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~二人、飛び方を学ぶ~

「ふー疲れたー!!」


「相当勉強したね。」


窓際、前から三列目、席替えで変わった桜雨の席の横、人の勉強机を勝手に使い行っていたテスト勉強にようやく節目が付いた。


「ほんどにあり゛がどうー!」


椅子を後ろ脚だけで支え、欠伸をしながら演技のように強調した感謝を伝える海。それを止めたタイミングでハッと思い出したかのような顔をする。


「ん゛ーーは゛ぁーー。あ!そういえば能力者について調べたよ!あれすごいね!」


いつも以上に暗い校舎。二年の教室で、今度は海が自ら椅子を桜雨の方へ向け、勢いよく伝えた。おそらく元気な鼻息も聞こえていただろう。先ほどまでの退屈な欠伸とは打って変わって興奮していた。前回とは異なり、いつもの友に見せる陽気な海であった。


「、、、あぁ。」


肘を机に置き、右指先と目線を天井に向けてくるくる回す。


「めちゃくちゃドカーンって感じで!かっこよくて!」


「、、、それで。」


海を若干引いているような眼で見つめる桜雨。以前よりも表情が変わりやすくなった。そんな印象を受けるが、それを感じさせる最初の表情が困惑のようなものであったため海も一旦落ち着きを取り戻し、指はそのまま目線を彼女に向けた。


「なーにもわからなかった」


それを聞いて桜雨は若干、安堵したかのような溜息を吐く。少し下を向いては表情を少し戻して海に問う。


「興味をそそられてしまったかい?」


「ん?うん!」


違和感を覚える物言いに多少(つまづ)きながらもすんなり答える。桜雨は再び表情を変え、立ち上がっては窓際をのそのそと、後ろに連なる机に触れながら歩き出した。



「そうか。」



小さく呟きながら。


以前の決断の話も相まって、彼女の一挙手一投足が気にかかる。何を考えているのか、そこまでは読み取ることができないが、マイナスな感情であることがわかる。能力者に興味を持つこと、それを勧めることを勘で決めたこと。


なぜ考えて決めなかったのか。少し焦っている。そんな想像をせざる得なかった。

先ほどまでの少しばかり居心地の悪い空間から一変、気まずさばかりを感じる長い沈黙が流れた。海はこの話題が彼女の唯一判明している地雷であることはなんとなく察していた。だがいつかは聞かざるを得なかった。話のタネを出した時、前触れもなく元気になったのは、本能的にその地雷をゆっくりと踏もうとしていたのかもしれない。


その後ろ姿に海はどんな言葉を投げかければよいのかはわからなかった。しかし、そんな曖昧な気持ちより一層、能力者について知ること、なにより彼女にいつも通り話してほしいという感情が勝る。

意を決し、彼女の言葉を使って、伝えた。


「後悔するなら一緒にしようよ」


昼と夜、混ざり合ったかのような声。桜雨は歩くことを止めて、そのまま立ち尽くす。何かを考えているかのように。しばらく。


そうして首だけを動かしては海を横目で見た。


「君は、、、ころころ変わるね。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「君は、、、ころころ変わるね。」


彼に背中で語り掛けた。


「人は、、、今の子は、、、皆、君のような変わった優しさを持つのかい?」


小さく、弱く、問いかける。

海にはその声が少しばかり届いていないようだ。


「なんて?」


「私が今まで普通の生活をしてきてまともに話したのは君が初めてだ。寝ても覚めても避けられるばかり。関わる人が間違えていたのか?住む場所が間違えていたのか?」


今度は彼に届いた。感情が入った声を聞くのは初めてだったからか、動揺している。涙ぐむような声。


「私が間違えていたんだ、、、なのに君は。なんで君なんだろうな。数回話しただけなのに。」


もう一度手を机に置き、生まれて初めての感覚に、唇をかむ。

海はそれを見て、聞いて、もう戸惑っていなかった。それどころか落ち着いている。

彼の目は、まるで自分を見ているようだった。


「僕は、、、今の桜雨さんが好きだ」


「、、、。」


椅子に座ったまま頭を掻き、彼は話を続ける。


「そりゃ数回話しただけだけどさ、、、僕の勘と桜雨さんの勘。どちらも互いを指したんだ。それを否定したくない。なにより、、、そうやって決めたのは僕ら、でしょ?」


その言葉を受け、ゆっくりと窓を見る。それに続いて海も。暖かくもぎこちない空間、その静寂を気持ちの整理ができたのか桜雨はようやく断ち切った。


「、、、ふぅ、、、、、君は、どの選手が気に入った?」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「君は、どの選手が気に入った?」


雑談が再開した。桜雨は依然窓を見ては立ったままだ。声のトーンは戻っていたが、表情は一段と柔らかくなっていた。


それを見ては自ずと海の表情も明るくなる。彼女のためにも何とか隠そうと鼻の下を横にこすっては、肘を椅子の背中にかけ、スマホを取り出した。


「そこまで詳しく見れてないから名前が出てこないなー。あ!この人!ゆうり?って呼ぶのかな。あと丹後?って人とか、観阿って人とか!かっこいいなーって!」


「どれもいい選手だ。最初と最後の人は君と同級生だよ。丹後くんも魅力のある戦い方をする。国センと西桜、、、優秀校だ。」


スマホで能力者紹介ホームページを開き彼女に向けるが、それを見ずとも熟知しているように語った。

窓を見たまま椅子に近づき、そのまま着席する。


「よく知ってるんだね」


ひょんとした顔で桜雨を見つめる。エネルギーを多く持っており、知識も深いことから知っていても不思議ではなかったが、いわゆる趣味のような知見を持っていることが若干意外であったのだろう。そのギャップに驚く海。


そんな顔をされてようやく海の方を見た桜雨。その表情にさらに口角を上げた。


「いや、、、こうやって話すのは初めてだ。」


口角を上げたのは面白さ半分で、恥ずかしさが半分であったのだろう。少し下を向く。


「いいね。桜雨さんの趣味!もっと聞かせてよ」


桜雨にさらに顔を近づけ、ニコニコの笑顔で聞いた。その顔は太陽のようである。

そこからの時間は早かった。


いつから、なぜ興味を持ったのか。エネルギーを持つ者から見える世界は違うのか。西日本の世界はどう異なっているのか。そもそも能力者とは何なのか。


聞くこと聞くことすべてに答えが返ってくる。そんな海の表情はもちろん、桜雨も楽しそうに質問に答え、話し出す。


「能力ってどうやって使ってんの?力加減とか?やっぱり念能力的な?」


「まあ、そんな感じかな。言葉では、、、そうだな。説明しづらい。パって、感じかな。」


「へー!パっか。僕でもできるかな!」


「そうだね。できるかもー、、、知れないね。」


「適当じゃない?」


小さな教室の窓際、暗闇で小さな笑い声が零れる。

独りの少女と一人の少年。ありふれているはずだが、初めての経験だった。


「国センは、素晴らしいよ。何もかも綺麗で見ていて飽きないんだ。私も、、、君も気になったら色々調べてみるといい。」


「うん、わかった」


「、、、。」


「、、、」


「桜雨さんはさ、、、西日本に行かないの?」


先ほどの桜雨の言葉。詰まったところに違和感を覚えた海はふとそう聞いてみる。能力者の話で盛り上がったが、能力者であろう桜雨自身の話はほとんどしていない。そこからくる申し訳なさからその質問をしたのかもしれない。やはりまだ、遠慮する部分はあるのだろう。


「、、、。」


朗らかな表情のまま沈黙を守る桜雨。ふと立ち上がっては鞄を持つ。


「暗いし。もう帰ろうか。」


突拍子のないセリフであった。それを聞いた瞬間冷や汗をかく海。その話題が本当の地雷であったと本能が気づく。勢いよく踏んでは、すぐさま謝った。


「あぁ!ごめん。その、悪気はなくて!聞きたくなっちゃっただけで!」


桜雨はそんな海の姿を見て優しく微笑む。


「別に謝ることじゃない。何とも思ってないさ。ただ少し、、、ね。」


微笑んではいるがどこか慣れていない顔つき。女子の言う、何とも思っていない。これ以上に男子に刺さるものはなかった。急いでもうひと謝罪を行おうとするが言葉が出てこない。立ち上がって両手を机に付けては脳をフル回転させていた。そうこうしているうちに。


「むしろ感謝しているよ。」


そう言っては教室を後にする桜雨。


遅れて海も後をたどった。


「本当にごめんなさ!、、、ってあれ!どこ?」


そこにはもう彼女の姿はなかった。海は急いで帰るほど彼女を怒らせたのだと思い、急いで荷物の支度をしては追いかけた。


「桜雨さーん!あれ下駄箱にもいない!外かな」


靴を履き替え、勢いよく校舎を飛び出したその瞬間。


「冷た!!」


右の頬にひんやりと冷えた缶がぴったりとくっ付いた。桜雨が校舎の壁にもたれかかっては差し出してきたのだ。


面食らう海。そんな彼を目を細め、面白がっているような表情で見つめては、そのキンキンに冷えた缶を指先だけで横に振って受け取ってとジェスチャーをする桜雨。


「本当に怒ってないさ。ただ、明日話そうと思っただけで。すまないね、言葉足らずで。これは私からの感謝のしるしだ。」


あっけにとられては顔を赤くする。夏で気温が高いからか、急に走ったからか、はたまた。

ただ缶を両手で受け取ることしかできなかった。


彼女は言う。それが私のおすすめだと。両手で受け止めたその間を見ると、そこには紅茶の文字が。非常に彼女らしいものであった。それを見ては、安心したのかふふっと口元が緩む。


コツコツと足音が聞こえ、ふと正門の方を見るともう桜雨は帰路に着こうとしていた。感謝の言葉を伝えようとしたその時、彼女は振り返って言う。


「それじゃ、また明日。」


微笑んでいた。まるで素敵な景色、そのもの。

手を振っては鞄を後ろで持ちながら帰っていった。


未だあっけに捕らえられ続ける海。赤くなった顔で必死にふさぎ込んだ言葉が漏れだす。


「、、、、、かわいいー」


もう見えなくなった彼女の後姿を見つめ続けては缶を開け、一口。





「なにこれウマッ!!」










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