拾ったの。飼ってもいい?
王宮に報告に向かう前に、手下三人組とジュレちゃんを自宅に置いた。とりま、お父様にお母様の説得は任せて、あたしはこの果実かじろう。
「スターナー伯爵です。今、戻りました。無事、ミシェルを連れ帰りました。無傷です」
会場に残ってくれていた人たちが歓声を上げてくれた。ま、サービスに笑顔でも向けておくか。
……やば、人がばったばったと倒れていく。
(ミシェル!? 王宮を制圧するつもりか!?)
(ごめん、やりすぎた)
頭を抱えるお父様に、あたしのもとに駆け寄ってきたお母様。あたしを抱きしめ、耳元でささやいた。
「無事なの!? 誘拐犯たちは!!」
(……一応、あたしが誘拐された側なんだけど?)
「大丈夫だ、フライア。誘拐犯たちはみな無事だ。その、その件で、家に帰ったら、相談したいことがあって……」
「あぁ、ミシェルも無事だったのね。よかったわ」
(まじ遺憾。この扱い)
親子の感動? の再会をしていると、王子サマがあたしのところにやってきた。
「ミシェル嬢。麗しくて愛らしい君を、私の代わりに誘拐されるという恐ろしい目に遭わせてしまった私を、どうか、許してほしい……。誘拐されたとしても、君はすぐに救出され、無事だった。大丈夫、私の妻になることに瑕疵になんてならないようにするから!!」
「申し訳ございませんが、わたくし……」(悲痛な顔)
「幼い頃から心に決めた方がおりますの」(愛しい人を思い浮かべる顔)
さっきの実、うまかったなぁ……。そう思いながら、セリフを発すると、生き残っていた観衆がみんな倒れた。
「ミシェル!?」
お父様! 不可抗力なの! あたしにこんな表情をさせたのは、ムサルト!! 使用人らしく、あたしの後ろにおとなしく控えていたムサルトが、あたしの手を取り、微笑んだ。
「ミシェルお嬢様にそのような表情を浮かべていただくことができて、私は本望です」
「くっ、ミシェル嬢。私の愛がこの程度の障壁で諦められる程度の物だとお思いにならないように!」
そう言って、王子サマは去っていった。まじ小物感やべえ。
「……ミシェル嬢。息子を守ってくれたこと、感謝する。疲れているだろう。今日のところは、早く下がるとよい」
「まぁ」(困った顔)
「ありがとうございます」
おとなしくカーテシーして、ムサルトにエスコートされる。貴族社会なんて微笑んでカーテシーしとけばいいんっしょ?
「ありがとうございます、陛下。スターナー伯爵家一同、御前を失礼いたします」
「あぁ。誘拐犯は、王国の威信をかけて捕らえるから、安心するように」
「……。はっ」
とりま、帰宅帰宅~。
「で、これはどうしたの? ミシェルちゃん?」
「誘拐犯たち! 拾ったの! 飼っていい?」
「駄目に決まってます! 元居たところに返してらっしゃい!!」
お母様に手下三人組を紹介した。めっちゃこわい。
「やだやだやだ~! あたしの手下として、使い倒すの!!」
「はぁ……まったく。あなたがついていながら、どうしてこんなことに……」
頭を抱えるお母様の機嫌を必死にとろうとするお父様。
「すまない。フライア。ただ、意外と優秀な人材でだな……。それに、ミシェルになついておるし、言うこともちゃんと聞く。情が湧いているのに引き離すのは、可哀そうで……」
「まったく……。本来、王国に身柄を渡すべきなのですよ?」
お母様の視線を受け、手下①は自己PRを始めた。
「あの、俺、ご主人様……お嬢様の手下①っす! 隣国では、犯罪組織三羽の鷹を結成し、任務をすべて成功させてきたっす! リーダーシップ、作戦の立案、事前調査が得意っす! 一番大きな契約では、国との契約も獲得したっす! お嬢様とムサルト様に一生の忠誠を誓っているっす!!」
ちな、ジュレちゃんはまだ隠してある。従魔契約を締結してる分、あたしと一緒にいるしかないし、ジュレちゃんが聖獣ってことは、できる限り知っている人が少ないほうがいいし?
「そう。で? それをどのように我が家の繁栄に役立てられるの? 王家から犯罪者を匿うほどの魅力は?」
「っす」
(うわぁ。お母様、強い。ちょろかったお父様とは違う)
(お父様、自信をなくしそう……。これから、我が家の採用面接はすべてお母様に頼もうかな……?)
「あの! 先輩の計画は完璧っす! いつも決して失敗しない計画は、天才の所業っす! 伯爵家なんて働いたことがないから想像できないっすけど、先輩なら、どこにいっても登り詰められる、そんな人っす!!」
「お前……」
「そう。で、あなたは? なにができるの?」
「っ、計画に沿って、ミスなく実行できるっす!」
「計画の実行ってことは、単なるコマってことよね? そんな人材、どこにでもいるわ」
お母様は、扇を開いてばっさばっさやっている。こえええ。
「あの! こいつの正確性はすごいっす! こいつら二人は俺の意図をしっかり組んだうえで完璧に計画を遂行してくれる、最高の部下っす! 個人個人の能力も高いと思うっす!」
「この伯爵家には優秀な人間がいるわ。それにも負けず、働けると思うの?」
「正直、お貴族様の使用人のレベルの高さには……ムサルト様をみて、自信を失いそうになっているっす! でも、ご主人様への忠誠心なら負けないっす!!」
「……ムサルトは少し異常よ」
お母様の言葉を受けて、お父様はうんうんと頷いている。
「はぁ。それにあなたたち、襲撃の時に姿を見られているでしょう? そんな人が我が家に出入りしていたら……困るわ」
お母様の言葉を受け、手下三人組はがばっと顔を上げた。
「っいえ! あの、ムゴンの作った認識阻害魔道具を使って、体形も声も変えてあったっす!」
「それに、王宮に立ち入るときに魔力の形が登録されるはずっすけど、先輩がそれを調べてくれたので、無登録で入れるように、俺が魔道具をジャックして登録されないようにしてから王宮に侵入したっす!」
「……想像以上に優秀だったぞ?」
お父様の言葉を無視して、お母様は興味を抱いたように続きを促す。
「今まで行った犯罪で、あなたたちの痕跡を残してきているでしょう?」
「いえ!!! 俺たち、痕跡はあえて残してきた魔法痕だけしか残してないっす。魔道具を改造してムゴンと俺で作った道具を使ったっす! それに、先輩の考えた社外秘の方法をいろいろ利用しているっす!」
「ふぅん……それ、わたくしに教えることはできるのかしら?」
お母様の耳元で、手下①がこそこそと何かを話す。満足げな表情を浮かべたお母様。あと一押しだね、腹減った。
「ムサルト」
「承知しました。ミシェルお嬢様」
例の果実を取り出したムサルトから受け取り、一口かじる。あーこれこれ、うますぎるんだよね。
「……ミシェルちゃん!?」
「な、なに!? お母様」
すごい勢いであたしのところに駆けてきたお母様。優雅な動きすぎてちょっと怖かった。
「その果実! 王妃殿下の美しさの秘訣と言われる、伝説のものじゃなくって!? お顔を見せて頂戴。まぁ、まぁ!! ミシェルちゃんの美しさに磨きがかかっているわ! お肌がぷるっぷるよ!!」
「……ムサルト、まだある?」
お母様に顔をつかまれながら、あたしはムサルトに問いかける。
「もちろんです、ミシェルお嬢様」
「ねぇ、お母様ぁ……」
あたしはムサルトから果実を受け取り、最大限に甘えた表情をお母様に向ける。
「今回、いろんなものを拾ったの。……飼ってもいい?」
お母様はあたしの頭をなでながら、答えた。
「まったく、ミシェルちゃんは仕方ないわねぇ。飼ってもいいわよ。ちゃんと面倒を見るのよ? ほら、お母様と一緒に、ティータイムにしましょう?」
「よっしゃ! ジュレちゃん! 手下三人組、これからもよろしく!!」
「はい!」
「はいっす!」
「……」こくり
⦅我、もう出てきてもいいのか??⦆
「じゅ、ジュレちゃんって何かしら!??」




