自由なる賭け
結晶体が国センを襲った日の夜、遊里とリオンはともにトレーニングに励んでいた。
「朱莉は早々にダウンしちゃったね~。この調子じゃす~ぐ追い越せそうだ」
やれやれと言わんばかのジェスチャーをする遊里
( ̄▽ ̄)
「まあ、今までのトレーニングは朱莉が一番頑張ってたからね~、ばてるのが早いのも納得か。私は体力で勝負したいからね。ランニング行こ、ランニング」
('ω')ノ
遊里は二人とは打って変わって全く疲れた様子を見せていなかった、それ故かかなりの速さでランニングを進める。
「あ~私疲れてきた!先行ってていいよ!後で追いつくから!」
後ろの方で遊里にそう告げるリオン。
さすがに女性を一人、夜の道においていくわけにもいかずスピードダウンし、リオンの方へ振り返った。
(・。・)
そこにいたはずのリオンの姿はなかった。
急いで周りの探索を始める。
山の麓にある道であったため、道の見晴らしは良い。それでも見つけられなかった遊里は道路下の森を見渡した。
(; ・`д・´)
タッタッ
遊里の後ろ、道の向こうから足音が鳴り、急いで振り返る。
「ふぅふぅ、、、遊里?どうしてこんなところに」
トーンを変えずに話すオオカミ顔の少年が立っていた。
風磨だ。
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「リオンがいなくなった?大丈夫か?それ。選手といえど一応女性だろ」
風磨にも一応女性を心配する心はあるらしいが、声のトーンからはその感情は読み取れなかった。
焦りが隠せない遊里。足と手をバタバタさせる。
「落ち着けよ遊里。とりあえず聖教会と国センに電話、、、ん?」
スマホを何度か強く押す風磨。
「なんでだ?、、、スマホがつながらない。圏外?なわけないよな」
二人は顔を見合わせる。
「おい遊里、リオンは急に姿を消したんだよな?」
こくっと頷く。
「なぜか外部と連絡が取れない、と」
頷く。
「、、、気づいてるな?」
強く頷く。
「違和感」
二人とも開けた道を見渡す。
「普段こんな道通らないんだが、今日はなにかを感じてここに来たんだ、、、この感覚、、、」
頭を傾け風磨を見つめる。
風磨は感覚を研ぎ澄ませるために目をつぶっていた。
しばらくして何かに気づいたように目を少し見開いた。
「結界領域」
遊里もピンと来たのか全力で賛同する。
「結界領域の中にリオンが入った、、、というよりも俺たちが入れられた側なのか。スマホが使えないってことは」
急いで領域の端を探し始める遊里。もし、二人が結界領域に入れられたことが計画的な犯行ならHigh West二人を閉じ込めることに成功したことになる。明らかに戦力の拡散を狙ったものであり、誰が被害にあってもおかしくない状況にあった。何より不可解な事件が起きた後だったため、遊里は焦りに焦っていたのだ。
「だから落ち着けって遊里。走るだけじゃ無駄なのお前が一番知ってるだろ」
その言葉に足を止められた。結界領域は使い手の力量によっては非常に大きく広がり続ける。遊里たちが入れられた結界領域が地形を壊して形成するもの、あるいはすでに空中に浮いているものならその壁に到達することは困難である。
風磨に指摘されてすぐ、遊里は手に力を込め始めた。
風磨はそれを見て呆れつつ、身を守るために自分に結界を張り距離を取り始めた。
「一番合理的だが、、、被害は出すなよ?山吹っ飛ばすとか」
十分な距離を取った風磨にすらその遊里の手のひらは輝いて見えた。
エネルギーが固まり、輝きを放つ。
結晶化だ。
パリパリと音を鳴らし、手のひらには青碧に輝く結晶の塊が、その周りには粒のような結晶が空中ではじけている。
どうやら完成したらしく、風磨の顔を見て安全か確認する。ゆっくりと風磨が顔をうなずかせると、その結晶を宙に投げ、目の前で大きく拳を振るった。
拳と結晶が接触した瞬間、閃光が走る。それは一直線に。
一閃だ。
結晶の爆発による力は結界領域が広がる速さを凌駕し、ひびを入れた。徐々に割れていく結界領域。
パリンッ!
完全に割れた後、遊里たちの足場は消えた。やはり結界領域は拡張させるために宙に浮いていたらしい。計画的な犯行だと確定する。
下を向いた瞬間、遠くの道でリオンが倒れているのを発見する遊里。そしてその前に結晶の破片の中で誰かが立っているのも。
それは道を曲がった先にいるらしい。着地した風磨は遊里に呼びかける。
「おい、遊里。あそこにリオンが、、、いない」
遊里はもうすでにいなくなっていた。
血まみれのリオンを左手で優しく包み込む遊里。意識はなく、何の反応も見せなかった。
道の先には白衣と仮面を身に着けた人物がいたが、この時はそんなものにも目はつけなかった。
両手でリオンに触れ、目を閉じ、今までやってきたことを今までやってきたようにこなす。
パリパリッ
リオンの体が徐々に結界に包まれていく。
人の身を包む結界は外の世界と分離するものである。綺麗に張られたものだと結界外の影響を全く受けなくなり、時間経過による体調の悪化などを防ぐことができる。また、結界は性質上、粗末なものだとしても、どんな攻撃も一度だけは絶対に防ぐことはできる。もうこれ以上リオンを傷つけないために結界を張ったのだ。
風磨が三人のもとへたどり着いたのは結界を張り終わり、遊里が立ち上がった瞬間であった。
仮面を付けた人間をギラリと睨む。風磨はその景色を見てなんとなく状況を察したらしい。
「遊里、あいつは?」
首をそっと横に振る。
「敵、、、なんだろうが、、、」
カイリの言葉を思い出す遊里。
”白い服と仮面”
その風貌に立ち振る舞い。ミルであることを確信する。
「どうするんだ?戦うか?、、、覇気はあまり感じないが、、、」
しばらく睨みあう三人。ついに少女が口を開いた。
「君たちが傑作か、、、そう呼ばれる理由がそれとなくわかってくるよ。」
彼女が口を開いた瞬間、驚くように戦闘の構えを取る二人。
「いいね。昔を思い出す。」
そう言うと指を回しだすミル。彼女の周りに毒々しくも美しい液体が宙を舞い始めた。
腕を大きく振り、液体を周りに散らす。そして開戦の一言を上げた。
「来なさい。わが子たち。」
その言葉にいち早く反応したのは遊里だった。結晶の爆発を使い一気に接近する。
ダンッ
まるで当たった感覚がなかった。拳が触れていたのは液体で、多く溜めたエネルギーを完全に吸収していたのだ。
飛び散る液体。それが遊里の周りを囲み勢いよく飛来する。
パリパリッ
遊里に当たる寸前、風磨が体の周りを結界領域で包んでいた。液体とともにはじける領域。破片となった領域と謎の液体を神の御業と呼べるほどの繊細な重力操作で遊里の周囲に集め始める。しかし、
ギュン
瞬間移動をするミル。大きく距離を開かれた。その技を見て遊里は目を開き、驚きを隠せなかった。
風磨が集めた破片を無駄にしないためにも、もう一度結晶の爆発で接近を試みる。
ミルに近づいた。
ドクッ
心臓が止まるような感覚に襲われる。ゆっくりと恐怖の世界に連れているかれるように。目の前にいるはずのミルとの距離が無限にも思えた。圧倒的な壁を感じたのだ。近づくと死ぬ、と。その間にも、すでに渦巻き状の液体が半球の形で遊里を囲み始める。
遊里は諦めた、その命を。
しかし、背中を押したのは風磨の行動とカイリの言葉であった。
一瞬の判断で風磨は遊里の手元に領域と液体の破片を集め、一つにする。
詳しい意図は読み取れなかったが、ただそれでもぶつけるだけでこの状況がどうこうなるとは遊里も思っていなかった。
夏の大会前日のカイリの言葉を思い出す。
いつも一瞬で終わる試合。殴ればいい、蹴ればいい。それだけで試合は終わる。勝つのだから。そんな習慣は彼を退屈にさせていた。ただ攻めるだけの遊里。そんな彼を壊したのはカイリであった。自分を守る行動、それをなぜか遊里に教えた。きっとそれは自分、人を守るためだけのものではなかった。それがあの言葉に出ていのだ。退屈で窮屈で単調な彼の戦い方を変える言葉。
「もっと自由に。自分すらも驚かせる戦い方を」
風磨が集めた塊を無理やり握る遊里。ミル、風磨ともに唖然としていた。自分以外のエネルギーが混じったものはどんな用途であれ、触れるだけでも自分にダメージを与える。
ほんの一瞬であった、自分に結界を張る速度は。
力強くその塊を握りつぶし、爆発させた。爆発は自分の結界を破壊しつつも大きく広がり、遊里を囲んでいた液体すらその破片が蹴散らした。
(もっと、フリーダムに!)
空中で遊里、風磨、そしてミル。全員のエネルギーが複雑に混ざりあう。
その一瞬、スキを突くようにミルは鋭くとがらせた液体を遊里に向け射出した。
バキッ
しかし、それが遊里にたどり着くことはなかった。宙を舞う液体と領域、結界。それは一つの広いドームのように遊里の周りを囲っていた。
地道にエネルギーを縫うように結界領域の練習を行ってきた遊里。その成果か、細かく散らばった個体同士を縫い合わせ、一つの結界領域を完成させていたのだ。前代未聞な至難の業、三人のエネルギーが美しくも粗雑につながれていた。
感覚でこの結界領域が一瞬で壊れることを悟った遊里。数多の結晶、結界の使用に緻密なエネルギー操作、それらが体内のエネルギーをすべて喰い果たしたのか、鼻血をだし、目を充血させていた。誰もが持つ生命活動に必要不可欠なエネルギー、それが尽きようとしていたのだ。
戦いの終わりを感じたミル。領域が壊れるのを待ち、新たな液体を作り出していた。
その瞬間、
ギュンッ
「ほう。」
ミルの口からそう零れた。
領域は崩れることなく、遊里の手のひらに小さく存在していたのだ。
瞬間移動と同じ原理で。
遊里はミルが行った瞬間移動を見て、理解したわけではなかった。しかし、人生がエネルギーで満ち溢れていた彼は、感覚でそれを解釈したのだ。
領域を壊すことなく”縮めた”
全力で拳を大きく振りかぶる。自爆覚悟の一撃。彼を守るものはもう何一つなかった。
ドンッ!
乱閃。それは一閃とは異なり、瞬時に繊細に操作をすることができないほどのエネルギーを集め放つ、非効率な近接戦特化の一撃である。
光が大きく拡散し、衝撃で道が壊れ、砂埃や煙が立ちこみ、大きな衝撃音を生みだした。
「君たちも来い」
森、地面、風の揺れる音がやんだのは数秒後であった。
「おい!大丈夫か!遊里!ゴホッゴホッ 返事しろ!」
今まで聞いたことのないような声量で張り叫ぶ風磨。立ち込める煙の中、遊里を探していた。
「遊里!遊里!おい、、、遊里!」
何とかその姿を見つけ出し、駆け寄る。
鼻血と唾液が出続けていたが、呼吸は止まっていた。必死にその体を揺さぶる。
「おい!起きろ!お前が死んでどうするんだよ!」
ピクリとも動き出さなかった。
心臓マッサージを始める風磨。違和感を感じ始めるのはそう遅くなかった。
パリン
小さく結界が割れる音が響く。どうやら薄い結界を装備させられていたようだ。その結界の破片は遊里の中へ染みこみ、消えていった。
その数秒後。
「ゴホッゴホッ、、、ハアァ、ハアァ、、、」
遊里が目を覚ました。
一安心したのか風磨はそっと胸をなでおろす。
少しずつ晴れていく煙。
周りを見渡したが、
そこにはもう、ミルの姿はどこにもなかった。
「なんだったんだ、、、一体」




