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手下①の報告


「うす、じゃあ、順番に説明していきます。俺の担当部分をご覧ください。まず、同室のメイドチャンとピンク髪のメイドの関係性について、です。俺が女装して洗濯メイドに化け、メイドたちと話した時の光景を再生します」


 そう言って、頭に触角みたいなものをつけた手下①。なにあれまぢウケる。ムゴンがなにか触った手下①の頭の触角からドラゴンのビームのように何かが照射され、あたしたちの真ん中に半透明のメイドたちが現れた。


「なにこれ!? すっげぇ! あたしもほしい!!」


 あたしが騒ぐと、ムゴンがムサルトに何か箱を渡した。受け取ったムサルトが、中身を確認してムゴンに一言二言告げると箱を返す。そしてあたしを見たムサルトが笑顔で言った。


「ミシェル様、お静かにできたら、後ほど準備するようにムゴンに伝えましたから」


「まぢで!? ありがと、ムゴン!」


 あたしが満面の笑みを向けると、ムゴンは顔を真っ赤にして倒れた。


「ムゴン!? お嬢様、なんてことするんすか!」

「あれは耐性のない俺たちには兵器の笑みだよな」

「ミシェル様は、ご自身の顔面の威力を自覚なさる必要がありますからね?」

「ミシェル……禁止事項に満面の笑みをいれるぞ!?」

「ミシェルちゃん? 淑女らしい笑みの練習が足りなかったかしら?」


 手下①②だけではなく、その場にいた全員からなぜか怒られたあたしは、すんませーんと言葉だけで謝った。笑っただけじゃん? まじ遺憾。



「気を取り直すっす。再生します」


 手下①が何か操作し、目の前の空間に現れたメイドたちが動き始めた。思わず手を伸ばすあたしに、ムサルトが制止をいれる。……残念ながらメイドたちには触れなかった。




「今日もいい洗濯日和ね!」


「あら、あなた見ない顔ね?」


「ここ、いいかしら? そうなの。普段は別館にいるんだけど、なんかヘルプが出されたとかで派遣されちゃって。人でも減ったの?」


 自然な流れでメイドたちに交じる女装姿の手下①。思ったよりも手慣れた様子で洗濯をしているし、女装もよくいるメイドの一人によく化けている。他のメイドたちも手は動かし続けるけど、口も止まらない。なにこれすげぇ。


「そうなのよ! 幽霊騒動とかで人が減っちゃって。本当大変」


「あ、それ、別館にも噂が流れてきてたわよ。実際、どうなの?」


 新参者に教えようと、メイドたちのおしゃべりはさらに活発になった。


「一人のメイドが、王妃様を害そうとして処刑された話は知っているわよね?」

「あら、それ、処刑じゃなくて殺されたって聞いたわよ?」

「私は捨て駒として実行犯に仕立て上げられたって聞いたわ」

「ここだけの話だけど、あの子、第一王子のお手付きだって聞いたわよ?」

「なにそれ!? 初めて聞いたわ!!」

「詳しく聞かせて頂戴!」

「王子って、すっごく綺麗なご令嬢に一目ぼれしたんじゃなかったの?」


 一人目が話すと、次々とメイドたちの口が開く。


「それより、あの子に、どうして人が減ったかを教えてあげないとでしょ?」


「はぁい」

「あとで続きを聞かせて頂戴」


「ありがとう。あたし、王子様の大ファンだから、お手付きの話もあとで聞きたいわ」


 手をてきぱきと動かしながら、メイドたちのおしゃべりは続く。王子様の大ファンと言いながら頬を染めた手下①の演技力には、あたしは驚かされた。


「そのメイドが化けて出るっていうのよ! 何人か見た人がいるらしいの」


「そうそう、確か最初に見たのは、殺されたメイドと同室のメイドだったかしら?」


「あの二人、髪色以外本当にそっくりだったよね」

「絶対に姉妹か双子だと思っていたわ」

「生まれ故郷も近いんでしょう?」

「でも、メイド長に聞いたら、血縁はないって言ってたわよ?」

「あなた、本当によくあのメイド長に雑談振れるわね?」

「慣れれば怖くないわよ?」

「すごーい!」


 メイド長という単語が出たからか、メイド長の抜き打ちチェックを警戒してか、少し声が小さくなり、メイドたちはきょろきょろと周囲を伺う。


「同室のメイドはどこでそのメイドの幽霊を見たって?」


「部屋でらしいわよ! そんなことがあって、そのままそこで寝られるってすごいと思わない?」

「あの子、気弱そうなのに」

「殺された子は気が強いほうよね」

「でも、あの二人はいつも二人でくっついてたから」


「ふーん、その子たちの部屋ってどこにあるの?」


「そこよ、そこ」


 そう言ってメイドの一人が指差す先を手下①が見るのに合わせて、触角の投影する風景も動いた。


「上が第一王子の私室よね?」

「そうそう」

「確か、前は違う場所だったのよ。ある日突然、王子が私室の場所を変更したせいで、使用人棟の上に場所が変わったのよ」

「なんでだっけ?」

「あれじゃなかった? なんか病気気味か何かで使用人をすぐに呼び出せる場所にしたいって」

「まぁ、病気なら王族の居住空間にはあまりいれないよね」

「あれから、王子の声少し変わったと思わない?」

「そう? 病気の時の声はしわがれていて可哀そうなくらいだったけど、そんな変わったかしら?」


 一瞬、声を潜めていたメイドたちの話し声はまた活発になる。

 そこから、メイドたちが自分は実家に帰れないから仕事を続けざるを得ないと語り始める様子になり、映像が途切れた。


「え、これすごくない!? 本当にあたしもらえるの!? 嬉しい」


 あたしが喜んでいると、ムサルトがムゴンに小声で何か言っていた。


「ムゴン。ミシェル様にお渡しする際は、機能の制限を加えてくれ。後ほど、詳細を紙にして渡す」


「……」(こくり)




「以上のメイドたちの証言から、同室メイドとピンク髪のメイドの血縁関係を調べようと……」


⦅それは我が調べた。彼女らは、双子で間違いない。出生記録の写しがこれじゃ。そして、孤児院を経由して別の家庭に引き取られた証拠じゃ。そのことは、ピンク髪のメイドが知っていたと我は確信するが、証拠がない⦆


 突然あたしの肩から飛び立ったジュレちゃんが、紙をどこからか取り出して数枚ばらまいて戻った。




「さすが、お嬢様の使い魔っす!」


「じゃあ、俺が調べたものは次に進みます。メイドちゃんたちの部屋について、潜入して調べてきました」


 また、手下①の触角から映像が流始めた。



 誰もいない部屋に忍び込んだ手下①が、女子二人の私室を荒らす……変態臭がすごい。思わず、そんな目を向けると、「な、なんすか!?」と焦ったように言われた。


「誰もいないうちに、ここがピンク頭のメイドが立っていたと言われる場所か」


 手下①が映す場所は、なんの変哲もない床だった。


「こっちがピンク頭のメイドの引き出し……」


 引き出しをそっと開けるが、何もない。鍵穴とみられる部分には、何かで何度かひっかいたような傷がついていた。


「こっちがメイドチャンの引き出し」


 ガチャガチャとするが、カギはかかっているようだった。流石に鍵を開けてまで漁る趣味はないようで、次のキャビネットへと向かう。


「ピンク頭のメイドのキャビネットは、空か」


 キャビネットが空か確認して、扉を閉じようとすると、視界が赤く光った。


「ん? なんだこれ? 通知があります……?」


 そう言って、手下①が空を触るとキャビネットの扉をもう一度開いた。


「ん? 底板を外す……?」


 底板を外すと、何枚かの書類が出てきた。


「なんだこれ……我が愛しのピンクちゃん……とりあえず、持って帰るか」


 そう言って、手下①が紙を胸元にしまう。 


「この紙は後ほど手下②の時に使うっす」


「なになになになに!? ラブレター!?」


 あたしが興奮すると、ムサルトに諫められた。


「お嬢様が落ち着いたようなので、続きに行きます」


 手下①がそう言うと、次は手下①がメイドチャンのキャビネットを開けた。


「ふぉぉぉぉ! セクシー!!」


 私服やメイド服が掛けられている下の箱には、数々の下着がしまわれていた。あたしが興奮して叫ぶと、映像の手下①も興奮したように下着を何枚か手に取り、広げる。


「やっべ、すげぇ」


 嬉しそうな手下①に、あたしも共感する。


「なになにメイドチャン、こんなセクシーな下着、着ているの!? 大人しそうな顔して!?」


 そんなあたしに向かって、お父様(パパ)が駆け寄ってきて拳骨を落とした。


「いってぇ……」


 あたしがそう言うと、お母様(ママ)が絶対零度の微笑を浮かべて、手下①に詰め寄った。


「淑女の下着を人前でさらすなんて、なんて品のないことなのかしら? それに、勝手にそれを触るなんて……。貴方の大切にしている、あれやこれ、わたくしが晒してもよろしくて??」


「ひ、ひぃ!! 奥様!! 申し訳ございませんでした!! もう二度としませんので、それだけはご勘弁くだせぇ!!!」


 涙を流しながら、床に縋り付いて頭を下げる手下①。大変そう。


「ミシェルちゃん? 貴女も淑女らしからぬ行動、今は目を瞑りますが、後ほどおはなししましょうね?」


「ひぃいぃぃぃ! お母様(ママ)、お許しをぉぉぉぉ」


 手下①に並んであたしも床に張り付いたら、さらに怒られた。解せぬ。

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