表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/66

部下とは

 いつの間にか、虹色の変な服を着た集団が現れた。一番先頭の長いひげのじいさん。その横で偉そうに胸を張るローズちゃんの部下のおっさん。


「アマルド……これは、何事ですか?」


 ローズちゃんが絶対零度以上に冷たい空気を放って、おっさん部下に問いかけた。


「アンブローズ様。そこの彼女は聖女ですぞ。聖教に報告の義務がございます」


 胸を張ったおっさん部下に、ローズちゃんが笑みを浮かべて言った。


「アマルド、その者たちを()()()()()()()ここに入れたのですか?」


「それは……」


 言いにくそうに口をつぐんだおっさん部下を押しやるようにして、ひげ爺さんが現れた。


「魔法の塔の魔術総長さんや、彼をそんなに責めるでない。こんなおいぼれを連れてくるのは、正規ルートでは無理じゃろう。関係者専用通路とやらからここまで連れてきてくれたんじゃ。彼は敬虔な聖教徒じゃよ」


 笑みを浮かべておっさん部下に振り返ったひげ爺さん。一方で、顔色を悪くしたおっさん部下に表情を険しくしたローズちゃんが言った。


「我が魔法の塔の関係者通路を、無関係なここまで大人数の聖教関係者に開示した、というわけですか」


 聖教関係者をぐるりと見渡したローズちゃんに、顔色をさらに青くしたおっさん部下。まぁまぁ、と言わんばかりにひげ爺さんが間に入ってきた。


「総長さんや、今は聖女」


「お黙りください!」


 間に入ってもらって、ほっとした様子を見せたおっさん部下は、もはや土色の顔になっている。ローズちゃんは、魔法の杖をひげ爺さんに突きつけ、威圧する。


「聖教会が魔法の塔に口出しする権利はないはずです。今は、我が魔法の塔の定める魔法の塔の規則に基づき、この違反者を裁いているのです。聖教会がそのように越権行為をなさるのでしたら、我々魔法の塔も黙っていませんよ?」


 圧倒的魔力に圧倒されたように、聖教会関係者は押し黙った。ローズちゃんは、そのまま杖をおっさん部下に向け、拘束魔法を展開した。


「……アマルド。あなたは、“魔法の塔の規則” 第24条 魔法の塔に関係者以外を関係者通路の存在を開示し、また、それを利用させることを禁ずる に違反しましたね? それだけでなく、第10条 魔法の塔の中で起こったことを許可なく塔外に知らしめることを禁ずる こちらも塔内で起こった()()の力を無関係な者に知らしめました。どちらも重大な違反行為です。二重違反者は即刻魔法の塔を追放し、二度と立ち入りを禁止します。初代総長の作った違反者への罰則紋を押印し、役職はすべて解雇、今すぐここから立ち去りなさい」


「そ、そんな。アンブローズ様。聖女を見つけたら教会に報告するのは、聖教徒の義務です!」


「あなたが年若い私を、総長として認めていないのは知っていました。しかし、違反行為を許すほど私は甘くありません。……そんなに聖教徒としての義務を優先するのなら、聖教会で立場をもらえばいいだけではありませんか。我が魔法の塔には、規則を守らない生物は一切不要です」


 そう言って、ローズちゃんが罰則紋をどこからか展開し、おっさん部下の顔に押した。そして、なにか魔術を唱えると、おっさん部下の必要最低限の荷物が用意され、おっさん部下を包んで、森の外に放り出された。聖教会関係者は、おっさん部下のすがるような目から逃れようと、必死に目をそらし続けていた。違反紋をつけられたおっさん部下を重用することは、あからさまに魔法の塔への敵対行為と判断されるだろう。たとえ、ローズちゃんが気にしないとしても。



「……申し訳ございません。我が部下の責任は、私の責任です。必要ならば、私にも違反紋を」


 そう言ってローズちゃんがあたしたちに頭を下げた。あたしが聖女だと、教会にバレないようにあたしの家名や名前を出したり、あたしに対して頭を下げたりするのではなく、守ろうとあがいてくれているのだ。部下の責任は上司の責任。しかし、今回はローズちゃんへの反意を持って部下が独断で行った違反行為だ。これをローズちゃんの責任にするのは、あたし的に遺憾である。


「……あなたにまで責任を求めることは、彼の者の狙い通りになってしまいます。我々は、あなたへの責任を一切求めません」


 ムサルトが、一歩前に出てそう言った。ムサルトの顔が明らかになると、聖教会の者たちがざわざわとさわぎはじめた。


「……ありがとう存じます。せめて、この者たちを塔外に飛ばしましょうか?」


 そう首を傾げるローズちゃんに、困ったようにムサルトが笑った。


「ちょうどいい機会です。聖女様の存在を、……私の正体を皆様に知らせる」


 そう言ったムサルトの顔は、とてもさみしそうに見えた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ