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楽しい馬車の旅

「とりま、まず家に向かって、いったん家に拾ったものおいていこっか!」


「ミシェルお嬢さまの御心のままに」


「……お父様的には、その三人は国に身柄を渡さないといけない気がするんだけど……」


(……おと、聖獣様も)


⦅ふぇ、ご主人様の御父上が、我をご主人様から引き離そうとするぅ!⦆


(あーあ! お父様(パパ)、こんな小さい子を泣かせた。最低。人でなし。はげ)


(小さい子……? いやでも確かに客観的にみると、お父様が悪者だ。すまなかった、聖獣様。その、ミシェルと一緒にいていいから、泣かないでくれ!? ……ミシェルはさりげなくお父様に暴言を吐かないで! お父様も泣いちゃう!!)


 泣き出したジュレちゃんを必死に慰めるお父様(パパ)。「ミシェルといていいから、泣かないで」となだめる。それを見ていた手下三人組は、ジュレちゃんの真似をして泣き始めた。


「うぇぇぇぇん! ご主人様と一緒にいたいっす!」

「うぉぉお、ご主人様と俺たちを引き離すなんて、死ねってことか!?」

「……」


「お前たちも!? もう泣くな! お母様(フライア)の許可が取れたら、みんなうちにいていいからぁ!!」


 そんな地獄絵図を横目に、あたしはムサルトの手を取り、馬車に乗り込む。


「あ、ねぇねぇ。するめってある?」


「もちろんでございます。ミシェルお嬢様」


 ムサルトにもらったするめを片手に、馬車に座ってむしゃむしゃとかじり始めた。あー、これこれ、たまんねぇ!



「……その、ミシェル……お父様も馬車に乗るのだが?」


「で??」


「その、するめの臭いが狭い車内に充満するとか、その、考えなかったのか?」


「ムサルト!」


 問いかけてくるお父様(パパ)に、あたしはムサルトをけしかけた。


「旦那様。この馬車は、ミシェルお嬢様のかじったするめの芳醇な香りで満たされております」


「あ、あぁ……」


「ミシェルお嬢様のかじったするめの香り! なんて高貴で麗しい響き! そんな環境に身を置くことのできる、感謝はないのですか!? 御義父上でなかったら、私がそんな栄誉を受けることを許しませんよ! 本当に、うらやましい! 私が代わりたい! なんなら、私の代わりに御者をやってくださるのですか!? ぇえ?!」


「そ、その、ムサルトすまない。私が贅沢を言っていたようだ……」


「おわかりいただけたのならば、よかったです。ジュレさまもこちらにどうぞ。手下三人組は、外の警備と御者の手伝いをしていただきますよ?」


⦅うむ。よろしく頼んだ⦆


 ムサルトはそう言って、ジュレちゃんを馬車に乗せ、手下①②③を連れて指示を出しながら、扉を閉めた。


「……その、ミシェル」


「何? お父様(パパ)


「その、私が口を出すことなのかわからぬが……いや、ミシェルのお父様だからこそ言うべきなのだろうか……。あんなムサルトが、婚約者でいいのか?」


⦅我も疑問に思う。ご主人様への忠誠心は立派だし、顔も整っておるし、性格もよくて、身体能力も魔力も強いが……あれ? 良いところばかりではないか?⦆


「いいんじゃない? あたしの希望、なんでも叶えてくれるし」


「そ、そうか。ミシェルがそれでいいのなら、お父様も言うことはないのだが」



 お父様(パパ)がそう言ったところで、御者台から窓が開けられ、ムサルトが顔を出した。


「ミシェルお嬢様。そちらに珍しい果実がなっておりましたので、よろしければどうぞ」


「あ、ムサルト。ありがと!」


 ちらりとお父様(パパ)とジュレちゃんを見たムサルトは、あたしに微笑みを向けたのちに、窓を閉めた。


(こっわ! お父様、寿命が縮まるかとおもった!!!)


⦅わ。我も怖かったぁ⦆


 抱き合っているお父様(パパ)とジュレちゃん。ジュレちゃんと抱き合うとか、お父様(パパ)、ロリコンみたいでキモ。


(あ、これうまい。またとってきてもらおう!)


(ミシェル……。それ、たぶん王宮でも滅多に食卓に上がらない伝説の果実だと思う……)


(そ? あ、ジュレちゃんもドラゴン肉、食う?)


⦅食う! 食う! 我も食う!⦆


(聖獣様の言葉遣いが……ミシェルに影響されて悪くなっていく……ってまて! ミシェル、そのサイズのドラゴン肉を馬車に出すと、馬車が動けなくなるし、お父様まで肉でよごれるぅ!!!)


「ひ、ひひぃぃぃん!」


 馬の叫び声が上がり、馬車の速度が下がった。


「……尊いミシェルお嬢様を運ぶという栄誉を受けながら、貧弱な馬ですね。仕方ありません。強化魔法」


「ムサルトは強化魔法まで使えるようになったのか!? いつの間に!? ……いや、いい、説明はいらぬ! ぐっ、ドラゴン肉に押しつぶされる……」


 お父様(パパ)は相変わらずうるさい。


⦅もっきゅ、もっきゅ⦆


「ムサルト、この実、もうすこしある?」


「はい、ミシェルお嬢様。おや、馬車が少し狭そうですね? お嬢様の周りの空間を亜空間にしておきますね」


「そんな狭くなかったけど、ま、ありがと!」





「俺、ご主人様とムサルト様に、一生ついていこうと思う」

「俺も、この二人には絶対逆らわないっす! 見たっすか? 目に見えない速度で目に見えない距離の果実を魔法でとってきたっす!! このあまり整っていない道でほとんど揺れないように馬車を操り、馬に強化魔法をかけ、ご主人様の周りの空間をいじりながらっすよ!??」

「……」



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