手下三人組の帰還
「戻りました!」
手下三人組が王宮から帰ってきたという報告を受け、あたしたちはお父様の書斎に集まった。
「ご苦労だった」
「おっかえり☆」
お父様が声をかけた後ろから顔を出したあたしが、三人組をねぎらった。
「お嬢様!」
嬉しそうにあたしを見る三人組に、着席するように促したお父様。ムサルトが流れるようにお茶を入れ、お茶請けとして「にんにくの味噌漬けです」と言いながらオレンジ色の物体を差し出した。……あたしだけに。
「おいしそうな匂いじゃん!」
ぱりぽりと食べていると、全員からの視線を一瞬感じた気がしたけど、咳払いをしたお父様が手下三人組に声をかけた。
「それで、どうだった? 頼んだことははっきりとしたか?」
「えっと……」
手下①が口を開いた瞬間、ジュレちゃんが浮遊しながら窓の外から帰ってきた。そして自然にあたしの肩の上に降り立った。手下三人組が出てくと同時にどっか行ってたんだよね~。
「おっかえり☆」
⦅ただいまなのだ、ご主人様⦆
「今、外から窓を開けて入ってきたよな!? 鍵は!?」
なにやら叫んでいるお父様にあたしは問いかける。
「お父様、続きは?」
「あ、あぁ」
何か言いたげなお父様は気を取り直したように仕切りなおした。
「どんなものがあった?」
「はいっす、こちらをご覧ください!」
手下①が差し出した紙の束をムゴンが全員の手元に行くように配りまわる。
手元に届いた紙をぴらりとめくると、箇条書きの説明が書かれていて、ぴらぴらとめくっていくと色とりどりの写真が現れた。
「これは……絵ではないな?」
「はいっす! ムゴンの作った装置で記録した画像を紙に転写していったものっす!」
「すごいじゃん! 今度詳しく聞かせて!?」
あたしが身を乗り出して喜ぶと、横にいたムサルトにそっと押し戻された。
「何!?」
あたしが振り返ると、ムサルトが少し怒った顔をして、あたしの胸元を隠すように布をつけた。ふと見ると、手下三人組の顔が赤くなっていた。
先ほどまで驚愕に染まった表情を浮かべていたお母様は頭を押さえており、お父様も苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべていた。
「あ、ごめ~ん、谷間でも見えてた?」
あたしがそう言うと、お父様が瞬時に怒り出した。
「お前という娘は! 貴族令嬢としてだな!」
「いいじゃん! いいじゃん! 減るもんじゃないし? で、続きの方が大事じゃね?」
あたしが首を傾げると、お父様の横にいつの間にか移動していたムサルトがお父様の耳元で何かを囁き、お父様を椅子に座らせた。よくやった、ムサルトと思っていると、あたしの方を見たムサルトが満面の笑みで言った。
「ミシェル様。後ほど、お話をいたしましょう。では、皆様続きを」
「はい……」
なぜか背筋がぞくぞくしていて震えが止まらないし、返事が敬語になっちゃった。
「う、うす! 調査項目をまとめましたっす!
<メイドチャン 担当:手下①>
・同室のメイドチャンとピンク髪のメイドの関係性について
・メイドチャンたちの部屋について
<殿下 担当:ムゴン>
・殿下の部屋の作りの確認
・王子サマがキモイ理由
<ピンク頭のメイド 担当:手下②>
・ピンク頭のメイドと殿下の関係性について
・ピンク頭のメイドを大臣が養子にしようとした理由
<全員>
・王家の秘密について
こんな感じで調べましたっす!
」
「ミシェル?」
「ミシェルちゃん?」
「やばっ」
「「王子サマがキモイ理由”はひどい」でしょう?」
「ちゃんとお父様とお母様にバレないようにしておいてよ~!」
あたしが手下三人組にそう声をかけると、手下三人組が縮こまった。ムサルトが嬉々として、お父様とお母様のお茶を淹れなおし、お母様の耳元で何かをつぶやきます
。……この香りはハーブティー? 落ち着く。
「それはさておき、続きを聞きましょうか?」
お母様が話を進めようと笑顔を浮かべているのに、話を蒸し返す勇気はお父様にはない。さすができる男ムサルト。
「ミシェル様、恐縮です」
いつの間にかあたしの横に戻ってきていたムサルトが、そう言って頭を下げる。あたしの心まで読めるとか、まじ有能ぢゃん?
「俺から順番に報告していきたいと思います……ただ、手下②の報告で、その、うら若い乙女でいらっしゃるお嬢様の前で話しにくい内容があるのですが……」
手下①が困った顔を浮かべ、お父様を見る。ちらりとあたしを見たお父様が大きく頷き言った。
「あれは、中身は中年オヤジだと思え。見た目に騙されるな」
あたし、まじ遺憾。




