魔法の塔とは?
「まぁ」
「……すごいな」
(うわ、やばぁ)
「見惚れるミシェルお嬢様の美しさは、形容できないくらい美しい」
各々が塔?に見惚れる中、王子サマが先を指さした。
「塔までの道は、険しいぞ?」
平坦に続く石畳の道は、普通の小道に見えた。不思議そうにあたしたちが首を傾げると、王子サマが手ごろな石を二、三個拾い、道の上にひょいっとなげた。
こつん、こつん、こつん、と転がった石は、突然姿を消した。そう思ったら、どこからか現れた大蛇に咥えられていた。他のものは落とし穴に落ちたり、魔術に巻かれて姿を消している。
「落とし穴に、魔獣。トラップだらけの道だ。見た目ほど美しくない」
「王族も魔法の塔に行くときに通る道なんですよね!?」
お父様が思わず手を組んで、お願いのポーズで王子サマに振り返った。
「……魔術師たちが王族に敬意を持つと思うか?」
「それは……」
独自の権威を与えられた魔術師たちが王族に傅く姿は、正直まったく想像できない。
「事前にトラップに場所を連絡が来るなど……」
お母様がすがるように王子サマを見つめた。緩く首を振る王子サマにお母様が絶望する。
……なんでかって言われるとわかんないんだけど、なぜかあたし、行ける気がするんだよね。
そう思って、一歩足を進ませると、慌てた様子のムサルトに抱きかかえられた。
「ミシェル!?」
「ミシェル嬢!?」
「ミシェルちゃん!?」
驚く面々を振り返り、あたしはにっこりと淑女の笑みを浮かべた。
「謹んでお受けいたします」
ムサルトに抱き上げられたまま、あたしは指示を出す。
(お父様、そこ、左に動くと大石が落ちてくるから、足はそのまま身体だけ右寄りで進んで!)
(王子サマ、そっちにいくと幻影の魔術にかかるから、もうちょい左寄りに!)
(お母様、怖いからって遅れないで! おいてくよ!?)
(とうっちゃーく☆)
「誰も魔術にハマることなく塔に着いたのは、初めてだ」
「……ミシェルがすごいのか、ムサルトがすごいのか……」
あたしとムサルト以外の三人がぜぇぜぇと肩で息をしていると、塔のドアが開いた。あたしはムサルトにそっと床におろされる。
「おや? 魔術が何も発動せずに、来訪者とは珍しい……」
真っ白いローブを羽織った壮年の男性が、同様の真っ白いローブを羽織った若い女性を引き連れて現れた。
「皆様、ごきげんよう。魔法の塔へようこそ。我々は来訪者を歓迎いたします」
美しい挨拶をして、にこりとも微笑まない女性がそう言って、杖を軽く振ると、後ろで閉じていたドアが一人でに開き、ドアまでの道に真っ白なカーペットが敷かれた。魔法の残響がキラキラと輝いている。
「ほう、アンブローズ様がそこまで歓迎するとは、珍しい」
壮年の男性がそう言って、顎を軽く撫でた。
「アンブローズ様……歴代最高の魔術師。現在の魔法の塔の魔術総長だったはずじゃ……。しかも、男性だと思っていたら、こんな若い女性……」
小声で王子サマがなにかぶつぶつ言っている。
(アンブローズって長くて言いにくいから、ローズちゃんでいっか)
「ご、ごふぉっ!」
そうあたしが思うと、ローズちゃん以外の全員からすごい音がした。顔を真っ青にした全員からの視線を受ける。
「……ふふ、貴女おもしろいですね」
ローズちゃんが、満面の笑みであたしを見てくる。
(え、なんで全員にあたしの考え、ばれてんの!?)
「大変いいにくいのだが、ミシェル嬢の心の声は、ある程度の魔力を保有する者なら聞こえるだろう」
(は? 今までバレなかったのに、あたしの淑女のお面外れまくりってこと!? てゆーか、ムサルトは? 魔力をそこまで持たないはずなんだけど!?)
「愛の力ですよ、ミシェルお嬢様」
満面の笑みでエスコートしていた手を握り、その手に口づけを落としたムサルトに、一同はなんとも言えない表情を向けた後、あたしに向き直ったローズちゃんが笑顔で言った。
「どうぞローズちゃんとお呼びください」
「アンブローズ様が笑った!?」
(え、めっかわ!)
(ミシェル……相変わらず絶妙に古いな)
後ろでおっさん魔術師がわめいている。照れた様子で笑みを浮かべるローズちゃんに、あたしも笑みを浮かべ挨拶を返した。
「わたくし、スターナー伯爵家が長女、ミシェルと申しますわ」
「ミシェル様。今回は、我が棟の魔術師に御用ですね。ご案内いたします」
そう言ったローズちゃんの案内で、魔法の塔の中に入ることになったのだった。




