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一条守の最悪な誕生日

今日は俺にとって特別な日だ。というのも今日は俺の誕生日だ。だから特に何かがあるというわけでも無いのだが年甲斐もなく気分が少し上がっている。

 もちろん仕事はいつも通りあるのでいつもの通りに支度を済ませて通勤し、会社に着くと自分の席に座り変わらずに仕事をこなしていく。

 その会社で仕事をして過ごす中で朝の時間帯と休憩時間にけっこう周りからお誕生日おめでとうございます、と言われたのが自分の誕生日を知っていて尚且つ覚えていてもらえていた事に驚くのと同時に嬉しくなった。

 「先輩、今日誕生日ですよね!バー喫茶でお祝いしますよ!生意気かもしれませんが、僕がご馳走させていただきます!」

 先輩後輩の関係ではあるが俺と親しい仲の日々も覚えていてくれてたみたいだ。

 「ありがとう。まあ、バー喫茶はクソみたいなメニューしかないんだろうけどな」

 祝ってくれるのはありがたいが正直、バー喫茶はめでたい気分が台無しになりそうなので、あまり気が進まない。というよりあの店に行って腹が立たなかった事が無いようにさえ思う。

 その後特に問題も起きずその日の仕事を済ませ結局いつもの道を歩きバー喫茶に向かう事になる。何故だ?自分でもよく分からない。

 店に入りいつもの場所に座り「マスター執事、今日俺、誕生日なんで、なんかスペシャルなコースとかってありますか?」と聞く。

 「はい、ございます」

 あるのか。このお店のメニュー全然知らないがそもそもメニューの数がいくつあるのかメニュー表を見ているだけでは分からない。メニュー表の意味あるか?

 とりあえずリラックスした状態で日々に「日々の誕生日の時は俺がお祝いさせてもらうよ」と言う。こちらの誕生日を祝ってくれる相手に対してこちらは祝わないというのも失礼だ。

 日々は笑顔で「ありがとうございます先輩」と嬉しそうに言う。

 そんな会話をしているとマスター執事が料理をカウンターに出してくる。

 「お待たせしました、こちらがスペシャルコース1品目の前菜、ミラクルフルーツを使ったレモンサラダでございます」

いや、前菜なのにフルーツの比率が高いだろ。つーか1品目から俺の舌をどうするつもりだ!?

 とりあえず食べるが、これその後に出てくる品に、主に酸味のある料理が出てきた場合に甘く感じてしまい、味覚が正常に機能するかどうかが怪しいんだが。

「第2品目、フォアグラとキャビアとトリュフの―」

 「おお、世界3大珍味を全て使った料理が来るのか。初めて期待できそうな料理が出てきたな」気持ちを立て直す。

 「スムージーでございます」

 は?俺はそれを聞いた瞬間真っ白になった。

 「どうぞお飲みください」

 どうぞと言われても正直飲みたくない。たしかにコース料理の2品目はスープだけど…、というかそもそもフォアグラとキャビアとトリュフは飲み物ではないだろ。

 飲む必要は無いとは思うし何なら苦情を言って当然だと思うが、めでたい日なのと奢ってくれた日々に悪いので覚悟を決め一気に飲み干す。

 「か・・・はっ、この世の物とは思えないほど不味い!」

 正直、これと比べると青汁がソフトドリンクのように感じられるほどこのスムージーは不味い。

 「健康に良さそうですね!」一切の曇りなき眼で笑顔で言う。

 「どこがだよ!さっきから胃を通り越してお腹全体が悲鳴を上げてるよっ!」

 本当に悪い奴ではないんだけど頭は悪いな。

 「続きまして第3品目、納豆マグロのムニエルでございます」

 「・・・納豆マグロのムニエル・・・?」

 無表情でメニューを出してくるが、こいつは俺に恨みでもあるのか?と思う。

 食べるまでもなくメチャクチャ不味い事が容易に想像がつく。だが、日々に祝ってもらって且つ奢ってもらっているので食べないのも気が引け、苦行の域と化したそれを胃にぶちこむ。

 お店で出された食べ物を食べているだけなのにお腹が痛い。明らかに殺しに来ているように思えてくる。

 「次に4品目、メインディッシュの鰐と蛇と蛙の塩釜焼でございます」

 「たしかに、鰐も蛇も蛙も食用として出回っているけど、これ一体どこの国のコース料理なんだよ!しかも塩釜焼って調理の仕方がおかしいだろ!その食材を実際に食べる国の人でもそんな調理はしねえよ!!」

 祝いの場だから、と我慢しているがイライラしてくる。

 勿論食べたが案の定不味い。俺はいったい何を食べさせられているんだ?

 「最後にデザート、冷えっ冷えっに冷やした焼きリンゴでございます」

 「どうせ冷やすなら最初から温めるなよ!どうせ冷やすなら最初から温めるなよ!!」

 カウンターを叩き怒鳴りながらツッコむ。

 なんとか食べたが今日出された品の中で不味くないというだけで美味しくはない。いや普通に食べたら十分に不味いんだけど他の品が異常に不味過ぎたため舌と感覚が狂って美味しくない程度に収まっている。

 そしてついに怒りが頂点に達した俺はマスター執事に怒鳴った。

 「おまえ!美味しい物をわざと不味く調理してるだろ!!」

 本当は胸倉を掴んでぶん殴ってやりたいところだが、さすがに暴力行為はいろいろとマズい。俺は自分で自分の腕を抑えて殴ろうとするのを自制する。

 「いえ、一条様、決してそのような事は」

 「自覚が無いなら無いで問題だよ!料理人なんか辞めちまえっ!!」

 「はっ、はっ、はっ、ご冗談を」

 「本気で言ってるんだよ!頭来た!こんな店2度と来るか!帰る!」

 「はい、ではまたのご来店をお待ちします」

 「もう来ないって言ってるだろっ!話し聞いてんのか!?ぶっ殺すぞ!!」と早口でツッコむ。

 店を勢いよく出て帰路に就く。途中何度も吐きそうになり、その度に周りから白い目で見られた。

 こうして、今年の俺の誕生日は過去1最悪な誕生日となった。

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