王子サマとの謁見に挑もう
「とりま、王子サマに殴り込みにいかね?」
あたしの提案に、頭を抱えたお父様。しかし、大きくため息を吐いて言った。
「確かに殿下に話を聞かねばなるまいな、仕方ない。謁見許可をとってこよう」
そう言って、お父様が申請を出した。本来返答に数日かかるものなので覚悟していたが、即日即答で返ってきた。メイドチャンに何を聞いたのか気になるのかな? 自分の用意を終えて玄関ホールに着くと、ちょうど用意を終えてたお父様が現れ、怖い顔で後ろに腕を組みながら、いつものように大声で言った。
「こほん、では、いつものように……」
「いいか。お父様との約束だ。復唱!」
「決められたセリフ以外、話さない!」
「決められたセリフ以外、話さない!」
「振る舞いはお淑やかに!」
「振る舞いはお淑やかに!」
「微笑みを絶やさない!」
「微笑みを絶やさない!」
「殿下に不敬を働かない!」
「……」
「ミシェルちゃん?」
お母様が手に持っていた扇がパキリと音を立てて崩れ落ちた。……ひぃっ。その扇、鉄製……お母様付きのメイドがさっと新しい扇と濡れタオルを差し出す。準備良すぎじゃね!?
決められた台詞
「わたくし、スターナー伯爵家が長女、ミシェルと申しますわ」
「よろしくお願いいたします」
「また、両親に相談してお返事いたします」
「ありがとうございます」
「まぁ」(困った顔)
「申し訳ございませんが、わたくし……」(悲痛な顔)
「申し訳ございません」(真剣な顔)
「幼い頃から心に決めた方がおりますの」(愛しい人を思い浮かべる顔)
「光栄でございます」
「謹んでお受けいたします」
「お父様。お願いしますわ」
「お母様。お願いしますわ」
「なぜでしょうか?」
「お父様、王子サマにキモいって伝える言葉が足りなくね?」
「ミ―シェールー??」
「いて、いててて! ギブギブ!!」
お父様に頭ぐりぐりされたあたしは、ムサルトに髪を手早く直されて馬車に押し込まれた。
「ミシェル様。お気をつけて。ムサルト特製の簪を刺しておきますね?」
「ムサルト!? カンザシってなに!???」
あたしの問いは答えを得る前に、無情にも扉を閉められた。
王宮に到着し、殿下の執務室に案内された。
「急に来てもらってすまないな……」
笑顔で出迎えた王子サマが、あたしの肩を見て固まった。……なんでジュレちゃん見えてんだろ。あたしは思わず首を傾げた。
「すまない……ミシェル嬢の美しさに驚いてしまって」
「まぁ」(困った顔)
(ふふん、まあ、あたしの美しさは一朝一夕では慣れないよね)
(見た目だけは一級品なのにな……中身がな……)
(お父様きも、うざ)
(ぴえん超えてぱおん)
あたしの冷たい視線を受けて、お父様は気を取り戻した。
「愚娘をお褒めいただき、至極光栄にございます」
「美しいものを美しいと言ってしまうのは、当然のことだからね。さぁ、スターナー伯爵夫妻はあちらに座ってくれ。ミシェル嬢、僕の隣に腰かけてもいいんだよ?」
(お父様、断り文句いれろよ!? うざいから無理とかきもいから無理とか!!)
「申し訳ございませんが、わたくし……」(悲痛な顔)
お父様を睨みつけながら、王子サマに断りをいれる。
「ははは、殿下。婚約者のいる女性に隣を薦めるなんて、はは、ユーモアに富んでいらっしゃいますな。ははは、さぁ、ミシェル。お父様とお母様の間においで」
微笑みを浮かべてお父様とお母様の間に腰かける。
(ミシェル……殿下の誘い文句のとき、カンザシとやらが赤く光っていたが……ムサルトはどんな機能をつけたんだ!?)
(知らないし! 聞こうとしたら馬車を出したのはお父様じゃん!?)
あたしたちが揉めている間に、お母様が王子サマに謝っていた。
「王宮からメイドを呼びだしたにも関わらず、我が家内で行方不明にしてしまい……誠に申し訳ございませんでした。今、我が家の精鋭たちを使って捜索に当たっておりますので、どうかご容赦いただけると……」
「いや、いいよ。こちらこそ、うちのメイドが迷惑をかけてすまないね。あのメイドは虚言や問題行動があって、うちでも困っていたんだよ」
爽やかな笑顔で王子サマがメイドチャンをディスる。なにこいつこわ。 そう思いながら、メイドが淹れたお茶に口をつけた。




