実行犯からのメッセージ
「緊急で、国王陛下から招集がかけられた」
「またぁ?」
「ミシェルちゃん?」
「喜んで登城いたします、お母様」
「こんな早朝からのお声がけだ。よほど緊急の要件だろう。ミシェルが言葉を発する必要はないと思うが……」
「いつものやつね! まっかせておいて、お父様」
お父様が怖い顔で後ろに腕を組みながら、いつものように大声で言った。
「いいか。お父様との約束だ。復唱!」
「決められたセリフ以外、話さない!」
「決められたセリフ以外、話さない!」
「振る舞いはお淑やかに!」
「振る舞いはお淑やかに!」
「微笑みを絶やさない!」
「微笑みを絶やさない!」
「最後にできるだけ声を発するな!」
「なんも話さない!!」
お父様のぐりぐりはさっとよけることができた。代わりに玄関ホールに飾ってあったお父様のお宝の壺にぶつかって割れたけど。
「あああああ、一億金貨の価値のある壺が!」
「……あなた? それ、一万金貨で買ったって言っていたわよね? どういうことかお話聞かせていただきましょうか?」
決められた台詞
「わたくし、スターナー伯爵家が長女、ミシェルと申しますわ」
「よろしくお願いいたします」
「また、両親に相談してお返事いたします」
「ありがとうございます」
「まぁ」(困った顔)
「申し訳ございませんが、わたくし……」(悲痛な顔)
「申し訳ございません」(真剣な顔)
「幼い頃から心に決めた方がおりますの」(愛しい人を思い浮かべる顔)
「光栄でございます」
「謹んでお受けいたします」
「お父様。お願いしますわ」
「早朝から呼び立ててすまないな」
「お気遣いただきありがとうございます、陛下。しかし、スターナー伯爵家一同、陛下のお呼び立てでしたら、いつ何時も駆けつける所存でございます」
(まじ勘弁。あたし、朝はのんびりしたい派なんだよね)
(阿呆娘! 夜中の呼び立ては嫌でも嘘も方便という言葉があってだな!)
(お父様、ギリ声に出ていないけど、表情にめっちゃ出てる!)
(はっ!?)
「ははは、さすがに夜中には呼び立てんよ、スターナー伯爵。近衛の調査部隊は夜中から動いていたがな」
「近衛兵の調査部隊が……?」
「王妃殺害未遂の実行犯であるピンク髪のメイドが殺された。獄中で、だ」
「そんな!? あの警備のしっかりとしている獄中でですか!?」
(国王サマの呼び方も”ピンク髪のメイド”なんだ……)
「犯人を捜すための現場検証等は済んでいるのだが、手掛かりが一つしかなくてな……それをミシェル嬢に見てもらいたいのだ」
「……なぜ愚娘なのでしょうか?」
「死者からのご指名だ」
「は?」
現場はきれいに片付けられていて、さすがに死体を令嬢に見せるわけにいかないという近衛の思いをひしひしと感じた。
「ミシェル嬢
黒い瞳のアクセサリーをたどって」
床に血で書かれたその文字と人の形の印以外、人が殺された証拠は残っていなかった。
(黒い瞳って指示した犯人の眼の話じゃないの?)
(わからぬが、聞いてみよう)
「黒い瞳のアクセサリーとは……」
「あぁ。ピンク髪のメイドは、首にネックレスをつけていた。ほら」
差し出されたのは、黒真珠が一粒ついたネックレスであった。
(黒真珠とは、なかなかいいものを持っているな)
(これ、そんないいものなの?)
(大きな粒で均等な丸み、傷もなく強い輝き……一介のメイドが持てるものではない)
(黒真珠のアクセサリーをたどるってどういうことなのよ…)