固有魔法の閲覧①
「たのっしみなー♪ 固有魔法ー♪」
固有魔法を閲覧するための固有魔法リスト保管室に向かう道中、あたしが美声を披露していると、お父様にこつかれた。
「ミシェル! 確かに今は周囲に人はいないが、家の外でのルールを忘れてないか!?」
やっべ! そうだった! 忘れてた! ただ、だだっ広い廊下って歌いたくなるものだよね?
「まぁ」(困った顔)
「申し訳ございません」(真剣な顔)
慌ててお父様に謝ると、お父様は頭を抱えていた。まじごめんって! 卍卍ー! あ、ちなみにお母様は淑女の微笑みを浮かべていたよ!
「ここが固有魔法リスト保管室か……」
お父様が王サマから預かったカードを入り口にかざすと、扉が開いた。部屋の中には、奥までぎっちりと美しい装丁の薄めの本が詰まった本棚が天井まで続いて並んでいる。円筒上の本棚の装飾は驚くほど美しく、大木と見間違うほどだ。どこか幻想的な風景で立ち入るのが少し怖い。
(え、お父様って、ここにきたことある?)
(ないに決まってる! 特別な許可がないと本当に入れない場所だぞ!)
(お母様は?)
視線を向けると、お母様は静かに首を振っていた。
中に一歩立ち入り、よくよく見てみると、一冊一冊に鍵がかかっていて、本棚から取り出せそうにない。お父様がカードを何もないように見える空間に置くと、三冊の本の鍵が解錠され、手元に向かって飛んできた。
(なにここ……どんな魔法を使っているのか想像もつかないじゃん)
(ここは失われた古代魔法の遺跡を使っているとされている。現代の我々には、想像もできない技術だ)
(確かに、感じる魔力が知らないものな気がする! どちらかというと、自然界にありそうな感じ……?)
(お、お前は古代魔法の魔力まで感じることができるのか!? そうか……強大な魔力を持っているからか。我々には想像のできない世界だな)
しみじみと頷くお父様と、そんなお父様の肩に手を置き、寄りかかるように額を押さえるお母様。
(え、これって解明して世界に発表したら、あたし大金持ちになれるんじゃね?)
(……ミシェル。王家に取り込まれたくないのなら、他言無用だ。古代魔法の解明は現代に生きる我々の悲願ではあるが、実現したらその影響は計り知れない。ミシェルは確実に王家に取り込まれるし、むしろ他国から刺客が放たれかねないぞ)
(うわ。めんどい。やめておく。……もしも解明して王サマに教えろって王命だされたら?)
(隠せ! 王命には逆らえない。だが、解明したことがバレなければ、問題がない。我が家の方針は、長いものに巻かれ、不要な権力は避け、平穏に生き抜くことだ。ミシェルがそんな面倒ごとに巻き込まれたら、お父様もお母様もさすがにかばえぬからな!)
お父様のとっても怖い顔。初めて見るくらい怖かったし、後ろでうんうん、と頷くお母様の真剣な表情もひどく恐ろしげだった。
(おっけー! じゃあ、古代魔法は基本解明しない方針で、解明したとしても公表しないってことで! 早速容疑者たちの固有魔法をのぞき見していこうぜ!)
(……まったく、ミシェルは。そうだな、今は我が家の存続のためにも固有魔法の確認が優先だ)
そういって、お父様は一冊目の本を手に取った。
一枚の紙しか綴られていないため、とても薄いそれは、分厚い表紙に魔法がかかっているようだった。
(……記録、魔法?)
(さすがミシェルだな。正確には、真実を記録する魔法だ。この国の貴族・王族として登録されたときにこの本に一滴の血を垂らす)
(……そんなことした記憶ないけど)
(基本的には産まれてすぐに行うものだからな。それこそ、側妃様のように他国から我が国に入った人は大人になってからだが)
しみじみとその本を見つめると、表紙の真ん中にある鏡のような丸い模様が揺れているようだった。
(あ、もしかして、ここに血を垂らすの?)
(そうだ。そうすることで、この国の貴族として登録されるし、固有魔法の確認がとれる。登録したこの本は、その人がなくなってもここに保存されている。ほら、本棚の上のほうわ見てみろ)
お父様にそういわれて見上げると、天井までに見えていた本棚ははるか高く伸びていた。
(……これも魔法? まるで大木のようだね)
(そうだ。大木というのは、言い得て妙だな。人が生まれて登録されるにつれ、高く伸びていく)
そう答えながら、お父様は手にした本を開いていく。
「側妃様の固有魔法は……入れ替わりの魔法か。いきなり珍しい魔法が出てきたな。これを知って、我々が無事でいられるか不安になるな……」
入れ替わりの魔法……魔法執行者と被対象者の位置が入れ替わる。その説明は簡潔で、それ以上書かれていなかった。お父様が本から手を離すと、本はパタパタと本棚に向かって飛んでいき、吸い込まれるように元の位置に戻っていった。かちりと鍵のかかる音が響いた。




