《閑話》私室でのんびりしたい
「ムサルトは今回の件、どう思う?」
部屋に戻ってドレスからムサルト特製の部屋着に着替えた後、ムサルトに問いかけた。
この部屋着、普段は丈も膝丈のズボン型だし、腕とかもヒラヒラしてなくて楽なんだけど、部屋の外に出る時には、怖い顔をしたムサルトが差し出してくる上着を羽織ると、首を詰め気味のナイトドレス風になってまぢで便利なんだよね。お父様もお母様も怒らないし。
メイドたちにムサルトが「むっつり」とか言われてるけど、別に実害もなければ着心地もいいしまぢ卍。
「ミシェル様のお考えのままに」
執事然としたムサルトの態度に、あたしが唇を尖らせる。
「あたし的には、やっぱりあの王子サマが胡散臭いと思うんだよね」
あたしがそう言うと、ムサルトも微笑んで同意してくれた。
「僭越ながら、私めも同じ考えでございます」
「……ムサルトは何であたしの部屋に来ると、途端に執事になっちゃうのかな」
あたしがそう独り言ちると、ムサルトは横で何かぶつぶつと唱えていた。
「……婚約者だから特別に私室に入ることを旦那様に許可されたが、執事モードでいないとまずい……ミシェル様の部屋着姿の攻撃力がやばいぞ……」
「ねぇ、ムサルト?」
あたしがそう言って、ムサルトの服を引っ張りながらムサルトの顔を覗き込んだ。
「ひ!」
小さな悲鳴を上げて一歩後ずさったムサルトに、あたしは腰かけたカウチの上で足をぷらぷらさせながら言った。
「何? あたしは魔物かなんかだと?」
「いえ、ミシェル様のあまりの美しさの神々しさと愛らしさに驚いてしましま、しまいました」
「なにそれ? しましま?」
あたしが腹を抱えて笑っていると、ベストをぴしりと引っ張ったムサルトが、飲み物を準備してくれた。お母様のお気に入りになった、伝説の果実。あれをジュースにして、ミルクで割って、氷を細かく砕いて、はちみつをいれて……作り方はそれ以上よくわからないけど、ともかく美味いやつ。
プラプラさせていた足をカウチの上に引き上げ、だらりとしながらジュースを楽しむ。
「これ、まぢでうまい。これで酒も造ってね?」
「ミシェル様が成人の儀を終えられましたら」
そう言って、ムサルトはつまみセレクションを出してくれた。今日は桃のようだ。
「え、桃?」
「こちらをどうぞ」
そう言って、ムサルトは桃の上に生ハムを乗せた。
「え?」
あたしが思わず非難の声を上げると、にやりと笑ったムサルトがその上から塩と胡椒をかけた。胡椒は我が家でもなかなか見ない高級品だけど……。
「絶対まずいじゃん!?」
そして、上からオリーブオイルを垂らして、あたしの手にフォークを握らせた。
「お待たせいたしました。ミシェル様」
「ムサルトが失敗することはないと思ってたけどさぁ……これはないんじゃない?」
あたしがそう言いながら、フォークで刺して、一口齧る。
「む!? うまぁ!?」
あたしが感動して喜んでいたら、ムサルトが微笑みを浮かべて言った。
「ミシェル様のお口に合うと思いまして」
「ムサルト、天才! どうやっていろいろ思いついてんの!?」
「企業秘密でございます」
そう言って、口に指をあてたムサルトの色気がすさまじくて、あたしは思わず目線をそらし、桃をもう一つフォークでぶっさした。
「……うま、これ」




