お母様の推理①
「まず初めにわたくしが違和感を覚えたのは、あの会場についたときでした。誰もが大臣の話に夢中になり、陛下と娘の会話に興味を抱こうとしない。恥ずかしながら、わたくしも干渉されたのでしょう。陛下の話に夢中になり、陛下の横にいたはずの王妃殿下が刺されたことに気が付きませんでした。このことから、大臣の注目魔法で会場中がなんらかの魔法干渉を受けていたと推察いたします。……まぁ、膨大な魔力を誇る我が娘ミシェルには効果も感覚もなく、猫を被ることとルールを守ることに必死で気づいていなかったのでしょうが。……大臣は側妃派の最大勢力。王妃殿下を滅ぼそうとしてもおかしくありません」
お母様にじとりと視線を向けられたあたしは、焦ってとりま淑女の笑みを貼り付けた。どう? 合格点の反応っしょ?
「……はぁ」
額に手を当て、頭を振りながらため息をつくお母様に、同様の表情を浮かべるお父様。え、まじ遺憾。
「……では、大臣が主犯だと?」
王サマが諦めて杖から手を放し、問いかける。
(きも)
(ミシェルちゃん。お父様、娘が気軽にキモイキモイいう子に育って悲しい)
(……お父様もキモ)
(がびーん……)
(うわぁ。反応が古)
(傷つく、普通にお父様、傷つくからぁ! ……というか、ミシェルちゃんに古いって言われたくないお)
(……別に古くないし)
あたしがふてくされていると、お母様がこほんと咳払いをして、話をつづけた。
「いえ。大臣は主犯ではありません。その証拠に、彼には黒幕から黒真珠が贈られています。黒真珠の指輪。指、ということで注目魔法で民衆を操ることが指示されていたのでしょう」
お母様の言葉を我が物顔で頷いてわかったふりするお父様。
(ミシェル! お前もわかっている表情を浮かべろ!)
(えー! だってあたしは、王子サマが黒幕説に一票だもん)
(まだそんなことを言っているのか!)
「それで黒幕はわかったのか?」
「順にお話させていただきますので、お待ちいただけますか?」
先を促す王サマにお母様は待ったをかける。
「……次に、腕輪を贈られた側妃様です。彼女は真の実行犯なのではないでしょうか。娘の話によると、側妃様は腕を何度かさすっていたそうです。王妃殿下の胸にガラス片を突き刺したときに、腕を痛めたのでしょう。……なお、ガラス片で突き刺したときの手の傷は、宮廷治療師に治療させたのでしょう。……ミシェルと名前を出したら、宮廷治療師が教えてくれました。奇跡の治療を施したミシェルは宮廷治療師たちの尊敬を集めておりますので」
視線を集めたあたしは、淑女らしくカーテシーをした。お母様がなにか調べていると思っていたけど、それだったのか!
「側妃様はあの日、真っ赤なドレスをお召でいらっしゃいました。王妃殿下を刺した側妃様が、入れ替わりの魔法でピンク髪のメイドと場所を入れ替わり、凶器を持っていたピンク髪のメイドの手は血に濡れていたのでしょう。……側妃様のドレスが血で汚れていたとの証拠は集められませんでしたが、側妃様付きのメイドが洗っているドレスから、赤い液体が流れ出ていたのを目撃していた者の証言は、あつめることができました。……側妃様付きのメイドは側妃様の母国からついてきた者です。さすがにメイド本人の証言を集めることはできませんでしたが。側妃様は陛下のことを愛し愛されることを期待して、大国である母国から嫁いでいらっしゃいました。陛下がすでに結婚していた王妃様のことを憎んでいたのでしょう。……側妃様は真の実行犯。黒真珠の腕輪をつけておいででした。側妃様は腕として、用いられたのでしょう」
(ほら! やっぱり! あたしの勘は当たるの!)
(……いや、しかし、たまたまだろう?)
お母様の話を聞いていた王サマは笑みを浮かべている。追い詰められているはずなのにどこか嬉しそうだ。
「しかし、ピンク髪のメイドが犯人として捕らえられたではないか」
「そうです。彼女の黒真珠はネックレス。首を捧げる……実行犯として処刑されることこそ彼女の本当の意味です……若い命を無駄に散らせるとは、なんと悲しきことでしょう」
「はっはっは、そうか。そこまでたどりついたのか。では、続きを聞くとしよう」
笑う王サマに対して、宰相サマはおとなしく頭を下げて、王サマの発言を聞いている。
「では、続きをお話いたしましょう」




