呼び出し
「ミシェル!! 陛下からお呼び出しだ!!! 改めて、お礼を言わせてほしいと……」
「ふぁ? ふぁんもふぉふぉ?」
あたしが口いっぱいにフライドにんにくを突っ込み、もごもご……いや、あたしの食い姿はもっと愛らしいな……もきゅもきゅしていると、お父様が部屋に入ってきた。
「くさ! ミシェル、お前、何食べてるんだ!?」
「ふぉ? ふふぁふぃふぉふぃんふぃふ!」
「……淑女なのだから、食べ終わってから話しなさい」
「ふぁ!?」
聞いてきたのはお父様なのに!! そう思いながら、ムサルトから受け取った紅茶でフライドにんにくをながしこむ。
「……その異臭を放つものはなんだ?」
「フライドにんにく! ムサルトに栽培させたの!」
あたしが自信満々に胸を張ると、お父様が鼻を押さえて倒れた。
「……み、ミシェル……口から淑女と思えない臭いが……」
「え? ムサルト、臭い?」
「……いえ、ミシェルお嬢様の周りにはいつも花が舞っているかのような香りが漂い、淡く光輝いていらっしゃいます」
「ほら、お父様が敏感すぎるだけだって! あ、お父様も食う?」
「いや……。いらぬ……」
お父様の肩に手を置き、そう話していると、控えめにドアがノックされた。
「ミシェルちゃん? お母様、入ってもいいかしら?」
「どうぞ~」
「まて、フライア! ドアを開けるな! 死ぬぞ!!!」
お父様がそう言ったときには、お母様はドアを開き、顔を出していた。
「……なんですの? この臭いは」
「え? そんなに臭い?」
「……メイドを呼んでらっしゃい!! 今すぐミシェルちゃんのお口を洗いなさい!! むしろ、この悪臭を抑えるハーブを、ミシェルちゃんのお口に詰め込みなさい!!!」
「まって、お母様、そんなことされたら、あたし死んじゃう~」
そう言って引きずられていくあたしを、みんなは見守っていた……ムサルト。助けて!
「ミシェルお嬢様……大変心苦しいですが、ミシェルお嬢様がより美しくなるための試練かと思います。このムサルト、心を鬼にして見守らせていただきます……消臭魔法」
「ムサルト、お前もあたしをくさいと思ってたのかぁぁぁぁ!!!」
そうしてあたしは消臭を施され、改めてお父様に集められた。
「ごほん、気を取り直して。ミシェルにお礼を言いたいと陛下からの消臭……招集が届いている。これ、王城に着くまでに臭いはとれるのか?」
「するめでも食ってみる? 臭いに臭いをぶつけたらよくね??」
「ミシェルちゃん……淑女らしく果実か何かでも齧っていなさい」
「はぁい」
お母様に逆らうのはこわいから、おとなしく押し黙る。
「こほん、では、いつものように……」
お父様が怖い顔で後ろに腕を組みながら、いつものように大声で言った。
「いいか。お父様との約束だ。復唱!」
「決められたセリフ以外、話さない!」
「決められたセリフ以外、話さない!」
「振る舞いはお淑やかに!」
「振る舞いはお淑やかに!」
「微笑みを絶やさない!」
「微笑みを絶やさない!」
「王城に着くまで、臭いものは食べない!」
「……王城に着いたら、食べていい?」
「……ミシェルちゃん?」
「ひぃ!」
「あと、弟に近寄らない!」
「え、なんで!? あたしだって弟をかわいがりたい!」
「ミシェル……お前の存在は、あの子にとって恐怖そのものなのだよ。お前のせいであの子は、女という存在に夢も希望も抱いていない」
「女なんて、夢も希望も抱かないほうがよくね?」
「いや……むしろ、恐怖心すら抱いている!!! わかるぞ、こんなにも見た目だけは愛らしい姉の中身が……これなら、そうなるよな……」
「まって、みんなしてそんな目であたしを見る!? あたし、特に悪いこととかした記憶ないんだけど? ま、多少、遊びの中の事故ならあったけど……」
「事故……?」
お母様の不審そうな視線からあたしは逃げる。さ、王宮に行く準備をしないと!!!
決められた台詞
「わたくし、スターナー伯爵家が長女、ミシェルと申しますわ」
「よろしくお願いいたします」
「また、両親に相談してお返事いたします」
「ありがとうございます」
「まぁ」(困った顔)
「申し訳ございませんが、わたくし……」(悲痛な顔)
「申し訳ございません」(真剣な顔)
「幼い頃から心に決めた方がおりますの」(愛しい人を思い浮かべる顔)
「光栄でございます」
「謹んでお受けいたします」
「お父様。お願いしますわ」
「お母様。お願いしますわ」
「なぜでしょうか?」




