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39:エピローグ

「なんだか騒がしいと思ったら、相変わらずヘッセル老は声がでっかいな」


「あー、ユーリアちゃんへ店を譲るっていう話をしに来たんだ。あれ? でも、ユーリアちゃんって未成年だよね?」


「……ああ、それで譲渡が出来ないと揉めているのでは?」


「その割には、ユーリアちゃんの婿がどうのって揉めてるけど……なんで?」


「さあ?」


 午前中の警邏を終えて精霊騎士団の隊舎がある城館に戻って来たジークハルトたちは、賑やかな役場を覗き込みその原因を確認し苦笑いを浮かべた。ジークハルトは一人、〝ユーリアの婿ってなんだ!?〟と背中に冷たい汗を滝のように流していたのだが、それに気付く者はいない。


「あら、皆さんおかえりなさい。午前中の警邏は終わったのですよね?」


 役所の入り口付近で固まっている精霊騎士の制服を着た一団に声を掛けたのは、同じく精霊騎士団の事務官の制服を着た女性事務官だ。愛らしい顔立ちなのに栗色の髪を馬の尻尾のようにキリッと結い上げ、パンツ型の制服を颯爽と着こなす彼女にこっそり憧れる騎士たちは多い。


「あ、ニーナちゃん」


「警邏、お疲れ様でした。今日の日替わりランチ、デニスさんの好きなポークソテーのクリームソースかけでしたよ。行かなくていいんですか?」


「え、本当に? 行かなくちゃ! 教えてくれてありがと、ニーナちゃん」


「いいえ」


 昼食の日替わりランチは安くて量がある騎士の味方だ。ただし、全員分の用意あるわけではないため、基本早い者勝ち。午前中に警邏シフトがある班はどうしても出遅れることになり、日替わりランチの残りが少なくなっている。


 ぞろぞろと役場の入り口から移動する精霊騎士たちだったが、ジークハルトだけはその場から離れず役場を覗いていた。


「ジークハルトさん? 皆さん、食堂へ移動されますよ?」


「……」


「ジークハルトさん?」


 ニーナが距離を詰めてやや大きな声で名前を呼ぶと、ジークハルトはようやくニーナの存在に気付いた様子で「えっ、あ? どうしました?」と慌てて距離を取った。


「どうかされました?」


「い、いえ……なんでもないです、大丈夫です」


 そう言いながら、ジークハルトは役場の中を再度覗き込んだ。そこには対応している七三分けヘアスタイルの文官とヘッセル、ヘッセルの周囲を飛び回る小鳥の姿をしたオトモ妖精のトワ、そしてユーリアの姿がある。


 店の名義に関しての話に来たはずなのに、どうしてユーリアの婿という話になったのかジークハルトには分からない。分からないけれど、その婿という場所には自分が立ちたい、そう思う。


「…………ユーリアの婿、か」


 小声で呟いたその声は、ニーナの耳にだけ僅かに届いた。


 その名前を聞いたニーナは改めて役場の中を覗き込み、その姿を確認する。


 オリーブアッシュの髪、エメラルドのように透き通った緑色の瞳、精霊の血を引く者らしく整った容姿をしていた。頭の上にぽんっと乗った丸い姿の白い小鳥は半精霊と一つの命を分け合うというオトモ妖精だろう。


「…………あの子が、ユーリア・ベル。あの子が」


 興奮しているヘッセルを宥め、文官に笑顔で挨拶をしている姿を見れば、ニーナが聞いていたようなことをしたようには見えない。けれど、人は見かけに寄らないものだ。可愛らしい見た目をしている者がとんでもなく性悪だった、なんてよく聞く話なのだから。


「放せ! 放せって言ってんだよぉ!」


「静かにしろ、強盗の罪に傷害の罪が加わっておまえの罪が重くなるだけだぞ」


「放せぇえええ!」


 大きな声が響き、役場前が急に騒がしくなった。警邏に出ていた騎士が罪人を連れて戻って来たとき、役場前は一気に緊張が走り慌ただしくなる。


「誰か手を貸してくれ!」


「うるせぇ、放せこの野郎っ」


 ジークハルトは罪人を抑え込んでいる騎士の元へ急いで駆け寄り、暴れる罪人を拘束する手助けをする。周囲には他の騎士たちが集まり、警備担当の役人たちも動き始める。


 シュルーム領は全国的に見れば治安のいい地域ではあるが、犯罪が全くないわけではない。強盗や暴力事件など、全くない日はないため、役場前での出来事も慣れたものだった。


 そんな中、ニーナは突然始まった騒ぎに驚いた様子のユーリアを目で追い続けていた。


「あの子が……」


 無意識に手に力が入り、ニーナの持っていた書類がクシャリと音を立てて歪む。


 彼女の呟きは誰の耳に届くこともなく、強盗犯連行騒ぎの喧騒に紛れて消えてしまった。

「巻紙屋ユーリア」第一部 / 完結でございます。

 ここまでのお付き合い、誠にありがとうございました!! 

 イイネ、ブックマーク、評価にて応援して下さった皆様には感謝申し上げます。皆様の応援があったからこそ、続きをコツコツと書き続けることができました。ありがとうございます。

「巻紙屋ユーリア」第二部の更新は年明け、2024年2月~3月辺りを予定しております。

 ストック等の問題もありまして、執筆する時間を頂戴いたします。

 時間が空いてしまって申し訳ないのですが、更新再開しましたらまたお付き合い頂けたら嬉しいです。更新開始などの情報は「活動報告」にてお知らせする予定ですので、そちらを見ていただけたらと思います。

 ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。引き続き、拙作をどうぞよろしくお願い致します!

 

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