争奪戦
「無事、皆様の今後が決定しましたね」
ずっと黙っていたローズちゃんが、手を叩きながら口を開いた。隣にいたはずの部下の姿が見えず、あたしが首を傾げる前に、お父様が口を開いた。
「あれ、部下の方の姿が見えませんな」
「用事があるから、とどこかに行ってしまいました。では、せっかくですから、そちらのメイドチャンに拘束魔術を施しておきましょう」
そう言ったローズちゃんが複雑な魔方陣を展開し、メイドチャンに向けて放った。
「……」
不快感等はないようだが、人を拘束する……必要なんだろうけど、我が家から出るには内部の協力者がいないと不可能だ。内部の協力者は、お姉さまからの愛情いっぱいの指導をすれば、もう二度と同じことをしようとは思わないだろう。なら、この魔術必要なくね?
そう思ったあたしが、メイドチャンに近づくと、手を差し出して問いかけた。
「わたくし、スターナー伯爵家が長女、ミシェルと申しますわ」
「……」
「謹んでお受けいたします」
「……どういう、」
あたしが手を伸ばし、魔方陣を展開する。先ほどの魔方陣の逆の作用を作れば、解除されるだろう。
「私の……魔術が……破られ……」
絶句するローズちゃん。あたしは、メイドチャンの手を取って笑顔を向けた。
「わ、私……拘束されていなくていいんですか?」
笑みを深めたあたしに、驚いた様子のメイドチャンがわぁっと泣き始めた。
「う……わ、私、し、ぬ、ことに、なるんだって、覚悟して、」
そんなメイドチャンを優しく抱きしめようとしたら、突然身体にすごい衝撃がかかって、ローズちゃんに手を引っ張られていた。
「あなた! すごいです! すごい魔力に魔力操作、天才としか言えません! ぜひ、我が魔法の塔に来てくださいませんか!?」
ローズちゃんを引きはがして、あたしを後ろに隠したムサルトが、青筋をピキピキさせながらローズちゃんに対抗した。
「恐れ入りますが、ミシェルお嬢様は領地から出すつもりはありませんので」
「あら、あなた……。でも、あなたがミシェル様の婚約者ということは、ミシェル様は国外に」
「お黙りください。それ以上言ったら承知しませんよ?」
何か言いかけたローズちゃんを、ムサルトはものすんごい圧で黙らせた。こわ。あたし、空気になってよっと。
「ミシェルお嬢様。ムサルトはなにがあろうとおそばにおりますから、この女の言葉はすべて無視してくださいね」
にこにことあたしの手を取ってそう言うムサルトに、あたしはコクコクと頷くしかなかった。
「こちらです!」
突然、野太い男の声が聞こえた。どっかで聞いたことあるようなと、あたしが記憶をたどっていると、緊張したようにムサルトがあたしを後ろに隠した。




