかもしれない。そういった環境に身を置きたい願望であったり、、、ずっと見てきたが故の憧れであったり、、、何もかも華やか、家も土地も。そして戦闘あるいは勉学が突出している。ある種、妬ましさであったり。」


声のトーンからしてわかる。もっと、もっと様々な思いを国センあるいは西日本に馳せていると。

海はそんな言葉を黙々と受け止める。海は気づいた。それが本心であるとともに、引っ越した理由が親の仕事でないことも。その他諸々の嘘も。


しかし海は彼女の本心を知れて内心大変満足していた。そこら中にある嘘をかいくぐってそれにありつけたからであろうか。どうであれ、本物の彼女を知るには、彼女自身を知ることではなく感情を知ること。さらに深く、ずっとずっと奥を聞いて、考えてもらうほかないと考えた。

海も桜雨も気づきやしない。どちらも互いの奥を、(われ)を知ろうとしている。全く異なる動きをする鏡のような関係に。


「そういう思い出とか、自分の感情が動かされる場所。嫌悪(けんお)であっても、、、いいよね」


桜雨はそれを聞き一瞬、ペンを止めた。また動かし始める。


「昔塾に行ってたんだ。そこでは僕、いじられ役で、、、今もか。当時はされるがままって感じで、その空間が好きじゃなかった。でも勉強する場所だったしもともと好めるような場所じゃなかったのかもって思ってしばらく通ってたんだけど、何となくやめようって決めて。でも、先生に言ったら冗談だと思われた。それが広がって、やめるって言ったこともいじられるようになってからは、、、多分、苦痛だった。勘で入っては、勘で出られなくなってた。」


桜雨はペンを走らせ続けた。もう金管バンドの音は聞こえない。


「、、、でもさ。久しぶりにそこに行ったら色々学べたんだよね。いじりを笑いに変えられなかった僕のしょうもなさとか、思考の単調さ。それにあの子たちは悪意を持ってなかったことも、、、景色を見て思い出した。なにより、当時は曇ってて見えてなかった楽しい記憶に気が付けるんだ」


「、、、。」


海はペンを止め、前を見る。


「ごめん。桜雨さんには、」


「関係ある。、、、なにもかも。関係がある。」


怒っているようにも聞こえるその声。ノートにまとめるのを止めないまま、海が言おうとしたことを予測し、口止めした。


前に向けた視線をノートに戻す。


「少し黒い部分があるとさ、、、誰もほかの白さには気づけないんだなって、、、みんなそうなんだと思う。でも、黒い部分がないと思い出してもその白さには気づけないんだよね。これは、全部に当てはまる気がする。」


明らかに国センの話からは逸脱していた。行ったこともないなら白も黒もない。桜雨は遠くから眺めた場所への感情を述べていただけ。ただ、言葉を遮った彼女のセリフから、彼女にも似たような場所があるのではないかと感じ、それについて自分の意見を述べた。そんな言葉使い。


関係のない話をするも、落下位置をしっかりと定め、綺麗な着地をする。国語のテストでのみ赤点をわずかに回避している点。それ以外の科目が全くうまくいっていない点。今回の話でこれらに合点がいった。物事の本質を見る力、言葉にする力はあってもそれに追いつけるほどの理解力がない。応用が出来て基礎が出来ていない。桜雨の言う海の頭の良さはそう言った特殊性だろう。


しばらく両者、考えるような沈黙を貫き。テスト勉強を行った。時々頭を抱える海に桜雨が微笑む。


もう海の”できてない問題集”が終わりに差し掛かってきた。


「君に、、、純粋に良い記憶として残っている場所はあるかい?悪い意味はなく、ただ心が動かされた場所。」


桜雨の方から話題を振ってきた。国センへの気持ちを説明した時、本来たどり着くべきである会話であった。会話の軌道修正、まさにそれだった。


それを察したのか、海はペンを机にドンと置き、その机に向かって大きなため息を吐いた。


「やめてよー。自分で色々語って、めちゃくちゃ恥ずかしくなってたんだからー」


それをくすくすと笑う桜雨。弁明した。


「違う。君のあの話を聞いたうえで質問したくなったんだ。言っただろう?あの話には私も関係があるって。本当だ。」


読み通り、国センではないほかの場所に、海にとっての塾のような場所が桜雨にもあった。

だとしても海はあの語りに嫌気がさした。決して自分の話に惚気ていたわけではないのに。


まともに口を開いてはくれないことを感じ取ったのか、桜雨は自分の質問に自分から答え始めた。

そうでもしなければ会話が始まらないと思ったのであろう。


「私は花畑が好きだ。花が、、、好きだ。それぞれ言葉を持ってるが、そんなもの花にとっては知ったことではない。それでも意味を持たせたくなるほどに美しいんだ。虫や鳥をひきつけ、必要な仕事をただ行えばいいだけなのに。無価値で、透明な美しさ。世界で最も、裏がない。」


ペンを胸の前でクルクルと回しながらそう語っては頭を抱えつつも真剣に聞く海の顔を、君の番だと言わんばかりに見た。最初からこれが目的であったかのように。気づけば海はテスト勉強が始まってからというもの、次々と心の内を自分から吐かされている。それをするためのこの場なのかもしれないが、そこまで海の頭が回ることはなかった。なにより、両者ともにこの場を楽しんでいる。


「あー、あるなー、明確に。僕昔よく家族でキャンプ言ってたんだけどさー。そのはずれにある廃墟?団地みたいな感じなんだけど誰も住んでなくて、小さいけど森に囲まれて誰もいないさびれた空間?みたいな。あれを見た時はたまらなかったなー。あのーなに?人が過去に住んでたっていう事実の上で?もうだれもいない現在っていうか?いろんな歴史が見えるからか、古びてたのに建物も地面も、そこら辺の水も、、、綺麗だったなー」


思い出の景色を懐古しては、腕を組みながら天井を見る。物思いにふけっているのだ。それを桜雨は片方の口角を上げ、小馬鹿にしたような表情で見る。


「え?なにその表情!また自分語りしてるな~とか思ってる?!それとも僕が、げ~むせんた~、とか言うとでも思った?残念でした!」


指をさしながら若干の照れ隠しで大げさにそれを動かす。その動きと発言に桜雨はもう片方の口角も上げ、ゆっくりと頭を横に振った。


「違う違う。君らしすぎたんだよ、君の回答が。それに、、、私も。」


不服そうに首をかしげる。あまり桜雨の回答を飲み込めていないようだ。


「それってどういうこと?」


「掘り下げすぎだ。」


「え?!」


「あとそこの問題間違えてる。」


「えぇ?!」



テストは土日を挟んですぐ。余った問題集をパパっと終わらせ、今日はお開きとなった。

赤点の心配はなさそうだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あのーそのー、、、僕と夏祭り行ってくれない?」


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