追尾
或る夜、或る道の、愚かな追尾者達の話。
その夜は闇と形容するのが適当だと言える程、暗くて重いものだった。そんな夜の或る道に男達がいた。一人の男は、「追尾者」と呼ばれる、依頼されたターゲット(追尾対象者)をその名の通り追尾する職に就く者。そんな「追尾者」の本日のターゲットは、ストーカー行為を繰り返している男。その男の容貌は、『光を反射する黄色の髪、よれた灰色のシャツ』。そう、その男は今まさに、「追尾者」の前にいる。
男と「追尾者」の距離は、間に折れないパイプがあるように一定だ。男の歩みが早まれば、「追尾者」の歩みも早まる。男と「追尾者」の歩みの攻防は激しい。だが、異常なほどにその夜は静かだった。ふと、コツリと音がした。「追尾者」の失態だ。すると、男は歩みを止め、ポケットに手を差し込んだ。何かを取り出そうとする、それを待たずして、後ろから男の背中が照らされた。「追尾者」は賭けに出た。驚き、振り返った男は、光を反射する金色の髪、汚れたグレーのシャツという格好だった。彼は一瞬、眩しそうに目を細めたが、すぐにまたポケットから何かを取り出そうとした。でも、「追尾者」にはその一瞬の隙でよかった。その一瞬のうちに「追尾者」は男との距離を詰め、捕縛した。捕縛された男の手からは、携帯端末が落ちた。携帯端末には「緊急逃走用連絡先…」と表示されていた。男は初めから追尾に気づいていた。「追尾者」も男も、賭けに出ていたのだ。でも、「追尾者」の計算に男は勝てなかった。「追尾者」が男を捕縛したまま、どこかに連絡し、程なくして「追尾者」の仲間の乗る黒塗りの車がやってきた。「追尾者」と男はその車に乗り込み、闇夜に消えていった。
「はぁあ…また失敗している。本当の『追尾対象者』を見分けられないのか…。そもそも僕のことにさえ気づいてないようだな…愚かだ。はぁ…彼もお金に目が眩むとはな。まぁ、愚者にはさまれて歩く感覚も楽しかったが。でも、あの『追尾者』め…あかりを使うなんて、僕の存在がバレるかと思った…」
車の去った道の中で、僕はぶつくさ言いながら、闇と同じ色のパーカーを脱ぎ捨て、『光を反射する黄色の髪』を露わにした。そして、ため息をつきつつ、『よれた灰色のシャツ』を整える。
「ふわぁあ…でも、全部僕の想像通りか…やはり、つまらないな」
欠伸をしながら、僕は帰路についた。
男達が消えた道には、闇色のパーカーと男の「…絡先by中央の真実」と表示された携帯端末だけが残されていた……
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