表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/38

~心、始めて開く~

「興味はある?能力者について。」


暗い教室。白い学生服が二人。青春とはまた異なった雰囲気を彷彿とさせていた。

海は不思議そうに廊下に向かう桜雨を見ていた。彼女は振り返らずに言う。


「次は夏休み前のテスト勉強で話そう。」


カタッカタッ


職員室にしか人がいないような学校でただスリッパの音が響いた。


ついに一人になった海は唇をプルプル震わせながら、何も理解できていないような顔、声で。


「ほんとに賢くないんだけどな、、、」


表情は変えずに腰に手を当てる。


「最後ついていけなかったし」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

時間がたつのはあっという間であった。

それは海の学校が部活が、生活が充実していたことも要因であっただろう。


「海ちゃんどうしたのー!そんなにボーっとして」


セリフのわりに大きな声。気にかけていそうだが、質問の答えを聞く前に机にご飯を置き、エプロンを付けたままパクパクと食べ始める。やはり母だからなのだろうか、どこかふわふわした部分が海に似ている。それと顔も。


「あーいや、別に。お父さんは?」


「今日も部下と飲んでくるんだってー元気ねー!あの年で!」


「ほんとにね」


あんたもだよ。とでも言いたそうに口角を上げ、ご飯を食べ進めた。


ガチャ


「ただいまー!!おかえりありがとうー!!」


「あらー!今日”も”早かったのね!」


「おうー!部下に返されたぜー!!はっはー!」


酒が好きなのに酒に飲まれるのが早い父。酔いが早すぎるがゆえにすぐに後輩の手によって帰らされる。父の飲みを断らず、家にすぐさま返してあげるとは、出会ったことがなくても優れた後輩に囲まれていることがわかる。嫌々なのか、父との飲みが楽しいのか。海は後者であれと切実に祈った。


「おう!海!帰ってたかー!」


「うん、おかえり」


「なんだー!今日もテンション低いなー!!やっぱり何かあったか!!!」


「そっちのテンションが高すぎるんだよ!」


やかましファミリーの完成だ。海の静かな一面もこの家庭環境合って形成されたのかもしれない。二人の盛り上がりについてけず、ただツッコミの役に回る。そうだとしても、最近の海の調子が悪いことは事実のようだ。そのことを酔っていても察知する父、察して話を聞こうとする母。彼らの人を見る目に狂いはないのだろう。


「ご馳走様。もう9時だし。静かにしてよね」


そう言っては階段を上がっていく。関東の田舎は田舎といえども家賃はそう安くない。それでもこれほど立派な一軒家に住めているのは父の仕事、仕事ぶり。母のサポートが優れているからであろうか。そうは思えず玄関で騒ぐ二人を後ろに首をかしげながら自分の部屋に向かった。


「海は自分の生きたい道を進めばいいんだー!!なりたいようになれー!!」


「うるさーい!!」


扉を閉める前にやかましい父にそう叫んだ。恐らく怒りよりも喜びの方が勝っていただろう。そんな声であった。


海がどこかうつろなのはやはり先日のことがあってだろう。あの日以来、少し笑った桜雨の顔が脳裏に浮かぶ。


海には勿論恋愛経験があった。だからこそ、今の心情が恋愛やそれら類のものではないことがわかる。


それよりずっと深いものか。はたまた、全く異なるものか。そんな複雑な心情が彼女の言葉とともに頭の中を駆け巡っていた。


「興味はある?能力者について。」


能力者がいることは日本人としてさすがに知っている。テレビからSNSの普及などによって海外人気も今はとてつもないことも。昔は恐れられていたというのに。


そんなことよりもそれ自体の話が桜雨の口から出たことが引っかかっていた。皆の言う彼女の妙なオーラ、恐らくエネルギーと言われているもの。只ならぬ雰囲気や、冷静沈着で余裕がある点まで。能力者であるといわれても何ら不思議なことではない。むしろエネルギーを感じられないにしろ海自体彼女を能力者だと思って会話してきた。


そんな彼女が涙を流し、決断が差し迫っていたかのような口ぶり。勘に頼った結果があの言葉。

あの言葉に彼女が涙を流すほどの価値があるとは思えなかったが、それでも想像を試みるほかなかった。


「能力者、、、かぁ」


興味がないわけではなかった。ただ、今の生活に満足、あるいは疲弊した結果知ろうとも、調べようとも思わなかった。ニュースで天気予報を見るついでに選手のインタビューを横目で見る程度。周りに能力者の熱狂的なファンが居ても、量はそこまで多くなかった。能力者という自分とははるかかけ離れた存在の試合を見るくらいならサッカーの試合を観戦し、その喜び悲しみをあの三人と分かち合った方が断然面白い、と考えていた。


「、、、調べてみ見ようかな」


高校に入学後、いらない、どうせ使わないと断り続けたが父母の強制甘やかしによって買ってもらい、渋々サッカー観戦とNE〇FLIXぐらいにしか使わなかったパソコンを広げる。桜雨との会話の重さ、初めて能力者について調べる緊張からなぜかスマホで調べる気にはならなかった。


「なにこれ」


衝撃的であった。しばらく下にスクロールし、ようやく見つけた国センのホームページを開いた瞬間、その校舎の美しさや優秀な選手の多さ、暴力的な表現によるニュースでは映し出せない試合の様子が様々な言語を通して一気に展開された。試合の内容が内容だ。彼らが恐れられてきた歴史も相まって、調べないと知ることが出来ないような歴史ばかりであった。


とてつもない速度で戦いあう選手たち。攻撃によって結界ははじけ、地面は揺れる。エネルギーが見えなくともその衝撃、それによっておこる風、動画を見るだけでも、ほんの少し覗いただけでも、それらを十分に感じられた。恐れる理由とともに、世界がなぜ彼らに夢中になるのか、一目見ただけで分かった。


「すごい」


サイトに夢中になりながら呟く。気づけば無我夢中でパソコンを触っていた。サッカーの試合がちんけに見える戦いの数々。それらは海の人生によって作り上げられた常識や認識を一気に崩し、壊していった。


アニメやドラマと同じ。ある種それは人々の憧れであり、遠く届かぬ夢でもあった。それらと違うことは、そんな彼らが現実に居て、自分たちと同じ姿で戦っている、同じ人間であるということだ。それが故に彼らに夢中になるあまり他のことをおろそかにする人、これにはなれぬと人生を諦める、捨てる人もいた。それでもこの映像は世界を巡った。そういった点では東日本のメディアはうまく情報を操作できているのかもしれない。


海もようやく、能力者が自分とはかけ離れすぎたものではないことに気づくとともに、アキレスとカメのような彼らとは絶対的な壁があることを知った。


興味とともに、心のモヤモヤも募っていく。

それらを解消する方法を海はただ一つしか思いつかなかった。


「桜雨さんに聞こう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ