目撃者③王子
「ミシェル嬢、会えてうれしいよ」
(え、うわ、今日王子サマ? きも)
(ミシェルー!!?)
側近がドアを開け、入ってきた王子サマ。あたしに向かって歩いてくる……なにか展開するべき魔法は……。
「で、殿下! 私めもお会いできてうれしいです! ささ、こちらにおかけになってください」
お父様が慌てて、あたしと王子サマの間に入り、止めた。
「今日のミシェル嬢は独特な香りがするね。そんな君も可愛いけど。……ところで、聞いてもいいかな?……君の肩で鼻を押さえている生き物については……王城への登城許可が下りているんだよね?」
少し顔色の悪い王子サマ。そんなニンニクの香りはお嫌いか!??
ってやべぇ、ジュレちゃんの登城許可……?
「あ……」
そう発して、お父様が言葉を失った。
「なぜでしょうか?」
思わずなぜ許可が必要か聞き返したあたしを、絶句から生き返ったお父様が止める。
「ミシェル!?」
「ごほん、あー……殿下、その、この香りは陛下に献上する予定の香水でして……。お気に召したなら殿下にもぜひ。……は、ははは、娘の肩に何か生き物が見えますでしょうか? はははは、殿下はご多忙でいらっしゃるから、お疲れなのかもしれませんな……ははは」
あたしの肩の上で手を振り、何もないアピールに忙しく、脂汗の止まらないお父様に、殿下は微妙な表情を浮かべた。
「この香りが香水なのか……父上に献上は不敬にならないか?」
「は、ははは、陛下がこちらの香りをお気に召されたようで……」
ジュレちゃんのことを聞かなかったことにしてくれた王子サマ。小型化したジュレちゃんは、屋敷を出てからずっとあたしの肩で大人しくしていてくれた。いい子いい子。
高貴な方にはニンニクの良さがわかるかー。そうだよね! わかるわかる!
(ミシェル!??? 普通に臭いぞ!? 多分殿下もそう思っている顔しているぞ!?)
「ごほん、ところで。例の事件について、聞かせてくださいますかな?」
お父様が話を必死に変えた。まぁ、本題はこっちだからなぁ。
「そうだった。僕がピンク頭のメイドを見たのは、夜のことだったよ」
足を組み替えて王子サマが話を続ける。え、なんかキモ。
(ミシェル!? 殿下は特に何もしていらっしゃらないぞ!?)
(生理的に無理)
「……続けてもいいか?」
「もちろんでございます」
あたしたちの妙な間に、王子サマは戸惑いを浮かべていた。気を取り直した様子で続きを話し始めた。
「ピンク頭のメイドは、たまに僕の寝室の掃除にもきてくれていたんだ。その日は寝室で横になっていたのだが、突然寝室のドアがノックされてね。返事をしてもなかなか誰も入ってこないから、誰だろうと思い、覗くと、掃除道具が置いてあってね。その後、僕の部屋の窓から飛び出していくピンク頭のメイドの後ろ姿を見たんだ」
「ほう……。殿下の寝室は、執務室と続いていらっしゃいますな? 護衛が見ていないということは、廊下側のドアではなく、執務室側のドアということでしょうか?」
「そうだよ。メイドが飛び出して行った後はさすがに声を上げたから護衛たちが入ってきたよ。そして、部屋の窓の外を確認してくれたんだけど、何もいなかったらしい。気になるなら、護衛を呼ぼうか?」
「いえ、結構です。わかりました。ありがとうございます」
(王子サマのその部屋は見れるの?)
(さすがに無理だろう)
「殿下。部屋を確認させていただくことは……」
「ん? ミシェル嬢が僕の部屋に来てくれるってこと?」
(やっぱなしで)
嬉しそうに微笑む王子サマ。
「やはり、結構です。本日はありがとうございました」
お父様が慌てて、提案を引っ込めた。あれは完全に妃にされるノリだったよね。
「ありがとうございます」
名残惜しそうな王子サマをさっさと追い出した。王子サマは相変わらず可愛くない。




