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1-4.スマホを開いたら見たこともないアプリがインストールされていた

「ん?

 『愛の女神が夢を叶えます。好きなあの子が貴方に会いに行く』……?

 アプリの広告アンケートか。

 『全世界の中から貴方だけが当選しました』って……。

 どう考えても全員当たっているやつだろ」


 アイドルか芸能人を入力させたいのかもしれないが、生憎と俺はあまりテレビを見ない。


 美空がお薦めしてくれたバーチャルウーチューバーなら何人か知っているけど、もし「好きなあの子が貴方に会いに行く」とかいう文章が本当だったら大変だ。だって、バーチャルウーチューバーの中身って、ボイスチェンジしたおっさんだろうし、会いに来られたら困る。


 画面をよく見れば「憧れのあの人と共同生活するチャンス!」なんてことも書いてある。


 あれか。芸能人や素人が共同生活する様子をテレビで放送したりネットで配信したりする、リアリティーショウとかいうやつか。


 たまにクラスで話題を聞くけど、ああいうの、あまり好きじゃないんだよな。


 入力しないとSNSを表示できないっぽいし、俺は美空と入れて、OKをタップ。


 既に同居しているけど、誰と共同生活したいかって聞かれたら、やっぱ美空だしな。


 ポチポチ。


 ブーッ!


「げ……。エラーだ。

 五人入力してください……か。しゃあない」


 強制アンケートは面倒だけど、無料アプリだからしょうがない。

 俺は全部に美空と入力して、OKをタップ。


 ブーッ!


 再びエラーメッセージが表示された。


「同じ文字が入力されました?

 うわ。めんど……。五人別の名前を入れないといけないのかよ」


 しょうがないな。意地でも全部、美空にしてやる。

 今の美空と、義妹になる前の美空と、義妹になった直後の美空と、数年後の美空と、大人になった美空だな……。


 みそら、

 美空ちゃん、

 美空、

 美空さん、

 愛沢美空……と入力。


 よし、これでOK。


 ピロンッ♪


「登録完了っと……。

 えっと、『貴方とキスした相手は同居が終了します』か。

 恋人成立でリアリティーショウから卒業ってことか?

 ん。つうかこのページ、タップしても閉じねえ」


「ひー君、どうした?」


 日陰になったと思ったら、自転車を取った伊吹が傍らに来ていた。

 顔がデカいから、ヘルメットのあごひもが顎に食い込んでいて痛そう。


「SNSの広告アンケートがフリーズした」


「どうせ、エロいページ見たんだろ」


 とりあえず伊吹に続いて歩きだす。

 伊吹は俺と一緒の時は、いつも自転車に乗らず、押して一緒に歩く。


「まあ今日は助かったよ……っていうか、助けてもらってないか。

 とりあえず、いざとなったら助けてもらえるっていう安心感はあった」


「気にすんな。

 ひー君に俺の助けなんて要らないと思うけどな。

 なんにせよ、また呼びだしくらったら言ってくれ」


「おう。……ん?」


 校門を潜ったところでスマホに着信があった。

 表示された名前は美空だ。

 伊吹との会話より美空との通話の方が優先順位は上なので、早速応答する。


 ピッ。


「もしも――」


「ひー君、早く帰ってきて!」


「えっ?」


 俺は思わずスマホを耳から離し、表示されている通話相手の名前を見る。


 普段の美空からは想像がつかないほど取り乱した様子だったので、別人からの電話かと疑ったのだ。


 しかし液晶の通話相手には間違いなく美空と書いてある。


「どうした?」


 通信障害が発生しているのか、美空の声が何重にも重なって聞こえだす。


「何して」「そっちの」「お菓子」「るの」「もしかして」「部屋は」「食べて」「ひー君?」「嘘嘘!」「私も」「駄目」「電話」「いい?」「早く帰って」「したい」「来て」


「美空、何を言っているのか分からない。

 あっ。切れた……」


 何だったんだ?

 スマホの通話音声って混線するのか?


「今の愛沢?

 よく聞こえなかったけど、なんか慌ててなかった?」


「蜘蛛か虫が出たんだと思う。

 あいつ虫が出るときゃあきゃあ言って俺の後ろに隠れて『ひー君助けて』って震えてめっちゃ可愛い。

 虫を家の外に出した後も、あいつ暫く俺の傍を離れないで一緒に居てさ」


「お前、そういうところだぞ。さっきのパイ先に妬まれるの。

 九重アイドルとイチャついてますアピールは駄目だろ」


「仲のいい兄妹だからしょうがないだろ」


「はいはい。

 何かあったら大変だし、自転車貸してやるよ」


「いいのか?」


「おう。ひー君ちに寄って帰るから、そのときに返してくれ」


「分かった。助かる」


 俺は友人の好意に甘え、自転車を借りた。

 ヘルメットのあごひもは余ってゆるゆるだ。


「じゃあな。また後で」


「おう」


 俺は友情のありがたみを感じつつ、ペタルを踏みこむ。


 今まで美空に電話で早く帰ってきてなんて言われたことは一度もないんだけど、いったい何があったんだろう?


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