夜会の準備
夜会が近づき、王子サマからはドレスが贈られた。さすが王家。最高級品で、売ったらいくらになるんだろうとあたしは頭の中で計算する。……そっと生地をさする。素材的にもいいね。お、防御の魔法までかかっている……。あたしが頭の中でかちかちと計算をしていると、思いっきりはたかれた。
「ミシェル! 夜会が終わったとしても、そのドレスは売り払えないからな!?」
「えー! お父様、使い終わったら、箪笥の肥やしになるだけじゃん! というか、これだけ場所とるんだから、さっさと売り払おうよ~。最悪、素材ごとに切り分けて売れば、足がつかないって!」
「確かに、切り分ければ……ばれないか……?」
「あなた? ミシェルちゃんに洗脳されていますわよ?」
お母様が怖い顔をしながら歩いてきた。……あたし、しーらない!
「あら? ミシェルちゃん、アクセサリーも入っているわよ? パールとダイヤを用いたネックレスに、黒真珠のイヤリング……?」
「「黒真珠!?」」
「なんでこんなところで黒真珠が!?」
「やっぱりあの男が黒幕じゃん!!」
あたしが自信満々に叫ぶと、お父様に後頭部をぶん殴られた。
「ミシェル、憶測で不敬なことを叫ぶでない!」
「とりま、あたしが夜会で王子サマに、イヤリングのことを聞いてみればいいんじゃね?」
「確かに!」
あたしたちが計画を立てていると、真剣にアクセサリーを見ているムサルト。なにしてるの? ムサルト。それ狙ってんのか?
「こほん、では、久しぶりだが、夜会の前に……」
お父様パパが怖い顔で後ろに腕を組みながら、いつものように大声で言った。
「いいか。お父様との約束だ。復唱!」
「決められたセリフ以外、話さない!」
「決められたセリフ以外、話さない!」
「振る舞いはお淑やかに!」
「振る舞いはお淑やかに!」
「微笑みを絶やさない!」
「微笑みを絶やさない!」
「王子殿下のエスコートは?」
「キモい!」
「ミシェル! 微笑みを浮かべてお受けする、だろうが!!」
お父様が怒りの表情を浮かべている横で、嬉しそうなムサルト。
「だって、ムサルトの前で別の男のエスコートを受ける話をするとか、マナー違反ってやつじゃない?」
「確かに……しかし、そんな気遣いができるとは、お前は本当にミシェルか?」
あたしの発言にお母様はハンカチで涙をぬぐいながら頷き、お父様はいぶかしむ。まじ失礼だからね!? やればできる子、天才のミシェルちゃんなんだから! あ、ムサルトが何か持ってきた……。ん? 毒薬……?
「ミシェルお嬢様。新しく開発した、自然死に見せる毒薬です。同時にアルコールを摂取しなければ毒にならないので足もつきません。ご不快な思いをなさりそうでしたら、即座にお使いください。ミシェルお嬢様のお近くでお守りすることのできない自分の代わりです」
「ムサルト……! 王子サマが気持ち悪かったら、使うね!」
あたしがムサルトの手から毒薬を受け取ると、あたしはお父様に、ムサルトは筆頭執事に頭をぶん殴られた。痛いっつーの。
「ミシェル! 受けとるな!」
「ムサルト! なんてものを作って、お嬢様に手渡しているんだ!」
「お父様、ムサルトからのあたしへの愛だよ!?」
「麗しくて愛らしいミシェルお嬢様のお近くでお守りできない自分が不甲斐なくて、せめてもの気持ちで作りました」
気軽に毒薬作りをするムサルトは、あたしほどじゃないけどなかなか頭がいい。さすがあたしの婚約者に選ばれるだけあるね!
「とりあえず、その毒薬は持参しとけばいいんじゃね?」
「「「毒薬なんて王宮に持っていけるか!」ませんわ!」ません!」
みんなにつっこまれたけど、ムサルトの案はなかなかいいと思ったのになー。




