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迷子の気持ち

ガキンッ


鉄を叩くような音が鳴り響く。領域内は少し暗くなりはじめ、森の中はもう何も見えなくなっていた。

そんな中、結晶体を地面にひれ伏させ、ミルのもとへ急ぐカイリ。神妙な顔つきをしていた。


(進めば進むほど聞いたことも、見たこともある、、、もしこの感覚が当たってるならこの先は、、、)


ツキのような付き添いはなくとも道がわかっているように進む。


(田舎の森に囲まれた、、、)


ガキンッ


もう襲ってくる結晶体には見向きもしなかった。自ずと神器が片づける。


(人のいない、、、)


突然、暗かったはずの領域内に光がさす。風がなびき、服を揺らす。どこか春らしさを感じさせるものであった。鳥が飛び、蝶が舞う。不思議な景色。カイリが立つ”そこ”は、どうやら木のない山頂であるらしい。ただある小川がこの先進むべき道を示す。


(花の咲く、、、)


すっと息を吸い、


(、、、ここが)


吐き出すように言った。


「楽園」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「んだよ、ここ、、、」


例に漏れず朱莉も見知らぬ場所へと一人、キョトンとたたずんでいた。しかし、そこは都会ではなく田舎。村と呼ぶにはちょうどいい景色である。


(領域に入った、、、ってことでいいのか?にしても田舎だな。道は整備されてるっぽいけど)


人ひとりいない日の当たる村をただひたすら真っすぐ歩く。先に行っても行っても道は続き、それは無限を思わせた。


(まずいな、、、閉じ込められたか?)


「はあー。一旦引き返す、、、か、、、」


ため息をして振り返る。そのあとは何もすることができなかった。目を疑ったのだ。あり得やしない現実が妄想世界で作られる。ただそれに悪意を感じることはできなかった。


「、、、音葉」


小さく呟く。


「、、、音葉?お前なのか?」


目の前にいる人物が優しく微笑む。少し色の抜けた髪に緑の髪留め、どこか懐かしい立ち姿に優しい表情、それは今や見ることができなくなっていた成長後の姿であった。


「久しぶりだね、朱莉」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ねえ~、この領域ってなんでこんなに広いの~?疲れるよ~」


真っ暗な森の中進むリオンとツキ。


足に引っ付く植物をいちいち払いながら進むリオンと見た目のわりにガツガツ進むツキ。気づけばかなり距離がついていた。


「がんばってくださいリオン様。恐らくこの森もそう長くは続かないと思いますので」


いつもより少し大きい声を出し、励ます。リオンはそんな曖昧な言葉にも元気をもらえるほど疲れ果てていた。


「じゃあここ抜けたら休憩しよ!もう疲れちゃったよ~。ちなみにこの後はどんな地形なの~?」


「この先の景色は存じ上げませんので、何とも、、、休憩しやすいとこだといいのですが」


「え?」


ただでさえ遅かった足がスッと止まる。意表を突かれたようにでたその声は遠く離れたツキには届かなかった。


「ちょ、ちょっと待って!今の詳しく!」


少しづつ縮まる距離。




草木が生い茂る森を抜け、さらに荒廃した場所へとやってきた。


「ビルが倒れていますね。あの物陰でなら休憩ができそうですが」


「はあはあ、休もう、、、エネルギーの使い過ぎで疲れたし、話したいことがあるし、、、」


大量のビルが倒れ、地面には亀裂、ふさぐものが何もないのか星だけがきれいに輝いていた。コンクリートより緑のほうが多く見えるほどの経年劣化。まるで前までいた都市の時間が進んだような。


ビルの壁にもたれかかるリオン。ツキはそれをまじまじと見ていたが、手招きにつられ、横に座った。


「はあ~疲れた。なんなのさ、あの結晶体。それに聖教会の人も、、、ふぁ~」


大きな欠伸をする。


「私は、、、少しワクワクしました。いろいろなものが見れたので」


少し照れてはそう返すツキ。


始めてみるそんな表情にふとつられ、笑顔になる。


「ならよかった~。本当にいろいろあったもんね、今日」


「はい」


実に元気な返事であった。


「、、、それでさ、さっき気になったこと聞きたいんだけど~、いい?」


顔を傾け、不思議そうにリオンの顔を見る。


「この先の景色を知らないって、この先からツキは来たんじゃないの?」


リオンの疑問に納得したのか、スッと顔を戻し説明を始めた。


「私はミル様に飛ばされてリオン様の場所へと来ました。ですので道中がどんな景色でどんな結晶体がいるのか、存じ上げないのです。」


また疑問が増えたのかムッとするリオン。


「飛ばされる、、、ね~。ワープみたいなことできるんだ。流石結晶人」


もう一度顔を傾ける。


「皆さんできると、ミル様はおっしゃられてたのですが、、、難しいのですか?」


「え、みんなできるの!?うそぉ~」


ツキはゆっくりと星空を眺め、答え始める。


「ミル様はよくエネルギーと結晶の神秘性について教えてくださいます。エネルギーを巧みに扱えばできないことはない、と。リオン様でもまだ知らないことがあるだなんて、、、なんて美しいのでしょう。私も持っていればよかったのに」


自我を少し出すツキに見とれるリオン。月が照らす彼女はハル同様、透明感のある美しさがあった。


「できないことはない、、、か。夢が広がるね。ツキはミルについてよく知ってそうだけど、、、悪い奴なの?」


あれほどの行為を行ったミルの無罪を疑うことはほかのチームメンバーにとって喜ばしくないと知りつつも、リオンは聞いてしまった。


「そうですね、、、ミル様は私にすべてをくれた方です。私はあの方を疑いなどしたことはありませんでしたが、自分自身について疑問を呈している姿は何度か。やっていることが正しいのか、正しくないのか。自分とは何のか」


「なるほど。悪い奴なのかは誰もわからない、、、か~。そんなことを考える人が、、、」


リオンも同様月を見始めた。


「私は今回の旅で深く確信しました。あの方について行ったのは正解だと。エネルギーは人の心の根底を映し出す、、、これほど綺麗な景色は見たことがありません。意図的かそうでないかは不確かですが、いつか伝えた景色も綺麗に、、、うれしいです。そんな世界をリオン様と歩けるのが」


無言。虫が鳴く。


リオンは今まで見た景色とツキの言葉を思い出し、色々と考えを巡らせた。


(映し出す、、、結晶体もかな。あいつはミルって名前を出した時、変なこと言ってたけど、、、わかんないな。ツキが飛ばされた理由は、景色を見てほしかったから?ここまで歩いてきたことはなかったのかな。二人がどう過ごして、どんな関係だったのか、、、)


初めてまともにする休憩。そこでようやくミルの本性を知るにはツキという存在がいかほどに大事なのかを思い出す。彼女について知ることはミルについて知ることになる。それほど今後の戦闘に役立つことはない。


色々と湧き出る質問。それを彼女にぶつけようと考え、ツキの顔を見るがその目はもう閉じていた。どうやらここまでの長距離移動に戦闘、様々な感情の起伏により相当疲れていたらしい。


質問をあきらめるリオン。色々な情報を聞くことが楽しみなのか笑顔で目を閉じる。


それは不思議と横のツキにも伝染した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

道にたたずむ二人を田舎の風と日光が包み込む。


表情をグチャグチャにする朱莉。


「偽物だ、、、そうだ、これはミルの作った結晶体だ」


後ずさりをする。それを追いかけようともせず、彼女は微笑み話をつづけた。


「そう、私は結晶体。本物なんかじゃない。でも、、、久しぶり。本当に久しぶり。朱莉」


馴染みのある声。昔とは違って大人びていたが間違いなく彼女自身の声であった。朱莉の瞳に段々と水が溜まっていく。


「敵なんだろ、、、なんで結晶体だなんて言うんだよ!」


その言葉には感情が入り混じっていた。信じたかったのか、信じたくなかったのか。


「敵じゃないよ。攻撃なんかしない。ただ、、、会いたかったの」


そんなことを言われる朱莉。涙が零れた。ずっと昔の友達、いや親友。手も言葉も届かないところまで行ってしまった彼女が目の前に、ただヒッソリと呼吸をしていた。


「なんで、、、なんで、、、」


「ごめんね」


「なんで!」


一歩近づいては足から崩れ落ちる。



「なんで死んじゃったんだよ」



「、、、」


「会いたかったよ、、、ずっと、、、ずっと、、、」


地面に倒れこむ朱莉を支え、ぎゅっと抱きしめる。


「うん、、、私も」


号泣する朱莉。その頭をただ撫で続けた。


「ありがとうも言えなくて、、、ごめんなさいも、、言えなくて、、、ずっと、、、ずっと後悔してて、、、」


朱莉が話すたびに優しく頷く音葉。子をあやす母のようであった。


「ごめんね。突然いなくなっちゃって。本当に、、、ごめんね」


音葉も涙を流す。まるで結晶体ではないかのように。音葉のように。


「会いたかったよ!」

「私も」


「話したかったよ、、、」

「私も」


「、、、大好きだったよ」

「、、、私も」


道の途中、花の上。二人はただ、一つになり。伝えたかったことを伝え続けた。


これは希望の物語。

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