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 精霊騎士団事務局員であるニーナとロッテ。二人に使った魔法紙はユーリアが描いた〝浄化魔法〟の魔法紙だ。数日前に同じものを事務局長のデリウスにも使用したのだけれど、やはり彼も憑き物が落ちたかのようにスッキリとした顔になった。


 浄化魔法が効果を発揮するということは、その人の精神に何らかの魔法で影響を与えているという証拠だ。


 精霊、半精霊、精霊魔法を使う精霊騎士は精神系魔法の効果がなく、人間でも魔力の多い者には効きにくい。しかし、それ以外の人は影響を大なり小なり受けているだろうと、精霊騎士団事務局を始めシュルーム騎士団と事務局の人たちは浄化魔法を受けた。


 すると〝頭の中のモヤモヤが晴れたよう〟や〝数年ぶりにすっきりした〟と言う者が多数おり、影響を受けていた者の多さに領主は頭を抱えることとなる。


 結果、魔力量の少ない騎士や事務局員には精神魔法防御の魔道具が支給されることになったのだった。


「……そう、ですね。確かに、おかしいと思わないことがおかしいんですよね」


 きっちりとした証拠のあることだ、妹の言葉が嘘であることはすぐにわかる。理解もしていたというのに、妹と面会して話をしてからは証拠を見たことも忘れてしまい、ユーリアが放火の真犯人だと決めていた。


「あなたの妹、アンネ・ブルーメは現代魔法体系から外れて失われた昔の魔法、相手を洗脳状態にする魔法が使えるようです。無意識のうちにね。そして、それはあなたにもいえることです」


「えっ」


「洗脳状態にあったあなたは、妹と同じ魔法を使ってデリウス事務局長を始めとして複数の事務局員や騎士たちを洗脳状態にしていました。まあ、妹さんほど強い力ではないようですが」


「……そんな」


「あなたの後輩、ロッテ・シンケル事務局員があなたの逃亡に力を貸したのも、それが理由と思われます。精霊騎士ジークハルト・ブライトナー卿に恋する若い女子職員、の一人であったようですからね……ユーリア嬢が邪魔だという意識を強く刺激されていたのでしょう。あなたに協力することでユーリア嬢を排除できる、と考えていたようです」


 フリッツ・ディークマン監査官の言葉にニーナは呆然とした。


 まさか、自分にそんな能力があるなんて知らなかった。妹から洗脳を受けて、洗脳状態のまま他の人たちをまた洗脳していたなんて……


 自分のジークハルトへの恋心が、ロッテの恋心が、ユーリアへの悪意となっていたなんて……


「……申し訳ありません」


「洗脳状態にする魔法については、自分にその能力があるとは知らずに無意識で行っていたということ。それ以前にアンネ・ブルーメにより強い洗脳を受けていた、ということは考慮されます。今回の数々の事件について、あなたが関わったとされる内容が精査されて、罪とされることについて処罰が下されることになるでしょう」


「はい」


「あなたの無意識を含む行動で大勢の人が傷つき、混乱状態になっています。全てがあなたの責任ではないにしろ、それ相応の処罰がくだると覚悟してください」


「はい」


 ディークマンの言葉に、ニーナは素直に謝罪し全てを受け入れた。



 ニーナ・ブルーメは魔封じのブレスレットを身に着け、大人しく事情聴取を受けている。精霊騎士団事務局は解雇された。騎士団に関わる仕事は犯罪歴のある者を受け入れないため、当然の処分だ。全ての聴取が終わり、刑が確定し次第、執行予定だ。


 ニーナの後輩であるロッテ・シンケルも精霊騎士団事務局を解雇となった。重要参考人であったニーナの逃亡を手助けし、祖父が持っていたという魔法紙を騎士団の敷地内でユーリアに向かって放った罪に問われている。彼女も罪を受け入れて反省し、洗脳状態であったことも考慮されて罰金と刑務作業所への入所が決まった。


 精霊騎士団事務局長であったトーマス・デリウスも現在事情聴取が進んでいる。彼も洗脳状態であったことが確認されているものの、未成年者へ犯罪を唆した教唆罪は悪質であるとされ、通常の教唆罪よりも重たい処罰が検討されている。


 神殿施設で暮らす半精霊の少年、イザーク・ベルについては精霊魔法での傷害罪と、魔法紙店への嫌がらせの罪が問いただされた。ただ、本人が未成年であること、傷付けられた被害者(実姉ユーリア・ベルとバーナード・ヘッセル)二名が訴えはしないとしていること、イザークの父が見舞金という名の示談金を両名に支払っていることから……本来は十八歳まで暮らす神殿施設での生活を二十歳まで延長し、再教育をしっかりと行うことで解決した。


 ニーナの妹であるアンネは、現在レヴェ村から北方にある女子刑務作業所に入所している。その刑務作業所でも、なぜか数名の刑務官(全員が女性)や入所している者がアンネを庇い養護する行動をとっており、疑問視されていたのだけれどそれも洗脳状態にあると判明し、浄化魔法と防御魔道具の対処がとられた。


 女子刑務作業所で刑務を行っている者、その彼女たちを監視する者が洗脳されたことをうけ、アンネ・ブルーメは女子刑務作業所から魔法を使う者専用の刑務作業所へと移されることが決まる。


 国の南端にあるその特別魔法施設と呼ばれるその施設は、罪を犯した魔法使い(無意識に危険な魔法を発動してしまう者も)が入る施設だ。アンネは『本人が思うままに他人を洗脳し、己に都合よい思考をさせ行動を取らせる』と、施設入りが決まった。


 この施設内では魔法を使うことが出来ないため、誰も洗脳されることはなくなる。洗脳魔法が消えるか、制御できるようになるまで施設から一歩も出られない……恐らく、アンネがこの施設から生きて出ることはないだろう。


 レヴェ村の村民たちにも浄化魔法が使われ、こちらでも少なくない人数の人たちが〝すっきりした〟状態に戻り、洗脳が解けた。今はもうアンネの言葉など誰も信じておらず、火災で失われたバルテルの魔法紙店再興を村全体で頑張っているという。



「……要するに、ゴタゴタしていたことが全て解決した、ということでいいんじゃろう?」


 通い慣れた東方商品で整えられた魔法紙店、ジークハルトは注文していた魔法紙と実際に作られた魔法紙とを確認しながら、首を縦に動かした。


 諸々の関係者が逮捕されたり、謹慎したり、休職したり、退職したりして事件が解決してそろそろひと月になる。これまでの期間で決まったこと、わかったことをヘッセルに話して聞かせたジークハルトは肩を竦めた。


「そうなります。騎士団事務局は人事異動と、新人事務局員の教育でゴタゴタしてますけど」


「事務局長と事務局員が何人か辞めて、休職した者もおるんじゃろう? 騎士団と精霊騎士団、双方の事務局を一つにして、さらに新人に移動とくれば混乱も仕方あるまい」


「そう、ですね。……確認しました、ありがとうございます」


 ヘッセルの描いた魔法紙を箱に入れ直すと、ジークハルトは次の注文用紙をカウンターに置いた。


「そうじゃ、ひとつ確認したいんじゃが」


「なんです?」


 湯呑にリョクチャを注ぎ、ヘッセルは肩を竦める。


「事務局が一つになったってことは、ユーリアの描いたものでも問題ないってことにならんか?」


 店の中にあるすでに描かれている魔法紙も、今はもうその九割がユーリアの描いた物になっている。魔法紙を買い求めにやって来る冒険者や騎士から文句が出たことはないので、満足して貰えているのだろう。


 個別に希望を聞いて描き上げるオリジナル魔法紙の評判も上々で、何度も注文しにやってくる常連もいる。


 ヘッセルの目から見ても、十分魔法紙師としての仕事をこなせているのだ。


「ヘッセル老」


「最近は、巻紙一枚描くことに苦労しとる。魔力量は日に日に減っている、そういう感覚があるんじゃ。描けなくなる日もそう遠くない」


 思い返せば、ヘッセルはずっと訴えていた。自分自身の魔力減少と体力減少のため、引退したいと。


「……わかりました、事務局長に話を通しておきます」


「頼む。それと、ユーリアのことも頼む……ユーリアについては、今すぐじゃなくてもよいがな」


 ジークハルトは両肩を竦め、魔法紙の入った箱を持ちあげた。「わかってますよ」と返事をしながらも、今すぐにでも任せてほしいという気持ちは黙っていた。ヘッセルの顔が怖かったから。

お読み下さりありがとうございます。

イイネ、ブックマークなどの応援をして下さった皆様、ありがとうございます。

引き続きラストまでお付き合いいただけますと幸いです。

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