実行犯への聴取
「ねぇ、お父様。国王サマにお礼を考えておくようにって言われたけど、何がいいと思う? やっぱ、現金?」
「なんでお前はそうも楽観的なんだ。今回の陛下からの依頼は王命に近い。犯人を確実に見つけなければならないのに」
「ん? 見つけるだけでいいの? 一応捕獲用の縄、持ってきたけど……」
「阿呆娘! 容疑者一覧をちゃんと見たのか! どうひっくり返っても我が家の力では、疑いを持つだけで不敬になりかねない面々だろうが! まったくもう……まあ、今日は単なるメイドだから、そこまで気にしなくていいが……」
お父様が怖い顔で後ろに腕を組みながら、いつものように大声で言った。
「いいか。お父様との約束だ。復唱!」
「決められたセリフ以外、話さない!」
「決められたセリフ以外、話さない!」
「振る舞いはお淑やかに!」
「振る舞いはお淑やかに!」
「微笑みを絶やさない!」
「微笑みを絶やさない!」
「最後にお願いだから、平穏に犯人を捕らえること!」
「偉い人を縄にかける!」
お父様に頭を思いっきり叩かれた。
決められた台詞
「わたくし、スターナー伯爵家が長女、ミシェルと申しますわ」
「よろしくお願いいたします」
「また、両親に相談してお返事いたします」
「ありがとうございます」
「まぁ」(困った顔)
「申し訳ございませんが、わたくし……」(悲痛な顔)
「申し訳ございません」(真剣な顔)
「幼い頃から心に決めた方がおりますの」(愛しい人を思い浮かべる顔)
「光栄でございます」
「謹んでお受けいたします」
new! 「お父様。お願いしますわ」
牢番に案内されながら牢獄に入ると、捕らえられたピンク頭メイドが、こちらをにらみつけてくる。
「ありがとうございます」
牢番に満面の笑みでお礼を言うと、鼻血を出しながら去っていった。倒れないんだ。つまんないの。
「阿呆娘! 牢番で遊ぶんじゃない」
(だってお父様、ここに入るまでいろいろ、手荷物とか調べられて面倒くさかったんだもん。美貌を使ったいたずらくらいかわいいものでしょ?)
(まったく……)
ピンク頭の牢の前にしゃがみ込み、笑顔を浮かべてあいさつする。
「わたくし、スターナー伯爵家が長女、ミシェルと申しますわ」
「よろしくお願いいたします」
ちらりとこちらを見たピンク頭は、あたしの笑顔を見て固まった。
(どうしよう。お父様。こいつが壊れるのは想定外)
(聴取にきたのに、なにやってるんだ! 自分の美しさをいい加減理解しろ!)
(自分でも少しは整ってるなとは思うけど、自分の顔なんて見慣れているし)
(まったく……メイドがこっちに戻ってくるまで待っておくぞ)
数分後
「はっ! 天の国に招かれていた気がするわ!」
「ピンク髪のメイド殿。うちの娘が美しすぎてすまなかった」
「……! そうよ! あんたが私のことを見抜いたって聞いたわ! 隠匿魔法をかけていたのに! よくも……このかわいい私……え、私ってかわいかったはずよね?」
あたしの顔を見て不安げになったピンク頭は、お父様のピンク髪のメイドという表現も気にせず、あたしの美貌に嚙みついてきた。
「よろしくお願いいたします」
満面の笑みをピンク頭に向けようとするあたし。
(もう一度、この笑顔で気絶させてやろうか?)
(阿呆娘! せっかく話すようになった犯人をまた気絶させるつもりか!)
「な、なによ! その顔! ちょっと……いや、かなり顔がいいだけのあんたになんか、負けないんだから!」
「ありがとうございます」
(顔がいいって褒められたんだから、お礼くらい言ってあげないとね。ピンク頭もまあまあかわいい顔だけどね)
「お父様、お願いしますわ」
細かい聴取をあたしが行うと、決められたセリフのルール違反になる可能性があるから、お父様にお願いして、情報の聴取を始めた。
「今回の王妃陛下殺害未遂について、ピンク髪のメイド殿の独断ではないだろう。背景にいる人物について教えてもらおうか」
「ピンク髪のメイドって呼び方、なんなの。まぁ、いいけど。誰に頼まれたかって? 知らないわよ。会っていたけれど、顔は見たことがないし。黒い瞳だけは覚えているけどね」
(黒い瞳だと、高位貴族では比較的多いから絞り切れないじゃんね?)
(そうだな。もしかして魔法で記憶を消されているのか? 痕跡を探れるか?)
(まっかせといてよ、お父様! あたしに使えない魔法なんてない!)
牢に入る時に魔法痕跡を確認する魔法をかけられたから、あたしはその魔法をさっさと真似する。
(うーん……魔法の痕跡はなさそうだけど)
(じゃあ、どのように“黒い瞳”以外の記憶を残さずにピンク髪のメイドと会ったのか……)
(ちなみに、隠匿魔法はピンク頭の能力か確認しといて、お父様)
「ピンク髪のメイド殿。隠匿魔法は、そなたの魔法だろうか?」
「そうよ。だから、私がこの役割になったんだもの。私ほどの隠匿魔法の使い手、なかなかいないのよ? うまくいけば、故郷の家族が飢えずに済むくらいの報酬がもらえて、弟の病気も治ったかもしれないのに……」