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09

 ユーリアが手に持っていた封筒を差し出すと、受付をしていた神官は首を傾げた。確かに少女がひとりきりで大判の布に包んだ荷物を抱えて神殿にやって来るなど、疑問を浮かべる光景であったことだろう。


 封筒の中には、少女の名前や生年月日が記載されており〝半精霊の暮らす施設への入所を希望する〟と大人の書いた手紙が入っていた。


 シュルーム領の領都には比較的大きな施設があり、毎年五、六名の半精霊を迎え入れている。年齢的には、基本的に十三歳になる年の子ばかりで、早くて十二歳になる年に入った子が数名いるだけ。十歳未満の子どもが来たと、神殿内部は驚いたと同時慌てた。


 少女の名はユーリア・ベル、八歳。風の精霊の血をひく半精霊で、オトモ妖精の姿はなかった。


 十三歳になる年に両親と共に神殿にやって来るのが一般的であるのに、八歳でたった一人やって来た。それだけでも疑問に思う部分なのに、さらに生まれたときからひとつの命を共有するオトモ妖精のいない半精霊。


 どこをどう見ても〝ワケアリ〟だと思われた。


 他の街の施設に行ってくれたら良かったのに、面倒ごとがやって来た、そんな雰囲気の中でユーリアは領都の施設に入所した。


 ユーリアが施設に入り二週間ほど、施設は不安な空気を漂わせながらも平和に過ぎていた。ユーリアは周囲の人間の不安をよそに、特に問題を起こすわけでもなく、素直に施設のルールに従っていたから。


 ひとりで起床時間になったら起床し、身支度を済ませる。食堂で食事を取って、その後は文字の読み書きや計算など基本的な学習を行う。庭や神殿部分の掃除や、野菜畑の手入れも他の子よりも時間がかかったりはしたが、きちんとこなしていた。


 ワケアリっぽいけれど、本人はごく普通の半精霊なのではないか? と神官たちも同じ施設で暮らす者たちも、そう思い始めたころ……新しく施設に入った子どもの〝魔力調べ〟の儀式が行われた。


 精霊である方の親の資質を強く受け継ぐ半精霊だが、魔力の量と親から受け継いだものとは他の魔力資質を調べるものだ。


 ユーリアはその儀式において、魔力量がとても多いことが分かった。儀式を取り行っている神官たちは期待に胸を膨らませた。


 魔力の量は生まれ持ったものであり、訓練で増やせる量は限られている。魔力量が多いことは、その後攻撃系であれ治癒系であれ立派な魔術師になれる可能性が高くなる。将来名のある魔術師になってくれれば、出身施設として鼻が高いし、寄付金の額も増える。


 ワケアリの厄介者として存在していたユーリアだが、未来に可能性があるのならば! と皆期待した。


「では、ユーリアこちらの板に手を当てて」


 用意された石板には中央に掌程度の丸い凹みがあり、それを中心の放射状に小さな石が幾つも埋め込まれている。


 そこに手を乗せると、特殊な石で作られた石板がその人の魔力に反応し、素質のある魔法の石を光らせるのだ。


 ユーリアは言われるまま石板に手を乗せる。魔力に反応した石板は淡い黄色の光を帯び、小さな石を光らせる……はずだった。


 風の半精霊であるユーリアは当然風の適正がある、他に雷や身体強化などの適正があるだろうと思われていた。けれど神官たちの期待をよそに、石板に埋め込まれた多数の石は、ひとつも光らなかった。


「……どういうことだ?」


 神官たちは疑問に思い、何度もユーリアに石板の上に手を乗せるように言い、何度も調べたけれど結局適正は分からないままだった。


「まあ、まだこの子は幼いですし? 通常十三歳の子が行う儀式ですから、上手く判定出来なかったのではないでしょうか」


 ひとりの神官が言った言葉に全員が「そうだな」と納得し、ユーリアが本来魔力調べる年齢になったら調べればよいという結論に落ち着いた。


 しかし、その翌日から開始された魔術訓練で、誰でも訓練を開始した日から使える灯り魔術すら……二週間たっても使えないと分かったときから〝幼い子どもだから〟という認識から、〝あの子は魔術が使えないのだ〟という認識に変わっていた。



 * 〇 *



 ユーリアが施設に来てひと月ほどたった頃、小さなパーティーが開かれた。


 それは施設にやって来た新しい半精霊たちを歓迎するためのもので、食堂には花や紙で作られた飾りで飾り付けが施され、料理も(通常よりは)豪華で量も多く、果汁ジュースにクッキーなどの焼き菓子も用意されていた。


 ユーリアが入所したとき、すでに三人の半精霊たちが入所していて「今年から四人の新しい兄弟が増えました」と神官は改めて四人を一人ずつ紹介する。

 紹介が終わったあと、ジュースで乾杯をして賑やかなパーティーは始まった。


「へえ、あの子? なんだか、小さくない?」


「まだ八歳なんだって」


「そりゃあ、また随分ちっさいうちに入所したんだね」


「……おかしくない? そんな小さなうちからなんて。お家に事情があったにせよ、十歳にもならないうちから施設入りなんて聞いたことないけど」


「確かに」


「それに、聞いた? 魔力は沢山あるくせに、魔術の素質が全くないんだって! 基礎の基礎でやる灯り魔術も使えないとかって」


「半精霊なのに?」


「オトモ妖精もいないんだって」


「ええー? オトモ妖精がいないって、半精霊じゃないんじゃないの?」


「ううん、私のオトモ妖精が半精霊だって言ってたから、半精霊は半精霊だよ」


「へえ、じゃあ本物の半精霊なのに、オトモ妖精がいない。さらに魔術が全く使えない、と」


「うわあ……だからじゃないの?」


「だからって?」


「だから、早々施設に入れられたんじゃないのって」


「あーあー、出来損ないって分かって、親に捨てられたってことか」


「なるほど」


「納得したー、そうかそうか。だから、着てる服もぼろっぼろだったんだ」


「確かに、この季節にあんな生地の薄くて、色褪せたワンピースしか着てないから、なんでって思ってた。親に服も買って貰えてなかったんだ」


「なんか、可哀そう」


「でも、仕方ないじゃん。半精霊としては出来損ないなんだもん、親だって可愛がれないだろうしさ」


「それもそうかー」


 会場である食堂は明るく華やかな雰囲気で、大勢の人たちが楽しそうに会話し、美味しい料理に舌鼓を打っている。本当に楽しそうだ。交わされる会話は、どこのグループでもユーリアについてだったけれど。


 桃色のジュースの入ったコップを持ったユーリアは、食堂の隅っこで人様の会話を聞いていた。聞きたくないけれど、耳は閉じられずに聞こえてしまう。


 自分がいかに出来損ないであるか、自分が親に捨てられた存在であるか、それも仕方がないと片付けられて笑われる存在であるか。


「いやーよ、私、あんな惨めな生き方なんて出来ないわ。あの子みたいに生きるくらいなら、死んだ方がマシよ」


「確かにー」


「無理無理っ」 


 きゃははっと少女特有の甲高い笑い声が響く。


 ひと際目立つグループの中のその中心では、赤い綺麗なワンピースに色とりどりの刺繍が入ったブラウス、磨かれた編み上げブーツ、長い髪は艶々と輝いていて、赤い花を象った髪飾りが揺れる。


 ユーリアはジュースの入ったコップを持つ手に力を入れた。

お読み下さりありがとうございます。

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