家族会議
弟は、両親に激詰めされた。ま、とーぜんだよね。我が家に無関係なメイドチャンに隠し通路を教えたんだから。
「我が家の部外者に緊急脱出用の隠し通路を教えたらダメだと、なぜ思いとどまらなかった!?」
「……」
「黙ってないで、何か言ったらどうなの? あなたも理由があってこんなことをしたのでしょう?」
お父様もお母様も無視してうなだれているので、あたしも声をかけることにした。ちょいちょい、っとメイドチャンを手招きして傍に寄せる。
「もしかして、この純情そうでまっすぐなかわいいかわいいメイドチャンに惚れちゃったんじゃねーの!?」
メイドチャンの頭を抱きよせながらそう言うと、顔を真っ赤にした弟が叫んだ。
「なっ!? ち、ちが」
「ふーん」
あたしがにやにやしていると、その様子を見たお父様とお母様が一瞬考えた後、あたしに怒鳴った。
「ミシェル! 大切な話をするから、お前はあっちで遊んでろ!」
「はぁ!? あたしもれっきとしたこの家のご令嬢なんだけど!?」
「……ムサルト、頼む」
お父様がムサルトにそう指示を出すと、ムサルトがあたしの方を見て、困ったように笑って言った。
「ミシェルお嬢様。私と一緒にお茶をしてくださいませんか? とっておきの軽食をご準備いたします」
「とっておき……?」
あたしはムサルトにつられて、庭園に出ることにした。
「お待たせいたしました。こちら、コーラ風のドリンクです。シュワシュワするのでご注意ください」
「シュワシュワ……?」
一口口をつけるとシュワシュワした。ガツンと来る甘味に、スパイスのような独特の香り……これ、どうやってのむんだ?
「ごくごく飲んでしまってください。こちら、トリュフ塩味のポテチとトルティーヤチップスとサルサソースです」
「なんこれ?? ……うま! 辛! たまらん!」
「お気に召していただけたようで、恐悦至極でございます」
「やべ、でる!」
思わずげっぷをしたところでお父様が現れて、あたしの頭を思いっきり殴った。
「ミシェル! お前、貴族令嬢という者がなぁ」
「あたしはこの家に関係ないんでしょ!?」
あたしが頬を膨らませて言い返すと、あたしの周りにいたみんなが、お父様に冷たい視線を送った。
「いや、その、すまなかった……伝えたいことがあるから、来てくれるか?」
そう言ったお父様の顔が真剣だったから、思わずあたしはムサルトと顔を見合わせて頷いた。
「我がスターナー伯爵家の後継をミシェルにしようと思う」
「え!? あたし!? あたし、のんびりごろごろ領地の隅っこで暮らすのが目標だったんだけど!?」
「その、ミシェルは功績を上げすぎたし、王家のあれこれを知りすぎている。それに、ムサルトと結婚するんだろう?」
「え、まぁ、うん」
なんかこっぱずかしくてそう言っていると、横からムサルトが出てきた。ちょ、ま、なんか近くない? ムサルトの顔ってこんな整ってたんだ……まつ毛なっが。
「もちろん、ミシェルお嬢様と結婚するつもりですが? ミシェルお嬢様の願いも叶えるために、執務は私がこなし、基本的にはごろごろだらだらしていただく所存です」
赤くなって照れているあたしと対照的に、お父様に対して絶対に譲る気がないという微笑を送るムサルトからは冷気が出ているようだ。お父様が顔を青くしてこくこくと頷いている。
「も、もちろん、こんなミシェルを受け入れてくれるムサルトとの結婚に口出しするつもりは一切ない。逆にムサルトの身分とミシェルの身分が釣り合うのか、ひぃ!」
お父様が小物らしく悲鳴を上げたところで、執事長がこそっとお父様の耳元でなにかつぶやいた。
「何!? 善は急げというし、ちょうどいいか……。ミシェル。ムサルトと一緒に再来週の夜会に出席するぞ。第一王子殿下がお呼びだ」
「それって……モノホン?」
「いや、王子サマの方だ」
「めんど~。ま、しゃーないか。りょ!」
「あなた?」
思わずあたしの呼び方を真似したお父様は、お母様に耳を引っ張られ、注意されている。
「不敬ですわ! 王家に仕える、」
今のうちにあたしは逃げよっと。ま、ムサルトと一緒ならなんでも大丈夫か! こそこそと部屋から出ていくと、ムサルトが小声で耳打ちしてきた。なんか、やばいからやめろって!
「ミシェルお嬢様。おそらく弟君がメイドと結婚するには、メイドの身分が足りないので後継からお外しになったのでしょう」
「へぇ」
あたしは赤くなった耳を抑えながら、にやりと笑った。あえてお父様があたしに伝えなかったんだろうけど、ムサルトが教えてくれたからには、からかって遊ばないとね?




