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似たもの同士

昔の日本を彷彿とさせる民家の中、夜空のもとでツキは目を覚ました。ツキに肩を貸したリオンも結局寝てしまっていたが、ツキが起きる拍子で起床する。


ツキは片手で上品に、リオンは両手で豪快に目をこすっては、ともに欠伸をした。


リオンが立ち上がって言う。


「おはよ~。よく寝れた?そろそろ行く?」


「それがいいかも、、、寝すぎちゃったし」


ツキも立ち上がっては伸びをした。口調も慣れたように変わり、トランクケースももう片手で持っている。電話でうわべを気にして話すような声で敬語を使っていた以前とは異なり、少し低い、素の声で話す彼女。今までのツキとは別人のようだがその上品さは少しもかけていなかった。


リオンはゆっくりとツキの背中を押し、豪邸がない方向へと転換させた。そのままトランクケースの持ち手を引っ張り、ツキを前進させるとともに荷物を彼女から奪い取る。


「さ、行こうか。多分道はまだまだ長いでしょ。今までケース持っててくれてありがとね」


月に照らされつつ、トランクケースを後ろに持ち、笑顔で振り返るリオンにつられてツキも思わず口角が上がった。


「素敵な景色」


そうぼやっと呟いてはノープランで突き進むリオンの後ろを小走りでついていった。


豪邸が見えなくなったあたりで道を変え、正しい方向に進む二人。リオンはツキがどのような記憶を取り戻したのか、詮索を始めた。


「そういえば全部思い出したって言っていたけど、それって内容聞いていいやつ?」


「あ~、、、うん。話すと長くなると思うけど、、、」


もう腕は体の前ではなく、横に並んでいた。まったりと、声の起伏を少なめにそう答えるツキ。


「本当に答えられる範囲でいいからね?」


頷き、説明を始めた。


「あの家、、、リオンが遠ざけてくれた家。あれが私が住んでた場所。時代は、、、覚えてないや。そんなこと気にしてる暇なかったし。私は、結晶人の末裔の一族で、、、後継ぎじゃなかったし、そんなにいい立ち位置でもなかった、、、気がする。それでも生活の束縛は酷くて、、、苦しかった。命令に従って、奴隷のように働かされて、何か勝手なことをしようものなら暴力を振られてた。でもそんなのはまだまし、、、一番きつかったのは人と話せなかったこと、友達ができなかったこと。ずっと、、、独りだった」


言葉がギュッと詰まる。リオンは心配になり声をかけた。


「そこまででいいよ?無理に説明する必要ない」


そんな言葉を受け止めたように感じたが、それでも口を動かすのを止めようとはしないツキ。


「そんな日々が続いてたけど、、、ある時死んじゃいそうなくらい苦しいことがあって、、、内容はボヤっとしてる。思い出せない。でもその出来事の時に初めてミル様に出会って、助けてくれたのは覚えてる。多分この事件の記憶、ミル様が消してくれたのは」


ミルとツキの出会った瞬間の話をリオンは後ろのツキを見ながら逆向きで歩き聞く。その速度は非常に遅く、ツキに追いつかれそうになっていた。ただ、彼女のむごい過去、そしてそれをどのようにかはわからないが確かに彼女を救ったミル。それを知ってから、どこか彼女の横に並んで良い気が起きなかった。


ハッとして振り向き、歩く速度を速めるリオン。ツキの少し前を歩いていた。


「そっか、そんなことが、、、大変だったね」


ケースを体の後ろで持ち、そんな相槌をうつ。そうやって歩いていると、後ろから走ってくる音が聞こえる。首だけ振り向いた時にはもうすでに持ち物はツキに取られ、横に並ばれていた。


「でもね、そこから私の人生は幸せだったの」


リオンより少し身長の小さい彼女が下から太陽のような笑顔でそんなことを言う。


「誰とも話せなくて、頼りにできる人もいなかった私に、あの方はすべてをくれた。初めて優しくしてくれて、初めて自分から敬意を込めて話した、、、初めて命を懸けると誓った人」


以前まで、ミルとの関係性に疑問を呈していたが、不幸にさせたくない気持ちと、ミルの目的は不明だが彼女を幸せにしているという現状の利害一致から、彼女の記憶について疑うのを止めた。


「そっか、いい関係なんだね」


ミルについて何も知らないがゆえにどうコメントをすればよいか、リオンにはわからなかった。それとなく受け流した後に、今の彼女について質問を始める。


「生まれがいいとこで、そこからミルについて回ったなら、今の話し方はどこで、、、あ!もちろんいい意味でね」


慌ててフォローを入れるリオンに口角を上げながらツキは話をした。


「ずっとこうやって話すのに憧れてたの。みんな友達と楽しく話してさ、、、それを外で見てたから。でもこんなに話し方と立ち振る舞いが変わるとは思ってなかった。それに変に慣れてるし、、、もしかして」


「ミル、、、か」


リオンがそう答える。どうやらツキは自分の変化の違和感に気づいていたらしい。その後、昔の姿を思い出すと今の姿が恥ずかしくなるとリオンに説明するツキ。


その少し赤みを帯びた頬っぺたと微笑みを見ると、昔の悪い記憶よりもミルとの思いで、そして今、彼女らしい生き方が出来ているという実感の方がよっぽど脳内の大半を占めていることがリオンにはわかった。


大きな道を横に並びながら歩く二人。それはまさにツキが望んでいた景色なのかもしれない。まさに日常、ツキは当たり前のようにリオンが聞いてきた質問をオウム返しする。


「リオンは過去はどんな感じだったの?」


もしかすると同じ質問が返ってくる、そう心の中で準備はしていたものの上手く返すことができずにいるリオン。今まで人にそう尋ねられた回数は少なくないが、どれもあやふやに返答し流してきた。適切に言葉にするのが難しかったのだ、似た者同士ではない人間には。ただ、ツキはそのカテゴリーには分類されなかった。しどろもどろに説明を始める。


「あ~どうだろ、、、ツキと似てる?いや似てないか?う~ん、どういえばいいんだろ。ツキよりは~楽?だったかな。いや、、、順位付けは良くないな、、、う~ん、、、、、」


額に手を置き、次の言葉を考え込む。ツキはそんなリオンをただ、ゆっくりと、待った。


「でも、、、つらかったし、、、今もつらい、かな」


今まで口にしたことのない言葉を発したからか、頭に手を置き、悲しさと恥ずかしさを顔いっぱいで表す。そんな彼女の姿は身長差のあるツキには夜中であっても丸見えであった。


ツキはそっとリオンの顔から視点をずらす。



しばらくの無言。



少し違う風が二人の服をなびかせる。パタパタと鳴るツキの服。それだけがただ耳の中で、こだました。もう二人の間に気まずさなんてものはなかったが、それでも言葉を押し殺していた。互いに似た経験を積み、多くの言葉でも表せない巨悪をその身に受けてきた二人。そんな過去が、彼女たちの心を掌握するとともに、そんなもののおかげで今、すぐ横に親身になってくれる人がいる有難みを二人にしみじみと味合わせていたのだ。


そんな感情のせいか、はたまた言いたいことを言い合えたからか少しずつ口角が上がっていく二人。ついにリオンは少量の声を出して笑いだした。


「ふっ、、、はは。あ~なんか、、、恥ずかしいな~。なんでだろ?、、、ま!なんでもいいや!今ここでは関係ない話だし!」


リオンは置いていた手で髪の毛を荒らす。そんな彼女をにっこりと見つめるツキ。そっとリオンの手を握り、道を先導した。


今までとは異なる風が明確に吹き込み、視界が段々と明るくなっていく。手を引っ張られながらも顔を見上げるとそこには、笑顔でこちらを見るツキ。そして明るい光が照らす花々が。


「そう、だから、、、一緒に楽しも?今この時を」


どちらも絶景と評しても過小評価といえるほどの美しさであった。まるで祝福。まるで天国。


花をそのまま人にしたかのような可憐(かれん)さを醸し出す彼女のそんな言葉に、息が詰まる。


ようやく一息入れられてのは、彼女が手を放してからであった。ツキが荷物を持ったまま、気楽にユラユラと踊る。これもきっとツキが(しん)に欲した、彼女らしい生き方を表しているのであろう。時々見える彼女の笑顔。一気に吸った呼吸はたった一言に使われた。




「綺麗だ」

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