~草は枯れ、菖蒲咲く~
「泣いてる」
夕日すらも沈みかけている教室、海はボソッと呟いた。そんな声は桜雨 茉央に届いているはずであったが、彼女はピクリとも動こうとせずただ茫然と窓を見つめ続ける。足音に気を付けようが、声を押さえつけようが、意味はなかった。彼女は海の存在に気づいていたのだ。
部活の音ももう静まり、黒板上の時計の音だけが仄暗い教室に響いた。
カチッ、、カチッ、、
不思議な景色にあっけを取られたのか、はたまた妙な神秘性を感じたのか、海はそれ以降言葉が出ず、ただ立ちすくむ。
動きがあったのは体感そう短くもない時間がたった後であった。のっそりと椅子の角度変えずに、体だけを海の方へと向ける。その顔は微笑しつつも闇を覗いているような眼であり、海の足元を見つめていた。
「少し、、、」
「話をしようか。」
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風が吹き荒れる中、高低差のある二つのビルの屋上。
液体のような柔軟性を持ちつつも、固体のような硬さ、鋭さを持つ物質と宙を舞う双剣の神器がとても常人じゃ目に負えないような速さでぶつかり、競り合っていた。
カイリは必死に液体を観察し、一つ一つの攻撃を何とか凌いでいる一方、ミルはただその景色を上から明らかに慣れていないしかめっ面で見つめていた。
「君が、クッ、、、君が!、、、君がやってないことはわかる!!、、、でもなんで!どうして!、、、ハァハァ、、、そんなの受け入れて、、、結晶人で、、、学校で、、、」
そんな状況でもなんとか足を前へと進めるカイリ。聞きたいことが多すぎたのか、その言葉は途中で様々な方向へばらけてしまっていた。ミルに少しづつ近づく。そうすれば聞きたいことを聞いて、話したいことが話せるような気がしたのだ。昔のように。
近づくごとに攻撃のぶつかり合いは激しくなり、風も彼らをより一層ひどく襲った。
夜空に吹き荒れる雨、ビルのコンクリートに鉄。暗く悲しい同系色が点々とミルの能力によって彩られては壊れていく。
ふとした瞬間。
ザクッ
カイリの神器がミルの左肩に大きな傷をつけた。
血が流れる。
それを見てはカイリは急いで神器を止め、ミルも遅れて攻撃を止めた。しかしそれでもカイリの身には傷一つついていない。
「これは、、、違くて!!」
「いいんだ!、、、これでいい。」
自分の肩についた血をじっくりと眺める。
その目はすこし潤んでいた。
「少しは、、、面白くなってきた。」
少しづつ、ゆっくりと、大げさに、後ろに下がっていくミル。血の出ていない反対の腕を白衣のポケットに入れ、手のひらよりもずっと小さい物質を取り出した。
それは綺麗な立方体をしており、ミルの瞳のように美しく、光り輝いている。一つの角にはネックレスのごとく首から下げられるようチェーンがついていた。
「これを壊せば、、、大量の結晶体が領域外に放たれる。」
「え?」
「そうすれば、、、恐らく被害は甚大だろう。今夜、今夜中だ。タイムリミットは。それまでに私を止めなければ、、、分かるね?」
「なんで!!、、、なんで?、、、なんでそこまでして、、、、、昔の君はそんなんじゃなかっただろ!!」
顔をゆがませながら必死に叫ぶ。止めるしかないが止められない。様々な感情に記憶が入り混じる。そんな彼の必死な声はミルの小言一つであしらわれた。
「、、、君が変えてくれたんだ。」
その声を聞き、顔を上げたころにはミルは背を向けていた。夜の大都会、最後の言葉を言い残す。
「この先で待っている。君と私の、」
「最後の楽園だ。」
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「少し、、、話をしようか。」




