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プロローグ2.五人の意見は簡単には一致しない

 俺達が住んでいるのは、田舎の古い日本家屋だから玄関は広い。

 だが、六人も集まれば身動きは取りづらいし、女性が五人も居れば甘い匂いが充満するから、男の俺には居心地が悪い。


「……なあ、全員で買い物に行くの……考え直さないか?」


 俺は無駄だと分かっていたけど、再考を促す。


「んー。自炊歴が一番長い私は行くべきだよね。食材を見ただけでレシピ検索できるハイテク眼鏡、マジ卍」


 愛沢さんは、俺達に余計な未来の情報を与えないように配慮して、意図的に古い言葉を使っているらしいが、用法がたまに怪しい。


「私は絶対、行くー。お姉ちゃん達と違って、お兄ちゃんはおねだりすればいっぱいお菓子買ってくれるもん。絶対、一緒に行くー」


 おんぶ中のみーちゃんが両腕両脚にぎゅっと力を入れてくる。

 あっはっは。懐いてくれていて可愛いと思っていたけど、俺、簡単にお菓子を買ってくれるチョロいやつと思われてるっぽい。


「……そ。じゃ、私は留守番する」


 美空ちゃんが立ち去ろうとする。


 だが、美空さんと美空が両手を広げて阻止。

 大学生と高校生の二人は息ぴったりだ。


「駄目だよ。美空ちゃんも絶対に行くの」


「そうだよ。一緒に行こ。ね?」


「……退いて」


「駄目駄目。

 私達は同時に倒さないと復活するタイプだから、一人で突破はできないよ!」


「え、ええ……。そんなことないけど……。

 ね、美空ちゃん、行こ。

 こういうこと言いだした美空さん、ちょっと面倒だし、ね?」


「え? 誰が面倒だって? え?」


 美空さんが美空の方に腕を回して密着うざがらみをする。


「うわあ。面倒だあ。ほら。美空ちゃん、行こ」


 美空も美空さんも、美空ちゃんを放っておけない。悲しいことがあって部屋に閉じ籠もりがちになった美空ちゃんは、過去の自分自身なのだから。


「学生組が揉めてるし、私とひー君と、みーちゃんの三人で行こっか。

 ふふっ。親子みたい」


 社会人の愛沢さんは他の美空と違って、あまり中学生の美空ちゃんを気遣わない。愛沢さんからしてみれば、親と死別してから十年近く経っているのだから、美空ちゃんには共感できないそうだ。


 そう。

 五人の美空は同一人物なのに、全員が仲良しというわけではないし、意見の一致は希だ。


 むしろ、あらゆることで、絶対に誰か一人は意見を異にする。


 小学生のみーちゃんは、カレーは甘口しか食べられない。お子様舌なので、オムレツやハンバーグを好む。一人だけ味付けを別にした料理を用意しなければならない。


 中学生の美空ちゃんは人との接触を嫌がり、独りになりたがる。両親の死を引きずっている只中なので、楽しい思いをすることに抵抗を感じるようだ。


 高校生の美空は「元からこの時代に居た自分がなんとかしなければ」と必要以上に責任感を抱いているらしく、自分よりも他の自分を優先する。


 大学生の美空さんは順風満帆な未来からやってきたらしく、基本的にポジティブな考えを持っている。美空と協力して、共同生活が上手くいくように気配りしてくれる。


 社会人の愛沢さんは他の誰よりも未来を知っているからこそ、自分の意見を言えないことがあるようだ。彼女なりの確たる方針があり、年少者を甘やかさない。


 さてどうしたものかと事態を静観していたら、愛沢さんが靴を履くと俺の腕を引き、玄関戸を開ける。


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