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4-2.美空ちゃんは心を閉ざしている

 今、美空の部屋は中学生の美空ちゃんが占拠している。


 美空ちゃんからしてみれば自分の部屋だから、ここに閉じ籠もるのは当然だ。


 三年が経過しているから部屋の様子は変わっているだろう。


 昔はなかった内鍵も三年の間にあった変化の一つだ。中学三年のいつだったか忘れたけど、義父さんが俺達にプライバシーを確保できるようにリフォームしてくれたのだ。


 室内の様子を見てタイムスリップを実感し、不安になっていなければいいけど……。


 俺は普段より弱めにノックする。


 トントン、トン……。


 返事はない。


「美空ちゃん、居るよね?」


 やはり返事はない。


 さて、どうしよう。


「みーちゃんと一緒にお風呂に入ってくれないかな」


 ……やはり返事はない。


 誤解を与えたり軽蔑されたりするかもしれないけど、こうなれば仕方ない。


「美空ちゃんが嫌なら、俺が入れるけど」


 返事はない。


「そっかあ……。

 数年前の美空ちゃんの裸を見ちゃうけど仕方ないか……。

 みーちゃん、俺と一緒にお風呂に入ろうか」


「……え?」


 あ、みーちゃんが嫌そうな顔をしている。

 そこは元気な声で快諾してくれよ。


 会ったばかりの知らない男と一緒にお風呂に入らないのは当たり前のことだけど、地味に傷つく。


 とりあえず口に人差し指を当てて「しー」をすると、みーちゃんは両手をちっちゃな握りこぶしにして、口を閉じてくれた。


 部屋の様子を窺うと物音が聞こえる。


 ガチャッ。


 美空ちゃんが顔を背けながら、ドアを開けた。


「……最低」


「今のは美空ちゃんを呼びだすための嘘であって、本心からみーちゃんと一緒にお風呂に入ろうとしていたわけではないことだけは分かってほしい。あ、そうだ。君のことは美空ちゃんって呼ぶことになったよ。年齢が上から順に、愛沢さん、美空さん、美空、美空ちゃん、みーちゃんって」


「……早口キモい」


 退いて、と言いたげに俺の胸元辺りを睨んできた――視線は合わせたくないらしい――から、俺はドアの前から退く。


 美空ちゃんは部屋から出てくるとみーちゃんの手を取り、お風呂場の方へと歩きだす。


 その間、一切、美空ちゃんは俺に視線を向けなかった。

 三年ぶりの冷たい態度は、かなり傷つく……。

 三年前はこれが当たり前だったから気にもしなかったけど、今は、キツいな。


 みーちゃんは美空ちゃんを拒絶しないようだ。

 歳が最も近いから、親近感があるのだろう。

 それに、幼いなりに美空ちゃんを自分自身だと理解していて、信頼できる相手だと判断しているのだろう。


「待って」


 美空ちゃんとは会話できる機会が少ないかもしれない。だから俺は、せめて美空が三年経っても両親との思い出を大事にしていることを伝えたかった。


 これは俺の想像に過ぎないんだけど、美空ちゃんが居間で無口だったのは、未来の自分が明るく振る舞っている様子を目の当たりにして、傷ついたからだと思う。


 ――お父さんとお母さんが死んだのに、どうしてみんな元気なの?


 根拠は弱いんだけど、俺は居間で美空ちゃんの背中を見て、そう言っているんじゃないかと感じたんだ。


「美空のスマホの待ち受けは両親の写真だし、中橋さんの養子になった今でも愛沢姓を使ってるよ」


「……」


 返事はない。


 しかし、小さな背中の足取りが少しだけ軽くなったように見えた。


 気のせいじゃなかったらいいな。


 お風呂場へ続く引き戸の前で美空ちゃんが立ち止まる。


 もしかして俺に「気を遣ってくれてありがとう」なんて優しい言葉をくれるのだろうか。


 ――そんな浅はかな期待は直ぐに裏切られる。


「……待ち受けを覗くなんて最低ですね……」


「待って。違うよ!」


 バシャンッ!


 引き戸が勢いよく閉められた。

 追いかけるわけにもいかないし、女の子が着替える場所の近くに立ち尽くすのも気まずい。


 俺は風呂場の前から立ち去るしかない。


 いや、別に俺が美空のスマホを覗きまくっているわけじゃなく、美空がいつもスマホを弄っているから自然と目に入るだけであって、俺は美空のプライバシーを侵害しているのではなく……!


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