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2-24

 尋問用の小部屋のすぐ横には同じような大きさの部屋があり、そこは〝予備室〟と呼ばれている。


 予備室の用途は多岐に渡り、尋問の記録係が内容の記録を取り、監査官や騎士が対象者の様子を見る監視場所であり、参考人が対象者顔を確認するための場所でもある。


「で、どうかな? 今、色々と喋ってるオジサンかな?」


 魔道具を通して、予備室の壁には隣の部屋の様子が映し出されている。隣室にいるのはフリッツ・ディークマン監査官、護衛兼立ち合い人の騎士、対象者の三人。


 アルノーは自分の前に立ち、隣室で上司に向かってあれこれ喋っている男を見ているイザークに訊ねた。


「うん」


「間違いない? キミの言う黒い髪、緑の目の三十代半ばから後半くらいで中肉中背の男って、街に数えきれないほどいるけど」


「……俺と会って話すときは、いつもシャツと木綿のズボンの上にローブを羽織るって街によくいる労働者と同じような服装だった。でも、服の生地自体がすげぇ高価で仕立てのいいやつだったし、喋り方からも貴族なんだろうなって。でも、俺は貴族だとか平民だとか、そんなのはどうでもよかった」


「だろうねぇ」


「嫌がらせに動物の死骸をって話を聞いて何日かあとで、あの人を街で見かけたんだ。そのときは話しをしたとかじゃなくて、俺が一方的に見かけたってだけ」


「どこで?」


「フルフト神殿の前にある大通り。俺はその日、神殿の前庭の掃除が担当だったから大通り側で草むしりをしてた。そしたら、大通りをあの人が歩いてたんだ。一緒にまだ若い男と女が一緒にいて、全員あの濃い灰色と白の制服を着てた。制服の胸のところにユニコーンの模様があったのを覚えてる。あと……」


「あと?」


「……〝事務局長〟って呼ばれてた」


 イザークのオリーブアッシュの髪をぐしゃぐしゃに撫でながら、アルノーは「いい子!」と褒めた。


 シュルーム魔道騎士団の制服は二種類。精霊騎士と魔法使いは黒と白、事務方は濃灰色と白と分けられている。事務局長と呼ばれる人間はシュルームに二人いるが、いま一人が着用する制服は紺色で胸にあるエンブレムは獅子。濃灰色と白にユニコーンのエンブレムのついた制服を着ている人物は、ひとりしかいない。


「……い、痛いってば!」


「ああ、悪い悪い。それからさぁ、あの店の裏口に置いたっていう小動物入りの小箱って……あのオジサンが用意してくれたの?」


「そうだよ。俺……動物殺すとか、無理。そんなの嫌だから出来ないって言ってたんだよ。そしたら、あの人が小さな箱を持ってきた。その中に……いろいろ入ってたんだと、思う」


 自分は箱の中を見ていない、とイザークは呟きながらアルノーの手を払い除ける。払い除けられても、アルノーはもう一度イザークの頭をワシワシッと撫でるとジークハルトに向かって目配せをした。


 それを受けて、ジークハルトは予備室を出て、隣の部屋に入り「確認、取れました」と言った。



 * 〇 *



「トーマス・デリウス魔法騎士団事務局長。なぜ、あなたはシュルーム領の神殿に併設された半精霊施設に暮らす少年イザーク・ベルに対して、バーナード・ヘッセル氏とユーリア・ベル嬢が営む魔法紙店に対する嫌がらせの助言をしたのですか?」


「……は? だから、なぜ私がそんなことを? 魔法紙店への痛がらせなど、私には関係のないことだ」

「そうですか? では、どうして魔法紙店に嫌がらせをしていた者が少年であったことをご存知なのですか」


「……!」


 トーマス・デリウスは小さく息を飲んだ。


「魔法紙店に嫌がらせは確かに行われていました、その事は近所に店を構える者たち、騎士団、魔道騎士団の騎士や関係している者たちなど、大勢の人間が知っています。けれど、それを行った犯人が誰かを知っている者は限られています。デリウス事務局長、あなたは犯人が少年であることをご存知だった」


「そっ……それは……、そうかなと思っただけだ。その、嫌がらせの内容が幼稚であったので、子どもなのだろうと……」


 濃い緑色の瞳が忙しなく動く。おそらく、頭の中で様々な考えが浮かんでは消えているのだろう、フリッツはそれがわかった。自身を守るため、どう受け答えをすればいいのかを必死に考えている者の目だ。

「その子どもが、あの半精霊の少年イザーク・ベルですよね」


「ち、違う。そんな子ども、私は知らない!」


「イザーク少年が自分に店に対する嫌がらせ内容を教えてくれた、親切なオジサンはあなただと証言しています。黒い髪に緑の目をした、三十代半ばから後半の男性」


「そんな子どもの言うことだけで、私を疑うのか? 私と同じ髪色、瞳の色をした同世代の男など、数えきれないほどいる!? 見間違えだろう!」


 デリウス事務局長は首を左右に振った。ちょっとした仕草が大きくなっているところから、焦っている様子がうかがえた。


「残念ながら、あなたがイザーク少年と話しをしている姿を近所の住人が複数目撃しています。それに……その人物らしき男が、ユニコーンのエンブレムを胸に付けた事務官服を着ていたことも目撃されていますよ?」


「えっ」


「ユニコーンのエンブレムは魔道騎士団の証。そして、その男性は他の者から〝事務局長〟と呼ばれていたそうですよ」


 目を大きく見開き、口を開くも言葉が出てこない。


「認めてください、そして全てを正直に話してください。それが一番平和で穏やかで短時間で済みますから。あなたにとっても、我々にとってもね」


 フリッツはペン軸の中にインクが入っているという、最近発売されたばかりの万年ペンの蓋を開けた。新調したばかりの万年ペンはランプの灯りを受けて、キラリと輝く。


「それから、誰かを庇うようなことはしない方がいいですよ? 庇ったところで結局は判明することですし……そもそも、その相手が庇うような価値があるかどうかもあやしいですから。ね、トーマス・デリウス魔道騎士団事務局長」

お読み下さりありがとうございます。

イイネ、ブックマークなどの応援をして下さった皆様、ありがとうございます!

皆様からの応援が続きを書くエネルギーとなっております……本当に感謝しております。

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