魔法協会に向かうショタとジジイズ
ゴトゴトゴトゴト
俺は馬車に乗っている。
スプリングを作成して揺れが少ない馬車を作ろうしたが、土魔法と火魔法の相性が悪いのか製鉄の質が悪いのか、それとも俺の知識が曖昧過ぎるせいか伝え方が不十分だったのかわからないが、出来たのはショタの拳ぐらいが最大のものであった。
試験的に作ったもので大量生産の目途もつかなかったから、ソファーのクッション部分にして高級娼館の女主人メリダの所に納入したよ。やはり高級な夜のお店には質の良い内装にしなければならないからね。
ひょんなことから娼館区画のバックについてしまい。前世の就寝用動画で習得した無駄知識で作った酒にドレスやシーツの生地などをハイブルク公爵領から卸している。
以前のバックだった人攫い兼人買い連中は卸値を引くくらい高額にしてたのよ。この卸値価格は高いだろうけど前世知識の最高級品だからしょうがないよね、と考えていたら、元バックの連中はその何倍も高額で卸していたの。そりゃお店が利益を出すのに高級になるはずだ。
利幅が増えて店は俺に大感謝、第三者視点で意見を述べてくれる不特定多数がいてくれるのはありがたかったしお金は入ってくるからハイブルク家はウハウハ。
適切な需要と供給があってこそ信頼が生まれるのである。
「しかし、お支払い金額がぼったくりバー並みなままなのはなぜだろう?」
「……そりゃあ、セルフィル様の作ったものが世にあるものより抜きんでているから、そのまんまでも客は来るってわかっているからだろ」
「そうですね……うぷっ」
そっか~、生産者は自分の作ったものがどのくらい評価されているかわかっていないことが多いしな。ちゃんと儲けているなら利益分は彼女たちの正当な報酬だろう。
「さて、そろそろ調査したことを共有したいのですが」
「う、もう少し待ってくれ」
「私も……」
馬車のスプリングから夜のお店まで考えて時間を潰していたのは、馬車内で俺の対面に座るジジイたちのせいだ。
俺が娼婦たちから情報収集している間、話を聞いた彼女たちを傍に増やしながら飲み続けていたのである。情報提供者が予想を遥かに超える数がいてその分時間延長、ジジイたちは昼前から店が開く夕方まで本人たちはさぞかし楽しい時を過ごした。なんちゃって中世には存在しない美味いお酒を大量に飲んで。
そして次の日の今日、見事にジジイ二人は強烈な二日酔いになっていた。
「酒は飲んでも飲まれるなと、ロンブル翁には言っていましたよね。エイプ子爵、貴方も一緒になっていい年なんですから自分の酒量は把握してないのですか?」
「すいません。つい美味しくて楽しくて……」
「儂は酒に飲まれて暮らしてウゴゴゴッ!? ちょっ止めっ響く響くぅっ!」
額を揉みながらも反省と生産者を喜ばせてくれたエイプ子爵は何もしないが、クズ男の開き直りのようなことを言おうとしたロンブル翁の膝を掴み揺らして二日酔いを悪化させてやる。
「はいはーい、これから相手方の情報を言っていくので、その間に回復してくださいね。はいこれを飲んで、ゆっくりと染み込むように身体に吸収させてください」
ペットボトル……はプラスチックの製造が不可能なので、事前に乗せていた小さい木樽から木製のコップに中のものを注いで二人に手渡す。
「甘くて酸っぱい……これは染み渡っていきますな」
「水にハチミツと酸味の強い果実の汁を混ぜたものです」
蜂蜜酒じゃねえのかよと言っているジジイ、そのうち肝臓ぶっ壊すぞ。
「それでは今から向かう魔法協会エルセレウム王国本部ですが。どうして僕を呼び出したのか大体判明しました」
自分が座っていた横座席に置いていた情報資料の束からまとめていた書類を取った。
「目的は僕のメイド三人です。第二王子との戦いの時に覗いていたんでしょうね」
「「ああ」」
俺の言葉にジジイ二人はクピクピとハチミツ謎果実ドリンクを飲みながら納得していた。
「アリー殿が呪文も唱えずに回復の魔法を使われた時は驚きました」
エイプ子爵はのじゃ姫リリアーヌと一緒に育ったジェジェ、ゼンーラ救出作戦に参加していたので、メイドの一人アリーが無詠唱での魔法を行使したのを見ていたと後で報告された。
「別に無詠唱なんて大した技術でもないのですが、自分たちが持っていないものを掠め取ろうする輩は向上心を履き違えていますよね」
「ええ……」
「警戒しなくてもいいぞエイプさん。セルフィル様にとって本当に大したことはなくて、本当に大したことではない習得技術なんだよ」
エイブ子爵が少し考え込んだのにロンブル翁がやる気のない声を掛ける。
「そう難しいことではないですよ。剣術とかと同じ様なものです。向いている人物が知識に本人の努力があればそれなりになるくらい程度の」
「なるほど魔法も努力すればある程度は報われる類でしたか。いや、魔法使いは才能のみの道と決めつけていたのが恥ずかしい」
「どうしても理解できないものをこうだと決めつけるのは人間の性ですから仕方ありませんよ。でも理解する機会が与えられたときにその人の品性が問われるんですよね」
「大半は品性は無いけどな」
ジジイが己の未熟に恥じ入り、ショタ(心にオッサンを飼っている)が諭そうしたら、爺が現実を突きつけ、三人でため息をついた。
「まあ現在、その品性が無い方向に魔法協会が突っ走って戦争をふっかけてきていているんですよね」
もう一度三人で深ーくため息をつく。
俺のメイド三人衆を寄こせと言ってくるのがわかっている以上、敵対関係と判明したのでこのまま精神的にも物理的にもズタズタしに向かってもいいのだが、お国から直々に命じられたお仕事なので粛々とそれなりにこなすつもりである。
「情報元ですが、娼館で貴族よりも傲慢で問題行動を起こしていた魔法協会エルセレウム王国会長のデコルという人物です。火の魔法使いで、自分は攻撃系の魔法で最高の魔法使いだと自慢していたみたいですね」
「あ~、そんな自慢話をして会計を踏み倒そうとする奴がいるって聞いたことがあるな。協会の方に支払いを求めるって言ったらすぐに払ったらしいけど」
「それは万年中間管理職のチューオですね。デコルを騙って中級娼館を渡り歩いています。ちなみにデコルは頭頂部から、チューオは前からハゲがすごい勢いで進撃しているそうですよ」
「「ブハッ!」」
日本語がわかる俺にはデコと中央が名前と正反対が響いたけれど、二種類のハゲ進行だけでロンブル翁たちの二日酔いのダメージを増やしてくれたようだ。
「昨日のお二人のようにデコルはデロンデロンに泥酔した時に、『手に入れれば自分は協会の総本部だ!』と大声で話していたそうです」
「無詠唱の技術で本店に栄転ですか」
「いたいた。兵の功績を分捕っていた貴族。実力に合ってねえから大体は落ちぶれるか死ぬんだよな」
あるあると俺とエイプ子爵が一緒に頷く。
ジジイ楽だわー。騎馬民族とバチバチにやりあっている辺境の貴族と、戦場を渡り歩いて五体満足中身爺になったジジイ。経験の積み重ねが高すぎて勝手に解釈してくれる。
ダッシュ君だと説明を求めてきて聞いたらドン引きするだよね。
「それでセルフィル様はご主人様大好きメイドたちを魔法協会に売るの?」
ロンブル翁が面白いことを聞いてきた。
「技術講習を受けたいなら派遣してもいいんですがね。今はお国の一大事が収束中ですから数年後でしょうか?」
「それまで我慢など出来ませんでしょうな」
そりゃあ出来ないだろう。
魔法使いは希少で貴重さで履き違えた凝り固まったプライドはカンストしているはずだから、幼児並みの我慢力しかないだろう。
「では僕を呼んだ目的が予想通りなら拒否することになります。魔法使いの国や貴族への派遣中止を本気で実行すると脅迫してきたら、持ち帰って宰相たち国の上層部に話しますということにして退散しますのでよろしくお願いしますね」
「力で脅してきたら?」
「? お二人は僕の護衛ですよね。逃がすくらいは訳ないでしょう?」
何を言うかなロンブル翁。
歴戦のジジイが二人いてショタを守れないなんてありえない。こう見えて俺は味方を見る目はいいのである。敵側を見る目は節穴だけどね。愚王とか第二王子とか、愚者と捨て身の行動なんて予測出来ないと思うの。
「それでこのまま向かっても……無理そうですね」
でも現在、その歴戦のジジイたちはハチミツレモン水をちびちび飲んで二日酔いを回復中。二十代を遥か彼方に通り過ぎた身体はそう簡単にアルコールを分解してくれないのだ。
「いけるいける」
「もう少し時間をいただけると」
「すみませんがゆっくり王都を回ってください。魔法協会に向かう時には言いますので」
無理しているロンブル翁と素直に申し出たエイプ子爵の言葉に、馬車を操る御者にしばらく走らせるように命令する。
事前に魔法協会に伝えた時間はオーバーすることになるが、無礼に俺を呼びつけたんだから多少イラつかせるぐらいの嫌がらせは許容範囲だろう。俺視点でだけど。
「時間が空いたので、娼館の女性たちが集めた魔法協会の主な人物の評価を覚えましょうか」
敵を知り己を知れば百戦危うからずと昔の人はお言葉を残した。そして俺の横にはかなりの厚みがある魔法協会の資料がある。
「女性の商売で人を見る目はなかなかえげつないので覚悟してくださいね。ではまずはデコル会長に無理やり連れてこられた副会長の女性ですが……」
俺はロンブル翁が止めようとするのをかわしながら、ドン引きと笑ってはいけない魔法協会話チキチキ耐久レースを開始した。
クックックッ、昨日少しも手伝いもせずに飲みまくった罰だっ!
ロンブル翁の話も聞いたから合間に挟んでやろう。女性の評価は聞いたら男として再起不能になりそうだ。
「終了はお二人が回復したと僕が判断するまでです」
軽いジャブの二面性はっきり女副会長のお話でドン引きのお二人に終了のタイミングを教える。前世の俺の経験上、あと二時間は回復にかかるだろう。
それまで昨日の長時間女性の愚痴が大半の情報収集で削られたメンタル回復と、これから魔法協会で溜まるであるストレス分すっきりさせてもらうつもりだ。
「次は魔法協会のハゲの割合で紹介しましょうか、上層部になるほどハゲ率が増えるので魔法は頭部に深刻なダメージを与えるのかもしれませんね。ちなみに全員テカるそうですハゲ部分」
「「ブファッ!」」
吹き出して二日酔いの頭痛に悶えるジジイ二人。
そして知りたくなかった魔法使いのハゲとテカり具合。
僕、二度と魔法使いになりたいとは思いません。
サドショタ「魔法協会は面白い話でいっぱいだなぁ」
ジジイズ「「止めて、もう笑わせないで」」
酔って良い気分にされたら大体の人が調子にのって話します(´`:)
敵地に向かう前に情報を知るのは当然ですよね。戦力などをショタに知られた魔法協会の運命は如何にっ!?(*´∀`)
朝、微睡み中に左ふくらはぎがつりそうになる感じがして、慌てて伸ばそうと立ち上がったら右の土踏まずもつって両足激痛。倒れそうになり近くのソファーを掴もうとしたらスルンと滑って掴めず、たこ足配線コンセントの上にダイブ。両足わき腹激痛過ぎて叫ぶことも悶えることも出来ず。ただ涙がツゥーと流れたGWでした(T.T)