復讐への道
ただ、だれも住んでいない家の壁にもたれかかり、たわいもない話をし続ける。
二人の笑顔は絶えず、景色は変わらない。ただ時が流れるだけ。それでも恒久とも思える時間を二人はかみしめた。
「そういえば中学生からの仲だったか。懐かしいな、、、本当に」
座る朱莉に立つ音葉。
「昔はずっといがみ合ってたもんね、、、でも楽しかった。間違いなくライバルだった」
リオンと出会う前。高校、地方にいたころ二人は常に成績を争いあっていた。衝撃と自然。衝動と安静。全く違う者同士、ひかれあっていたのだろう。
「最初にお前の戦い方を見た時は驚いたわ。舞ってるみたいで、綺麗だった」
「朱莉はガサツだったけどね。本当に負け知らずだった」
「地方ではオレら負け知らずだったもんな!」
「あそこの武器、あんまり私向きじゃなかったからなー。本当ならもっと強かったかも」
「マジかよ、合ってなかったのか。高校のスタートダッシュ砕かれたから今でもトラウマだわ。オレも武器持ったら強くなったりするのかなー」
「、、、どうだろうね」
「、、、」
「国センのチームメンバー達とはどうなの?仲良くやってる?」
「、、、」
音葉には国センに入ったこと、チームメンバーについてのことなど話していない。別にそれを疑問視しようとも思っていなかった。なぜミルの領域にいるのか、結晶体なのにどうして鮮明な記憶があるのか、どうして会いに来てくれたのか。不思議な点を挙げればきりがない。言葉に詰まったのは、音葉が消えた後についての話を音葉にできることに違和感を覚えたからに過ぎなかった。
「今の仲間は、、、めちゃくちゃいい奴らだよ」
「ならよかった」
「でも、、、最高じゃない」
後悔が口走るように零れた。
「、、、」
「ずっとよぎるんだよ、昔のことが」
「、、、」
「音葉もいなけりゃ、京極のところにいた奴らとももう決別した。あんな奴を選んだせいでみんなとばらばらになった、、、もし最初から昔の奴らと今のあいつらが出会えてたらって、、、」
「、、、そっか」
「今でもたまに思っちまう、そうやって。入るクラブを間違えたのか?出会う仲間が間違ってたのか?国センに入るのが間違ってたのか?、、、出会わなけりゃよかったのか?」
「、、、」
「教えてくれ、、、ずっと聞きたかった」
「、、、」
「なんで、、、」
「、、、」
「なんで死んだんだ?」
「、、、言えない」
「殺されたんだろ?誰に?教えてくれよ!」
「無理」
「なんでだよ!」
「私が悪いの」
「お前はなんもしてねえだろ!」
「しちゃったの!」
「何を!」
「知っちゃったの!!!」
「、、、何を」
「、、、言えない。ごめんね」
沈黙が流れる。ずっと昔にとらわれ、後悔していた朱莉。それは音葉がなぜ死んだのか、誰に殺されたのかさえ知ることができれば、少しはましになるものであった。しかし、それが知れない以上、誰に矛先を向ければいいのかわからない。それが生み出したいざこざによって旧友との関係も悪化したのだ。そんな怒りが落ち着きを見せたのはほんの最近の話。だから朱莉はどうしても知りたかった。
「どうして、、、」
「話したら今の生活が壊れるから」
「壊れたっていい」
「よくない!、、、よくないよ。新しい仲間と出会って、新しいことを学んで、新しいライバルができて、、、今の朱莉は幸せそのものだもん」
「でも、、、過去のことが忘れられないんだよ」
「忘れなくてもいいんだよ」
「、、、え?」
「なんなら忘れてほしくない。離れ離れは嫌だもん、せめて心は一緒に居たい。だから忘れるために生きるんじゃなくて、楽しむために生きてほしい。マイナスをマイナスで消そうとしないでほしい。朱莉らしく進んでほしい」
「そんなこと」
「できるさ!朱莉なら!」
「でも」
「これから先、色々なことが待ってる!もちろんその中には悲しくて苦しくて、どうしようもないことだってあるだろうけど、、、今の仲間がいればそんなのへっちゃら!」
朱莉のネガティブな言葉を遮る音葉。それはどこか焦っているようにも感じる一方、しっかりと一言一言に温かみがあった。
「、、、前までは戦うだけで楽しかった、、、でも今はそうじゃなくて、、、色々幸せなものが増えてきて、、、それでも、、、お前がいなくなってからゴールが見えなくて、、、どこに進めばいいかわかんなくなって、、、手当たり次第全部に手を付けて、、、全部、、、全部手に入れたくなったんだ!!何があったか知りたいんだよ!!!」
音葉と話してから押しつぶしていた感情を前に出した。幸せになるきっかけを見つけた朱莉。それだけでよかったが、音葉と出会った今、強さの秘訣も、今の青春も、過去の過ちも、全てを、知りたいと感じた。
「、、、なら先に進んで!今は知れなくてもいずれわかる。全部わかる!そんな未来が待ってるから!」
朱莉の肩を必死に揺らす。その目はウルウルと輝いていた。音葉の後ろから聞こえる音、領域の壊れる音だ。朱莉は終わりが近づいていることを感じ取る。
「大丈夫!きっと大丈夫!!」
聞きなれた声、聞きなれたセリフ。
「朱莉ならきっと大丈夫!」
見慣れた顔、見慣れない涙。
「だから、、、行って」
時期に壊れる領域。押さなくたっていずれ外に出る。そんなことわかっていたが、音葉は朱莉の方向を変え、背中を押した。音葉の勇気と悲しみに包まれた顔。懐かしかったのか、さよならが悲しかったのか、わからないが朱莉の力は抜けきっていた。
「今は、、、過去に縛られないで!戦って!!そして」
後ろの声が段々と弱くなり、詰まる。
「、、いつか、、、いつか、、、、、いつか復讐して!!!」
最後の言葉。ふと振り返る。そこにはもう何もない。無限と思えた村の道、それが今はすんなりと終わっている。あれだけ輝いていた空間も破れれば暗闇に。
ほんの一瞬のような出来事。結晶体が今は亡き親友に化けて出て、根も葉もない未来について語っていっただけ。信じられないこと、疑問に思うことばかりだった。ミルかそれ以外の敵が朱莉を油断させるための罠、そういえば片付く話だった。何の根拠もない無駄な時間だった。
ただそんな時間が朱莉を変えた。
ドシンッ!
例え罠でも、無駄な時間でも。
ドシンッ!!
”それ”が間違いなくあったことを右手に持つ緑の髪留めが証明する。
ドシンッ!!!
信憑性だなんてどうでもよかった。
「ウワアーー!!ニンゲンダ!ニンゲン!!ヒサシブリ ニ ミタ!!ヤッタ!ヤッタ!!コンヤ ハ バンサン ダー!!」
音葉に伝えたかったことを伝えられたから。
「ドウヤッテ タベヨウカナ~?オンナ ハ アシウラ ガ イチバン オイシインダヨナァア」
そしてそんな朱莉に音葉も本音を伝えてくれたから。
「ソレジャ ボナペティ~!!」
上着を脱ぎ、にやついた顔を上げる。
「悪いな結晶体」
”復讐”そんな言葉が朱莉の道を一つに絞った。
「そこは、、、オレの道だ」
ただ、一直線に。




