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寿命甲子園  作者: サクライアキラ
2/17

2 突然の入院

登場人物紹介


吉田亮…主人公、野球部エース


田沼七海…亮の彼女、野球部マネージャー


蓮田啓二…亮の親友、野球部キャプテン

 目を覚ますと、病室だった。既に痛みは消えていた。その後、横にいた母は目を覚ました俺に気づき、ナースコールを押す。母は心配そうに声を掛けてくれるが、まず病院に救急車で運ばれたことを理解するまで時間がかかった。


 このまま退院して明日の練習から復帰しようと思っていたが、医師から検査を受けてくれと言われた。最後の夏の大会、できれば甲子園に出て終わりたいと思っているのに、ここでもし病気が見つかって、出られなくなるのはまずい。

 そう思って、検査を拒否したが、念のための検査と医師から何度も言われ、母からもお願いされ、検査することになり、翌日までそのまま入院することになった。野球部のメンバーから大量に心配するLINEが来ていたが、「特に問題ないけど、母親が心配性で念のための検査を受けなあかんくなったから、明日は休む」とグループLINEに返信した。七海にも「全然大丈夫」という一言だけ送っておいた。


 翌日、MRI検査など様々な検査を受けた。正直、この時はひじに何か見つかるんじゃないかみたいなことばかり考えていて、ひじに何も見つからないことを祈りながら検査を受けていた。

14時には全ての検査が終わった。


 今帰れば部活に間に合うと思って、帰る準備をしていたが、年配の看護師に止められた。検査結果が出るまで残っていてほしいと言われた。そこからいつも通り、レジェンドの元プロ野球選手の動画を見ながら待っていたが、いつまでも結果が来ない。


 母が仕事を終えて急いで病室に来た。それを見た先の年配の看護師が俺と母を面談室に案内する。どうも、母を待っていたらしい。どうにも嫌な予感がした。


 面談室では、既に医師が座って待っていた。年配の看護師も入り、母と合わせて4人がいる。

 医師の表情は全く読み取れない。俺は面談室に座って、すぐに医師に聞いた。


「俺のひじに問題がありましたか?」


 半分祈るようにして、聞いた。

 この時点でほぼ希望を捨てていた。背中が偶然つっただけで、ひじの爆弾がバレるなんて、ついてないなとこの時は心底思った。質問した時、医師の表情が曇ったことからも聞くまでもなく確信した。


「問題ありませんでした」


「そうですよね」


 精一杯、空気を悪くしないように、答えを構えていた。でも、違った。


「問題なかったんですか?」


 もう一度聞き直す。


「ひじは問題ありませんでした」


 まずは安心した。これで今年の夏の大会には出場できる。ドラフトも夢じゃない。表情が曇っている医師に少し恨みすら感じた。


「ひじは、ってことは他のところに問題があるんですか?」


 そう口を挟んだのは母だった。


 母の質問に答えず、医師は少しの間、黙っていた。


「落ち着いて聞いていただけますか?」


 こう聞くと、落ち着いてなんて聞いていられない。ひじ以外に何の問題があるんだろうか。母は、真剣な目で医師を見つめていた。


「やはり、お父様も呼んでいただいた方が」


「父親は出張で海外におりまして」


 父は日系のグローバル企業の部長で、頻繁に海外出張が発生する。最近偉くなって、一応日本の本社勤務になっているが、基本ずっと海外に単身赴任だった。そういうこともあって、父とはなかなか話す機会はなかった。


「そうですか。一応お電話で繋ぎながらということも可能ですが」


 医師がそこまで父を呼びたがるということはよほどのことだろうか、とここにきて少し怖くなってきた。


「いえ、時差もありますので、ここは私と息子で聞きます」


「わかりました」


 そう言うと、医師はレントゲンの写真を見せてきた。どこの臓器かわからないが、見た感じお腹の辺りをズバッと平行に切った写真だった。


「こちらご覧いただくだけではわかりにくいのですが、ここの膵臓に実は腫瘍が見つかりまして」


「それはがんってことですか?」


 母が一呼吸置いて、聞いた。


「はい」


 医師の声はあくまで冷静だった。


「手術してからどのくらいで復帰できるんですか?息子は野球部で、最後の夏の大会が控えていて、甲子園も期待されているんです」


 母は少し感情的になりながら、医師に聞く。

 医師は看護師の方を一度見る。看護師の方はそっとうなづくだけだった。


「大変申し上げにくいのですが、既にかなり進行しておりまして、手術の適用外となります」


 手術の適用外、それだけが耳に残った。もはや手術は手遅れということか。


「それって」


「放射線治療や化学療法になります」


 実質的には延命しかないということだろうか。


「そのような治療をされて、腫瘍が小さくなったという事例はございます。その後手術適用になる場合がございます」


 事例はある、と言った。どれだけの人が治ったのだろう。


「結局、治るんですか?」


 母は感情的になって、医師に怒鳴る。


「申し訳ございませんが、現状ではかなり難しい状況です」


 母は完全に言葉を失った。


「あと、どのくらい生きれるんですか?」


 俺は聞いた。


「それは人それぞれです。治療をされて、手術される方もいらっしゃるので」


「もし、治療をしなければどうですか?寿命はどのくらいですか?」


「あくまで過去のデータに照らし合わせてではありますが、余命3か月です」


 目の前は真っ暗になった。

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