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強欲なギャンブラー

手を両サイドのポケットに入れ、話しかけてくるミル。その姿はどこか気さくに見えたが、遊里は依然として警戒を解くことはなかった。眉を寄せ、ミルの話を注意深く聞く。


「会うのは二度目だが、、、前回とは見違えるほど成長しているようだね。あの結晶体もかなり強敵のはずだったが、、、感心するよ。なぁに、そう気構える必要はない。私はただ、”あること”を伝えに来ただけさ。」


そう言っては近くにあったソファーに深く座り込み、手までも体の後ろでつけた。敵の前でするにはあまりに無防備、どうやら気構えなくてもいいという言葉は疑う必要がないようだ。


(・・?


顔をかしげる遊里。”あること”が気になるらしい。


その表情から察してか、話を続けるミル。


「といっても、すでにユナ辺りから聞いているだろうがね。私の言葉は信憑性に欠ける。あの子は優しいから、、、手を回してくれているだろう。」


話の前半に心当たりがあるのか、遊里はハッと表情を変えた。


「やはり、聞いていたんだな。」


そう言っては姿勢を前傾に変え、手を組む。声の高さは変わらなかったが、仮面越しでもどこか深刻さを感じ取ることができた。


「そうであるなら話は早い。彼女からどう聞いたかはわからないが、要点は一つ。」


唾を飲み込む遊里。


「海君を全力で守れ。」


瞼と瞳孔が一気に開く。遊里はどうやら大変驚いているようだ。事前に話を聞いていると考えていたミルは頭を少し傾げる。遊里がそんな反応を見せるのも無理はない。ミルを討伐しに向かう前の夜、あの廊下でユナに言われたことはこのようなものであった。


「もしミルに何か言われたら、彼女の言葉を信じたほうがいい。もしそれを拒む人が現れたなら、、、最悪、、、手に掛けたってかまわない」


もちろんそんな怪しい言葉を鵜吞みにするつもりはなく、むしろその言葉からユナがミルの協力者であり、今回の事件についてもミルのサポートをしているとも考えた。今までのミルとの会話から二人の関係が深いものであるということも確認が出来ている。


拒む人、その人物について深く考えはしなかったが、私と協力しよう、私たちの戦いに手を出すな、カイリの能力を教えろ、そんな相手(ミル)にとって有利な要求を突き付けてくる、そしてそのために自分をここ(領域)に呼んだのだと予想していたのだ。


そんな予想は大きく外れた。あまりに想定外であったため、自分の耳を疑い、眉を八の字にして大きく首を傾げる。


「おや、その調子だとユナから全ては聞いていないようだね。(ミル)を手伝え、程度かな、手回しは。」


一旦、肯定の意で頷く遊里。


「そうか、なら説明しよう。」


そう言って立ち上がるミル。手を後ろで組み、歩きながらこう続けた。


「私がなぜこのような要求を提示するのか。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

今現在、既視感のある楽園にいるカイリ。


足元に流れる小さな川、見る限りに咲き乱れる花。そんな絶景を前に、今まで急いでいた足もゆっくりと進めることしかできなくなった。


「、、、やっぱり」


少しだけ申し訳ないという気持ちを抱えつつ、花を踏みつぶして先へ行く。


(この景色について話したのはいつだっけ、、、寒い風が吹いてた夜?、、、懐かしい)


心の中で、とある頃を思い出そうとするカイリ。国センに来てからの様々な出来事がそれを妨げる。


(初めてちゃんと会話したのは、、、みんなが居なくなった後の教室、、、)


サッサッ サッ


(二人っきりで、、、、、もしそうなら、、、、、)


サッサッサッサッ



ガチャ



カイリの背後、そこから突然、後頭部へと何かを突き付けられた。


「止まって両手を上げろ。(ひいらぎ) (かい)


その声に反応し、焦ることなく足を止める。


(カイリ)の頭に突き付けられているもの、それは銃口だった。


少し籠っているが、男らしい声をした人物がそうカイリに命令する。


カイリはその声から瞬時に判断した。後ろに立っている人物が聖教会の者であると。


ゆっくりと手を上げた後、静止する。カイリが動き出さないことを確認すると、背後の聖教会はなぜこのようなことをするのか、事情を淡々と話し始めた。


「柊 海。君を逮捕するようにと、上から言われている。探索中悪いが同行してもらおうか」


首だけを動かし少し振り向くカイリ。冷静に答える。


「僕は、何もしていないと思いますが」


こちらをチラリと見るカイリをさらに警戒し、より強く銃口を押し付け、(わずか)かに怒りが含まれたよう口調で続けた。


「国センでの一件を忘れたか?多くの被害が出た。君が何をしたかなんてものは関係ない。少なからず君がミルの犯罪行為、そのトリガーになったんだ。それに結晶人がただの一般人に目をつけるとは思えない、色々と悪い噂が立ち込めてる君に今、世間は恐怖してるんだよ。こちらに身を預ける理由としては十分すぎると思えるが、、、安心しろ、君の無実がわかればすぐに開放する。私たちがミルを討伐するまでの辛抱だ」


もっともな意見を長々と話し続ける聖教会。カイリは説明の途中で顔を前に向け、もう一度景色を目の中に入れた。深く鼻で呼吸をする。


「あなたも、、、僕に恐怖心を覚えますか?」


ゆっくりと、そう問いかける。今までのトーンとは少し違う、異質で作ったようなセリフ。質問とは別の意図があるような。


聖教会は違和感を覚えつつも答える。


「もちろんだ。神器”神楽(かぐら)”との契約者はいない。器が所有しているはずなのに、君は、、、それを持っている。それだけじゃなく、前代未聞の能力まで持っているときた。そんな人間の名前が聖教会の能力者データには、なに一つ載っていない。はっきり言おう、君は不気味だ。それ故に聖教会も今までにないほど君を警戒している。聞いたことがないぞ、一瞬でも抵抗すれば武具の使用が許可される人物だなんて」


それを聞いたカイリはゆっくりと首を振っては、ため息をついた。


「すごくまっとうな意見ですね」


いつも通りの声質でそう感想を述べる。




そして、上げていた両手を下した。




「おい!手を下げるな!さっきの話が理解できないのか?!抵抗したら殺されるんだぞ!!」


銃を両手でがっしりと握る。いつでも引き金は引ける状況、生きたいのであればどう考えても答えは一択であったが、カイリの答えは予想とは反対のものであった。


「先ほどの命令、、、悪いですが、断らせていただきます」



ダンッ!!



銃弾が放たれた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「と、過程がどうであれ恐らくカイリ君の身は狙われる。領域内では拘束されるだけでも、外に出れば死ぬまで尋問か、、、研究対象になるだろう。どのみち捕まった時点で結末は同じ。これが要求の理由さ。」


頭をかしげる遊里。彼にはわからないことが多々あった。


「、、、どうして(カイリ)を襲ったのに、彼を助けるか。わからないのは当たり前だ。」


(゜o゜)


遊里は口をすぼませて驚いた。自分が今まさに脳内で思い立った疑問が筒抜けになっていたからである。


「あぁ、すまなかった。人の脳内を勝手に覗いてはいけないと分かってるんだが、、、つい癖でね。それで、今挙げた疑問点、気にする必要はない。説明しても余計に複雑になっては疑問が増えるだけだ。それに君みたいな聖人には到底理解できないだろうしね、、、、あとそれ以外の疑問や不安に思っている点も答えはすべて、”大丈夫”だ。事はうまく進んでいるし、これからもうまく進ませる。」


気にするなと言われて気にしないことができるほど遊里の好奇心は死んでいない。それでも、何とか押しつぶす。遊里はそれ以外にも、どこにカイリがいるのか、どう救えばいいのか、もし聖教会に抗えばどうなるのか、そんな疑問達を頭の中で思い浮かべていたがそれらの答えは”大丈夫”。未だにどんな性格かも理解できていない人間のそんな言葉に信頼性は全くなかった。だが、ミルの説得がそれらを信じるに値するものへと昇華させる。


「信じられなくたって構わない。どのみち君は窮地に立たされた海君を見て見ぬふりはできないだろうしね。君と分かり合える友であり、君の小さな野望を叶える人でもある。」


再び驚きの表情を見せた遊里。小さな野望、それは頭の中で思い浮かべていないことであり、カイリと出会ってからしばらくムズムズと心のどこかに潜んでいたものでもあったからだ。今、考えていない昔の記憶にまで干渉できること、自分も知らない自分を直接覗かれることに若干の恐怖を抱く。


「改めて、すまないね。だが、実に人間らしい生き方だ。私の領域に着いて来るだなんて見方によっては命を投げ出す行為。そんなことを会って数か月の友人のためにできるのは余程の狂人でない限り有り得ない。裏のない優しさほど人間離れしたものはないからね。しかし、君たちは各々欲望や野望を叶えるためにここに来た。欲が強ければ強いほど、体も心も比例して強くなり、より高みを目指して似た者同士が集りだす、、、君のその大きな欲が求める小さな夢、その道筋には私の要求を呑む必要がある。君自身、海君を助けることに、それ以外の価値があるということ、気づいているだろう?遊里君、君が彼を助けるんだ。ユナに言われたようにね。」


ミルが右手で遊里の右肩を掴みながらそう語りかける。まるで気持ちの洗浄をするかのように、頭のどこかに引っかかっていた感情を言葉で表された。遊里にとってここまで自分に対して共感を示してくれる人は今までで出会ったことがない。そんな彼女(ミル)が行けと言うのなら行ってやろうと考えたのだ。


頷く遊里。


それを見たミルは肩をポンポンと叩き、歩きながらも少し上機嫌なトーンで話し出した。


「いいね。そうと決まればここに長居することは勧められない。想定以上に距離があいてしまったからね。」


話し終わったのち、ミルはある方向を指さす。


「向こうに直進すればこの領域を出られる。そのあとは道なりに進んで行けばいい。自ずと彼のもとにつくだろう。」


ミルに軽く一礼し、指先の方へと向かおうと走ると、背後の暗闇から鮮明なミルの声とコインをはじく音が聞こえてきた。


「理性よりも勘の方がずっと確信をつくことがある。」


「彼のこと、頼んだよ。」


最後の言葉は小さく、遊里の耳には正確に届かなかったが、それまでの言葉は間違いなく心に刻まれると同時に、彼の疑問をかき消した。


なぜミルがカイリにこだわるのか。そして、なぜ自分がカイリに心惹かれたのか。



最後に見せたミルの顔は、暗闇の中、笑っているように見えた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

放たれた弾丸、それはカイリの頭を横切っていった。


「な!?」


銃を貫通する神器、カイリはもう高を括ったようだ。完全に聖教会の命令に背く。


「すみません。でも急いでるんで」


「学生を手に掛けたくなかったが、、、」


腰についていた黒い棒、聖教会がそれにエネルギーを流した瞬間コンバットナイフのようなものに変わった。


武具を取り出す。それはもう引き返すことができない過程まで来たということ。


カイリと聖教会にはかなりの戦力差がある。普通に戦っても、結果は明白だ。それを知っていたのか、今知ったのか、カイリは聖教会と反対に走り出す。


「、、、逃げたって無駄だ」


スタートダッシュのポーズを取り、足に結晶をためる聖教会。


「手っ取り早く死んでくれ」


バリンッ!


白いエネルギーとともに、前方へ大きく加速し、一瞬でカイリのもとへ届く。



はずだった。



カイリの服を掴もうとするその時、聖教会は横に大きく吹き飛ぶ。花畑をしばらく転がる聖教会。


「クソッ!何が、、、」


頭をさすりながら頭を上げるとそこには青いエネルギーを放つ青年が。


「、、、遊里。なんで君まで抗うんだよ。未来を捨ててまで助ける仲じゃないだろ」


聖教会の苛立ちを含んだその声を横目に、心配そうな顔で遊里を見つめるカイリ。どうやら彼が来るとは思っておらず、この争いに巻き込んだことを悪く思っているようだ。カイリは申し訳なさそうに謝ろうとするが、先を急げと遊里はジェスチャーする。


「ごめん、本当にごめん!ありがとう!!」


走っていくカイリ。遊里はそんな彼と聖教会の間に立った。


「邪魔が入るとしても結晶体レベルだと思っていたが、、、まさかHigh Westが来るとは。今のは友を庇ったものとして見逃してあげよう。次はない。そこをどいてくれ」


臨戦態勢に入る聖教会。そんな相手に対する返答はもう決まっていた。




ファイティングポーズ




今がまさにベットタイミング。

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