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魔法の塔へ

「……陛下。歓談中ですが、火急の用ができましたので、我がスターナー家一同、御前を失礼させていただいてもよろしいでしょうか? ……殿下と親子の対話をお楽しみください」


「……許可する。しかし、我が息子もつれて行け。どうせ、うちの息子のことだろう?」


「はっ」




 突然、置いていかれたり連れていかれたりと、王サマとお父様(パパ)に押し付け合われた王子サマは、目を白黒しながら、ついてきた。謁見の間から出たところで、お父様(パパ)をちらりと見たあたしが言う。ムサルトたちも部屋を出たところで待機していたようだ。いつの間にか王子サマからあたしの手を取り返して、エスコートしてくれている。





お父様(パパ)、もう用済みだからって、王子サマの押し付け合いは可哀そうだよ)


「なっ!?」


(……ミシェル。押し付け合いではない。危険な地に王家の方を連れて行きたくないだろう? 下手したら、うちも責任を問われかねない……)


 がくがくと震えるお父様(パパ)と、思わず声を出してしまった王子サマの姿を見て、お母様(ママ)が大きなため息を吐いて、取りまとめた。


「陛下から許可をいただいたのですから、殿下にはついてきていただかないといけませんわ。早速、魔法の塔に向かいましょうか、あなた?」


「そ、そうだな!」


 気を取り直したお父様(パパ)に、王子サマもいつもの笑顔を浮かべて言った。





「普通に向かうとなると、かなり距離がありますが、僕がいると王家の転移魔方陣が利用できるので、それで向かいましょうか? こちらにどうぞ」


 謁見の間を出て、広間に戻ったと思ったら、大きな階段を上って、小さな階段を下りて、ドアを開いて、またぐるぐる階段を上って、以下略して、小さな扉を開いたら、青白く輝く魔方陣のもとのたどり着いた。


「……転移魔方陣の起動方法は、王家の秘匿とされております。部屋の前でお待ちください」


 一瞬魔方陣が見えたと思ったら、すぐに扉を閉じてそう言われた。お前だって王家の偽物じゃねーか。そう思いながら、あたしたちが待っていると、思っていたよりもかなり早く扉が開けられ、部屋の中に入れた。


「どうぞ、こちらへ」


(うぉぉぉ! すっげぇぇぇ!)


 あたしの野太い感動の声に頭を抱えたお父様(パパ)お母様(ママ)、うっとりとあたしを見つめるムサルト、苦笑して見つめている王子サマ。そんなめちゃくちゃな状態で、一番最初に気を取り直したお母様(ママ)が、王子サマに問いかける。


「王家の転移陣の利用は初めてなのですが、どのように利用したらいいのでしょうか?」


「そうでした、案内しますね」


 王子サマの案内で、あたしたちは魔方陣の中に押し込まれた。


「僕が入ると転移が開始します。転移酔いに気を付けてください」


「待っ」


 転移酔いという言葉を聞いて、淑女のお手本のようなお母様(ママ)が慌てたように声を上げたが、間に合うことなく王子サマが転移の魔方陣の中に入ってしまった。


 一瞬景色が歪んだと思ったら、目の前が真っ暗になってぐわんと身体が揺れるような感覚がきた。そして次の瞬間には、先ほどとは違う転移陣の中にいた。


「到着いたしました。……スターナー伯爵夫人、何かおっしゃいましたか?」


 きょとん、と言わんばかりに、王子サマがお母様(ママ)に問いかける。

 顔を真っ青にしたお母様(ママ)は、ハンカチで口もとを抑えながら、静かに首を振った。片手でお父様(パパ)の肩を借りている。


(……お母様(ママ)、酔った? 治癒魔法かけよっか?)


(頼む、ミシェル)


 貴婦人たるお母様(ママ)が人前で顔色を悪くするなんて、一大事だ。あたしがお母様(ママ)の近くに寄って手をかざすと、ピンク色のかかった白い光がお母様(ママ)の周りに漂った。


「ありがとう、ミシェル」


 お母様(ママ)に淑女の笑みが戻り一安心していると、王子サマが真っ青な顔をしてこちらをみてぶつぶつ言っていた。


「今のは……聖獣様がミシェル嬢を認めた、桁外れた魔力、神に愛された容姿、一度見ただけで使いこなした治癒魔法……」


「殿下。必要でしたら、ミシェルに治癒魔法を使わせますが」


(だいじょぶ? 酔った?)


 あたしたちが心配そうに見ていると、王子サマが顔を真っ青にしたままこちらを向いた。


「これは、違うから大丈夫だ。そうではなくてだな、その、以前のミシェル嬢の治癒魔法は一般的なものだったと思っていたが……いつからそんな色になった?」


「いつからだったでしょうか? ミシェル、わかるか?」


 お父様(パパ)の問いかけにあたしはこてりと首を傾げて言った。


「まぁ」(困った顔)


「フライアはわかるか?」


「ミシェルが、我が家の屋敷の裏の森で、治癒魔法の練習台にしてやると言いながら、手あたり次第動植物たちにかけて始めた頃でしょうか? 治癒魔法が成熟するとこうなるものだと思っておりましたが」


「宮廷治癒師の治癒魔法が、そんな色していなかっただろうが!!」


「まぁ、確かにそうですわね」


「そう言われると、そうだな」


 王子サマが思わずといった様子で吠えると、お父様(パパ)お母様(ママ)もほんわりと首を傾げた。


(ピンクくても、効いてれば問題なくない?)




「こほん。人前で治癒魔法を使わない方がいい。本気で僕の妃になりたくないのならな」


「え?!」


 お父様(パパ)が吃驚したように王子サマをみた。すっかりあたしのことを諦めていたと思ったのに。ムサルトも殺気を放っている。


「治癒魔法を使う際に、一定の、あの色に輝くのは、聖女の証しだ」


「聖女!?」


「がさつで野蛮で粗暴な娘が!? ふふふ、ありえませんわ」


「そうだな。こんなのを聖女にする神なんているはずがない」


 大爆笑するお父様(パパ)お母様(ママ)。一方で、聖女と言われるとミシェルお嬢様の豊かな才能や美しい容姿、納得できてしまうとぶつぶつつぶやいているムサルト。信じる気のないお父様(パパ)お母様(ママ)に、一瞬驚いた後、呆れた目をした王子サマが、あたしの目をまっすぐ真剣に見つめて言った。


「忠告したからな?」


 真剣すぎる王子サマの目に冗談でないんだと、あたしは緩く頷いた。


「では、部屋の外に出よう。目の前が魔法の塔だ」


 そう言って、王子サマが扉を開けると、目の前に緑豊かな石造りの塔が現れたのだった。





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