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虚像の群衆

校舎の反対側、そこにはおびただしい数の結晶体が。


「なんで結晶体がこんなに、、、」


大量の生徒たちは結晶体を珍しいもののように見つめ、ただ立ち尽くしていた。


カイリ達は知っていた。今は生徒たちが返る時間帯。家に帰るために国センを出た生徒たちが大勢いる。ユナは明日になって戻ってくるため自分たちを守る人もいない。もし、結晶体たちが外にも

いて、敵意があるならば、被害はとんでもないことになると。


(リオンと遊里君はトレーニングで今外だ。もし、襲われてたら、、、)


恐ろしい想像をしてしまう。


夜の暗闇の中、そんな心配事をしていると、動きを見せていなかった結晶体のうち、先頭の一体がついに動き出した。


「初めまして。西日本国際教育センターの生徒諸君。私たちは、」


結晶体の言葉にカイリは喉を詰まらせた。


「ミル様の(めい)でここに来た」


生徒たちもこの言葉には騒然とせざるを得なかった。


「ミル?ミルって誰?」


「追放者だよ!ずっと行方が分からない!」


「悪い噂は聞いてたがここまでとは」


「私たち大丈夫なのかな」


ミルというワードを聞き、一気に不安に駆られるカイリ。


(なんでここにミルの結晶体が!)


皆が困惑する中、結晶体は続けた。


「ミル様からの伝言がある。これは命令だ、ありがたく思いなさい」


唐突に学園に侵入し、伝言という名の命令を下そうとする結晶体に嫌気がさしたのか、一人の男性教師が声を上げた。


「いい加減にしろ!こっちには能力者がいるんだぞ!お前らなんかに」



ザシュ





右手が飛んだ


「、、、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「「きゃあぁぁぁぁぁ!」」


教師の絶叫が、伝播する。


「High Westも結晶人もここにはいない。お前たちが抗う選択肢は存在しないんだ。さあ、命令を聞いてもらおうか。」


ようやく結晶体が本当に敵であると知った生徒たちは、逃げるために走る。人とぶつかり、自分の命を救うために人を蹴落とした。たった一つのグラウンドから様々な悲鳴が聞こえ、この空間は分かりやすく混沌を表していた。


「なんで出られないんだよ!」


「領域がある!なんで!?」


「出してー!出してよー!」


気づけば生徒たちは結界領域に閉じ込められていた。それをこじ開けるために彼らはガンガンと叩く。


「静かにしろ。命令に従えば素直にここから出してやる。わかったか?」


なぜか大きく響く結晶体のこの言葉に全員が耳を傾けていた。複数の教師や生徒たちはそれに賛同するように頭を振っていた。


結晶体の発言により静まった結界内、一人の女性教師が皆の総意を伝えるために前に出た。


「わかりました、従います。で、その命令というのは?」


不気味な笑みを浮かべる結晶体。



「柊 カイリをこちらに渡せ。」


最初は一人、二人。しかし、あっという間に視線がカイリに集まり、周りの人々はカイリから離れ始めた。


「ミル様はカイリ、お前のことを殺したがっている。直々にだ。これほど光栄なことはないぞ。さあ、私たちのところへ来い。来ないのなら周りの奴もあいつと同じ目に合う」


腕が飛んだ教師を指さし述べたそんな言葉に固まるカイリ。前に言った言葉を思い出す。


{あの数の人たちを巻き込むわけにはいかないよ}


今の自分はそんな数と比にならないほどの人を事件に巻き込んでいる。そんな事実が彼の考える力を失わせた。


「早く行けよ、、、」


最初は小さな声だった。


「さっさとあっち行けよ!」


最初はたった一人だった。


「お前なんかのために死にたくねーよ!不正野郎!」


でもそれは段々とでかくなった。


「そうだ!早くあっち行けよ!」


「お前が死ねば助かるんだろ!」


「私たちまだ生きたいの!」


最後には取り返しのつかないことになった。


「早くあっち行ってよ!」「近づかないで!」「お前のせいだ!」「お前なんかいなくなっちまえ!」「死ねよ!」「死ね!」「死ーね!」「死ーね!」



”それ”は民意になった。



皆に背中を押された。もう止まる術はない。


「止まれカイリ!オレの声を聞け!おい!カイリ!カイリ!!」


そんな声はもう届きやしない。


カイリにはもう暗闇しか見えなかった。


(あ、向こうだけが明るい、、、向かわなきゃ、、、行かなきゃ、、、)


結晶体へと歩み寄る。


(、、、、、、、戻っちゃだめだ)


本人は意図せず涙を流し、千鳥足で歩いていた。


ただ、笑いながら。


(、、、、、、、、、ハハッ)


鳴りやまない”歓声”







絶望。












それでも、絶望の合唱は結界が壊れた音、たった一つにより突き破られた。


バリンッ!


カイリと、カイリのもとへ急いで走る朱莉以外がその音の発生場所を見た。


タンッタンッ


ゆっくりと歩く女性の姿。足音が結界内に反響する。それはまるでスローモーションのような非現実的な美しさを醸し出していた。


和服姿で細目の女性。


付き人 ハルであった。


男性教師に結界を張り、ゆっくり、カイリと朱莉のもとへ歩みを進める。


カイリの肩を揺らし何かを叫ぶ朱莉。


カイリの耳にはそんな朱莉の声すら聞き取れていなかった。


朱莉の手を振り払い、結晶体のもとへ進む。


「、、、もう、僕はいないほうがいいんだ」


「そんなことないですよ」


ハルはいつの間にかカイリの目の前にいた。肩と頬を優しく触る。


「あなたは必要とされています。クラブのお仲間さんやユナさんにも、、、だから、自分の存在を否定しないでください。今は少し休みましょう、起きたころにはきっと苦しみも軽くなっていますから」


涙を指で払い、カイリを結界で包み込む。あの時、民衆の記憶を消したユナのように。


その場で倒れこむカイリ。


「朱莉さん、この子を頼みました。」


和服をなびかせながら結晶体の軍勢を前にするハル。


「、、、嘘をついて、人を傷つけて、それを利用する。到底許されることではありません」


「付き人ごときが私たちを倒せるとでも?もう一度言う。カイリを私たちに渡せ。」


ハルはエネルギーを手のひらに溜め、長い日本刀を手のひらに作り出した。


「、、、お断りします。私たちの子供には指一本触れさせません」


静かに、怒りを感じられるトーンでそう言っては、刀を顔の前へと構えた。


「そうか、では交渉決裂だ。カイリ以外全員殺せ」


そう先頭の結晶体が指示すると後ろにいたモノたちが一斉にハルのもとへと襲い掛かった。


敵がほんの目の前にいる状況で彼女は息を整え、ユナに似た赤い結晶のような美しい瞳を開き、唱えた。


「結晶化 桜花一閃」




パリン




小さな音とともに桜の花びらが一枚、ハルの前でひらひらと舞う。


ほんの小さな一片(ひとひら)だが、なぜか絶景写真のように美しかった。


いや、一枚絵そのものであった。


目の前の結晶体たちは一枚の結界にその姿を描かれたように固まり、後ろの生徒たちはその圧倒的な景観美に息をすることも忘れていた。



確かにその瞬間、領域内の時は止まったのだ。


ヒラヒラ


桜の花びらがハルの構えた刀の前に落ちてくる。


ヒュン


音もたてず、それを素早く横に切る。


ピキピキ


敵の姿を投影した結界にひびが入る。



バリン!



今までの静寂とは打って変わってとてつもない轟音が領域を包んだ。


ガラスが割れる音とともに凄まじい風が巻き起こり、

結界は砕け散り、美しく吹き荒れる。


生徒たちは目を閉じて、飛ばされないようにするのに必死であった。



チリンチリン



しばらくして風がやみ、鈴が鳴るような音が結界領域内を包む。

恐る恐る閉じていた目を開くと。


「、、、綺麗だ」


一面に桜の花びらが散り、敵がいた場所にはこの世にある言葉では形容しがたいほど荘厳で美しい桜の樹が立っていた。


まるでそこには元から何もなかったかのように。


ゆっくりと敵が作った結界領域が上から崩れ、夜空が顔を出す。


何とか危機は脱したようだ。


カイリを抱えながらも急いでハルのもとへ礼を言いに行く朱莉。


「ありがとうございます!本当に助かりました!」


首を横に振りながらハルは遠慮がちに答える。


「いえいえ、”生徒を守る”当たり前のことをしただけです。朱莉さんは、カイリさんを保健室にお願いします。私は外の様子を見てきますから」


その言葉を受けハッとする朱莉。


「そうだ、、、リオンと遊里が外にいる、、、何かあったら、、、」


「大丈夫です。朱莉さんのご友人はお強いんですから。今は、カイリさんのもとにいてあげてください」


とてもやさしい口調で朱莉の不安をかき消す。


「、、、わかりました。ハルさんも気を付けてください」


ハルはフフッと笑い朱莉の頭をなで、外へと歩き出した。




「、、、あんなん好きになるわ」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

目の前がぼやけ、視界が揺れる。


まるで世界がひっくり返ったかのように。


国センの横、森をまたいだ先、山の麓にある道路でリオンは血まみれになり倒れていた。


(なんで、、、急に目の前が、、、真っ黒になって、、、私、、、死ぬの?)


朦朧とする意識の中、せめて犯人だけでも見ようと目を開く。


(、、、あれは、、、白い服に、、、仮面?、、、もし、、かし、て)


ドサッ



地面に倒れこんだ。

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