落ちたりおちきらなかったり
ミクシオ王都は宮廷を中心とした円形に街が広がっており、第一層は貴族の居住区、第二層は大商人と、中心に近いほど地価が高い。零番隊特務班のホームは外側から二番目の第五層、庶民の居住区の中でも郊外に位置している。近隣住民との付き合いは敢えて薄く、たまに訪ねて来るのは騎士団関係者だけだ。周囲の民家に不審に思われぬよう、ここに来る関係者は平服で来ることになっている。まあ、テンライが暮らしている時点でやたら目立つものだからご近所でキャアキャア言われていて意味があるのかは不明だ。そのうちルールは消滅してしまうだろう。
テンライ本人は「王宮勤めが嫌になって逃げて来て、ここで暮らして通いになった」と吹聴しているが。間違ってないので声音が真に迫り、信じられているようだ。
一応周りの住民に受け入れられている特務班のホームに、今日は若い従騎士がやってきた。時刻は朝七時半。早くからご苦労なことである。ホームの玄関扉は夜間以外は開いている。青年は玄関に入ったところで声を張り上げた。
「失礼します! スクル班長はいらっしゃいますか!」
「おつかれさん」
「こちら団長からです」
差し出されたのはしっかり封のされた大判の封筒だ。厚みもある。しかも事務ではなく団長から直というのが怪しい。零番隊特務班は組織の中では浮いている団長直下の班なので指令があれば団長の名で下りてくるのだ。
なにせ抱える人員が「人類の英雄」「災厄級危険因子×2」という存在が災厄な班である。そそんなところに下りてくる仕事なんて只事ではない。渋面で黙り込んだスクルの背後から顔を出したテンライが後輩に愛想よく挨拶する。
「朝早くからこんなところまで悪いね! 朝飯食べた? 食べてく?」
「い、いえ! お気遣いなく! 戻って食べますので!」
「じゃあ軽くなんか食ってきなよ。お腹すいちゃうよ!」
王国の英雄、生きた伝説に声を掛けられて、どうぞどうぞと有無を言わさずカウンターの席に座らされ、青年は恐縮しきりだ。テンライは気にせずに既に作ってあった朝食を振る舞っていく。
「あの、本当に申し訳ないので!」
「帰ってからも食えるって若いんだから! わははー」
「い、いいんですか? 誰かの分だったのでは?」
「いいのいいの」
出されてしまったものは手を付けないのも失礼かと従騎士はスクルにも目を向けたが、彼は一切関知せず。カウンターの一番奥の席に陣取り、封筒を開けて書類の確認に勤しんでいる。 止める気がないということは食べて行くしかないのだろう。青年が食事に手を付けると、テンライが朗らかに笑ってカウンター越しに美味いかと話しかけてくる。大変贅沢なことだ。
そこへ二階から軽い足音が降りてきた。
「おはよー……」
「おはよう」
「おはよー」
「お邪魔してます」
いつもより返事がひとつ多いのにも気付かず、半分寝ぼけたままトーマはカウンターに座った。キッチンにテンライがいるからには何か餌がもらえると信じ込んで。
「今日の朝ごはんなにー?」
「お寝坊さんにはありませーん」
「は?」
「エッ?」
驚いたのはトーマよりも従騎士の青年の方だ。再三遠慮したにもかかわらず、今食べている朝食を本来食べるはずだった様子の少年が現れた。
しかもこの少年が間違いなく例のアレだ。青い顔をして震え上がるしかない。
「それ俺のじゃないの⁉」
案の定トーマが食って掛かる。青年は命の覚悟をしたが、テンライは動じずにガキの生活習慣に指導を始めた。
「作ってもらいたかったら同じ時間に起きて来いって言ってるだろー?」
「目覚ましもないのに起きられるかよ! おれの朝メシ返せ〜!」
「す、すみません!」
「いいから食っちゃって。これも教育だから」
テンライがトーマを腕力でホールドしてギリギリ押さえ込む。恐縮しきりの若者が慌てて飯をかっこむ。朝っぱらから賑やかなBGMを頭から排除してスクルは書類を読み込んでいた。眉間の皺はどんどん深くなる。
やはりトーマは厄ネタだ。
聖王道教会に不穏な動きがあるらしい。いよいよ事が起こる。
結局トーマは自作の残念な朝食を済ませ、多少ドタバタしたが従騎士は無事に帰って行った。
昼になってもエスネッサが遊びに来ないので暇を持て余していたトーマを連れて、その日は三人揃って騎士団本部に訪れた。と言っても、テンライは午後からの稽古指南、トーマは稽古の見学。スクルは一人団長室だ。
今回の団長室はセレーナすらいない。完全に団長と一対一の密談である。
「やはり教会にとって邪神トーマは目障りらしい」
「でしょうね。うちに捕まる前にも随分教会の人間をやってるみたいですし。恨まれて当然でしょう」
「審判での態度も相当なものだったし、結局うち預かりになったのも奴らは気に入らんのだろ。わざわざ城下に降りてすぐ難癖付けに接触してくるぐらいだしな」
いつぞやの、トーマが商店街で異端審問官に話しかけられて穏便に帰ってもらった件だろう。危険思想に変わりがない化け物を、市井に置く危険性についてかなり突かれて面倒だった。
それでも生かして返した点で遥かに改善していることと、曲がりなりにもテンライが傍にいたことでストッパーはかかっていたと、一応話は付けたはずだった。教会は当然納得していないとしても、貴族院、商人会、ギルドなど他の主要な組織が良しと言えばいいのだ。
みんな王都に居を構えているからこそ、災厄への恐怖は根付いている。邪神トーマだって使えるものなら使いたいし、英雄テンライの反感を買いたくないのだ。次もまた、守ってもらうために。
「トーマの生殺与奪権が欲しけりゃテンライ並みの戦力持ってこいって話です」
「ま、そのテンライを五年前に引っ張り込めなかったからな。結局確保すべきはお前の方だと分からんのだから仕方ない」
「……。」
五年前に災厄を打ち払った後、テンライを救世主として奉り上げて教会に引っ張り込もうだとか、国の英雄として爵位を与えて莫大な金と権力で釣ろうとか、さまざまな組織で散々軋轢を生んだ。結局は騎士団所属の平民のまま、近衛隊として王宮勤めになることで、上層部の人間の殆どの生活圏が集中する王都の中心部に常にいる形になった。
いざという時も騎士の精神に則り国と人々に尽くします。と民衆の前で宣誓されてしまえばもうテンライは動かせなかった。
実際には彼はそこまで崇高な人間ではない。近衛なんかヤダー、と泣き言を言うのを蹴り飛ばして言うことをきかせたのはスクルである。
「話が逸れたな。今はトーマ・ベルニクスのことだ。万が一にも邪神トーマに活躍などされては教会の面目丸潰れ。処分出来るならいつでもしてしまいたいのが奴らの考えだ」
信奉する神は人類に試練を与えるべく災厄の巨獣を作った。次の災厄がいつ来るか分からないが、人類であるテンライならまだしも、異世界の邪神に討伐されようものなら彼らの信仰とはなんなのかという話になる。
五年前、第一の災厄の時点で信者が離れかけたが、これも試練の一端なのか、ここ数年アンデッド被害が増加の一途を辿っており、その対処が可能なのが教会の退魔部隊のためなんとか権威は保たれている状況だ。次の災厄がいまだ訪れないことからも、人々が自己を顧みて慎ましく正しく生きるのであれば試練は降り掛からないとか説いているらしい。
それならそれで良いが、ことが起こった時のために備えるのが騎士団のスタンスだ。その備えすら神への反抗とか突かれるのだから堪らない。
両組織の関係はこの五年ガタガタである。神も人類を見放したくなる。
「邪神トーマに関しては擁護派がうちと王家だけ。処分したらしたで、おそらく事後承諾で問題にならん」
「処分出来れば、の話でしょう。失敗すればトーマと人類の決定的な敵対です」
「成功者は失敗を恐れんので困る」
やれやれ、と肩を竦めるガットだが、これは人類の存亡に関わる話だ。失敗すれば冗談では済まない。
「今動き出したと言うことは、それなりの準備が整ったということだ。悪いが詳細は不明」
「対立した場合、どちらにつくんです?」
教会についてトーマを討伐するか、トーマについて教会と完全対立するか。どちらもリスクが高い上にメリットがない。最悪だ。
ガットは底維持悪そうに口端を吊り上げてスクルを煽る。
「ぬるいことを言うじゃないか。そもそも貴様らの任務はなんだ」
「矢面に立つのが俺たちなのは承知してます。それでも、いざって場面があるでしょう」
「判断は貴殿に任せる」
「……。」
「そう嫌そうな顔をするな。これは信頼だよ」
丸投げというのでは。と目だけで訴えれば十分だろう。
どうせやるしかないのだ。五年前から腹は括っている。
「周りの住民を巻き込むわけにはいかない。奴らが釣りに来たら自ら出向いて方をつけてしまえ」
「…いいんですか?」
「衝突が避けられないのなら、こちらの被害を最小限に抑えなくてはならないだろう」
戦端を切るタイミングを測り、戦場を敵陣地にせよと。言い方から察するにエスネッサまで投入して被害を出しても構わないのだろう。アウェー戦の数少ない利点だ。
団長室を出て、スクルが通路を行く足は早い。
これからのことを思うと頭が痛い。無闇に舌打ちなどかましながら、久々に後先考えず訓練場でテンライでもボコろうかと考えていた。
威勢の良い掛け声が響く広場の隅で、金髪頭を探すより先にビョンと少年が跳ねて寄って来た。暇すぎて隅で訓練を真似て木刀を振り回していたらしい。
「スーさんチーッス! 話済んだの?」
「……。」
今まさに特大の火種になろうとしているガキが呑気に見上げてくるのでスクルは返す言葉を失った。トーマは気にせず勝手なことを言い出す。
「ねー、おれ暇なんだよね〜。スーさんから偉い人に言って今からスレイに会えないかなぁ。せっかく近くに来たんだしさ!」
「月イチって約束だろ。そんなとこに話通すツテねぇわ」
「まあそうだよな〜」
「暇なら街で甘いもんでも奢ってやる」
「マジで‼」
トーマが放り捨てた木刀が勢い余って訓練用の木人形に刺さった。まったくどういう力が働けばそうなるのか。やはり化け物だった。
数日後。
零番隊特務班のホームに教会の人間が正面からやって来た。
「トーマ・ベルニクスの精神面の定期検査を行いたく、ご協力お願いしたい。教会までご足労願えますでしょうか」
危険性を測るための定期検査と道徳の教えを行うとかなんとか。以前検討されたが、この度実施していこうという話になったのだとか。
明らかに方便だ。トーマでも分かる。少年の機嫌は一気に急降下した。
「偉っそうに。ここでやればいいじゃん。下っ端よこすんじゃなくてそっちが出向いて来いや」
気の弱そうな教徒にメンチを切るトーマをスクルが制した。
「いい。行ってやろう。ただし俺たちも同行する」
「はあー⁉」
「トーマにもあんたらにも何かあってはこちらが困る」
そうして訪問者を連れてさっさと先に行ってしまった。残されたトーマは自分のことなのに勝手に話が進められて面白くないことこの上ない。
「カーッ!」
「ほーら行くよトーマ〜」
言語を放棄してやさぐれるトーマの背をテンライがぐいぐい押して外に出る。
テンライときたらいつの間に準備していたのか、防具に剣まで完全武装だ。
玄関に鍵をかけていると、丁度ホームにやってきたエスネッサと鉢合わせた。
「あらー? トーマったらガチ装備のテンちゃんさんとお出かけ? 物々しいのね」
「メンタルチェック! 精神鑑定! おれの異常性を白日の元に! テンちゃんは俺の止め役なので同行かな⁉」
「荒れてるなぁ〜トーマ〜」
「エスくんは来ることないよ! 胸くそ必至!」
「そだねー。昼飯もらい損ねた……」
基本的に毎日飯をたかりにくるエスネッサである。みんな不在になるなら用はないとばかりに踵を返したが、その背にテンライが声をかけた。
「いや、【エスネッサくんも後からおいで。用事が終わったらみんなで外食しよう】」
「あー…はいはい、りょーかい。あとでねー」
事前に決めていた合言葉がちゃんとエスネッサに伝わったことを理解して、テンライはトーマを引っ張ってスクルたちの後を追った。
「外食かー。なにがいいかな」
「……ん? トーマ?」
「なに?」
「いや……トーマが嫌な思いするんだからトーマの好きなものでいいよ」
「いえーい」
トーマの反応があまりにもいつも通りで、トーマには何も伝わっていないことを察した。スクルが敢えてそうしたのならば、余計なことを言うわけにはいかない。
しかし確実に戦闘込みのトラブルが起こるのに、なにも知らせていなくていいのだろうか。知っていたとしたら……知っていたとしたら、トーマはお使いの人から斬り捨てかねない。
テンライも理解した。スクルの判断は正しい。
聖王道教会本部は宮廷のすぐ隣にあるのだが、今回連れてこられたのは王都でも郊外に位置している教会だった。正面の礼拝堂は本部の大聖堂とは比べるべくもないこじんまりしたものだが、意匠は十分立派なものだ。
そこの前で話していたスクルたちと合流して中へと案内される。
今回は一般人も出入りする礼拝堂に用はなく、通用門から敷地に入り、建物には入らずに外の通路を奥へ進む。教徒もなるべく避けているのだろう。
思えばトーマはこの世界に来て、かなり早い段階からこの聖王道教会とやらに狙われていた気がする。そもそもカルト教団がトーマを呼び出したわけで、その教団も危険思想のある邪教として弾圧されていた。教団が崇拝する邪神トーマなど最も忌むべきものなのだ。
トーマからすれば、知ったこっちゃねえの一言に尽きる。
辿り着いたのは背後に墓地の丘を背負った神殿だった。普段は固く閉ざされている聖域の
一つなのだが、扉が開いて中から明らかに仰々しい装いの初老の男性が出てきた。続いて取り巻きがぞろぞろと出てくる。案内人の男をはじめその場の全員、スクルとテンライまで膝をついたがトーマは突っ立ったままその男を見つめた。
——嫌な感じだった。全身がザワザワする。
トーマを見る目に宿るのは、敵意なんて生易しいものじゃない。恐らく同じようにトーマも相手を見返しているが。
「まさか教皇猊下がいらっしゃるとは」
「構いません。どうぞ楽になさってください」
教皇、つまりは聖王道教会の頂点にいる神の代行者である。
この世界では神の存在が確認されている。その主神を奉り、神の奇跡を行使する教会の地位は極めて高い。そこの教皇自ら出てくるあたり、教会がいかにトーマの存在を大きく見ているかが分かる。
精神鑑定に魔法を使うため神殿内で行うというが、入る前に教徒の一人が偉そうにトーマに命じた。
「これより先は我らが主の庭です。トーマ・ベルニクスの武器は預からせてもらいたいのですが?」
「あ、そう? 是非どーぞ」
「やめろトーマ」
「ヒャンッ」
カチンときて、包丁を手渡してやろうかと手にかけたが、すかさずスクルのげんこつが降ってきて止められた。
「こいつの得物に触れた人間は発狂して死ぬという報告を受けています。手出し無用です」
「なんと恐ろしい!」
こんな重要事項、教皇と取り巻きが知らないわけがない。わざとトーマの危険性をアピールして、二人の騎士がどう出るか反応を確かめられた。
「しかし神の庭にそのような魔剣を持ち込まれるのも困りますな」
「仰る通りです。トーマ、その魔剣ここに置いて行け」
「え、やだ!」
「どうせ誰も触れない代物なんだから盗まれることもない」
「絶対やだ!」
この包丁はトーマにとって絶対に手放せない守りだ。寝る時だって枕の下に隠している代物だ。頑なに拒否するトーマを、隣のテンライが静かに諭す。
「トーマ、少しの間だから。そいつが手元にない間は俺がトーマの剣になるよ」
「ええ〜やだぁー」
「おま、俺の騎士の誓い蹴るとは……」
説得失敗を見るやスクルが手早くトーマのベルトを引っこ抜いてホルダーごと包丁を放り捨て、トーマを引っ張って神殿内に入っていく。呆れてテンライもついて行った。
トーマから武器を取り上げる展開は大人たちには都合が良い。ここでトーマを戦わせずに方をつけたいのだから。
硬質な白い石造りの神殿は随分古い時代の物のようで、礼拝堂にくらべると装飾は少ない。突き当たりに女神像があり、天井は広く開いて青空が見えていた。女神像は陽を浴びて内側から煌々と光っているようだった。
本物の聖遺物である。神殿内全体の空気が魔素を帯びて輝いてすらいる。
人間にとっては清浄な空間と言えるが、トーマにとっては埃まみれの倉庫にでも入ったように息が詰まる感覚があった。しかも肌がピリピリする。この違和感は自分だけかと訝しんで前方のスクルを確認し、背後のテンライに目をやる。視界に入ったテンライのさらに後方、神殿の入り口より外に教皇が立っているのに気づいた。
——彼の足が動く気配がない。
「スーさん罠だ!」
「そうだな」
「は?」
トーマが咄嗟に叫ぶがスクルは涼しい顔をして動かない。少年が戸惑う隙に、教徒の手によって入り口の扉がいきなり閉められた。重い音が神殿内で反響する。
「完全に嵌められたじゃん! どうすんの!」
「こっちが先に手は出せねえんだよ! お前と一緒にすんな!」
閉じ込められた次は、外から何人もの声が重なって祝詞のようなものが漏れ聞こえる。神殿を満たす塵のような光が急速に強まっていき、そしていきなり部屋が真っ暗になった。
なにか大掛かりな魔法の気配にようやくスクルが号令を出す。
「テンライ【使え】!」
テンライがトーマを庇うように駆け込んだ瞬間、雷よりも眩い光が質量をもって天空からこちら目掛けて落ちてきた。それがトーマたちに降りかかるより先に、テンライが振り抜いた剣から虹色の光が放たれて、白と虹の閃光が上空でぶつかって破裂する。
テンライの剣が力に耐えられず砕け、相殺し損ねた細い光が神殿内に走る。
「あっっつ‼」
白い光が肌に触れてトーマは軽い火傷を負った。もっと光を浴びているはずのスクルとテンライは全然平気そうで、これはトーマだけに向けた攻撃なのだと理解した。
ならばここまで大人しく連れてきたスクルたちも実は教会とグルか? と疑いを持ったとき、テンライが自分のマントの下にトーマを押し込んで光から彼を庇った。
「トーマは頭出すな!」
「あ、はい」
疑ったことを即座に反省した。最初に会った時に言っていたトーマのために体を張る、という約束をテンライは今体現してくれていた。
「二人とも走れ! 追撃までもらう必要はねえ!」
スクルが二人の背を押したのを合図に神殿の入り口へ駆け、閉ざされた扉はテンライが剣で切って開いた。
外に飛び出すと、彼らは数十人の教徒にぐるっと囲まれていた。
無傷で出てきたトーマを見て教徒たちが騒ぎ出す。
「清浄の光を恐れるなんてやっぱり不浄の化け物だ!」
「こんなちょっと肌が赤くなる程度の火傷怖くないわい!」
「裁きの光が効いてる! 化け物め!」
「威力よわよわで意味ねーわ! 都合の良いように解釈すんな!」
トーマと教徒たちがワーワー揉めているのを無視して、スクルは人垣の最奥に立つ教皇に問う。
「これは国の決定を無視しての暴挙。聖王道教会の暴走と捉えられても仕方がないが如何に!」
教皇は表情ひとつ変えなかった。
「審判結果など、所詮神の意も解さぬ俗人どもの判断です。神の試練は人間に下されたものなのだから、邪なものの力を借りるなんて言語道断! こんなものがいれば尚一層神の怒りを買ってしまう」
邪神を倒せ、正義は我らにありと高らかに宣言すると、わっと教徒たちも賛同した。
盛り上がるのは勝手だが、本当に現実が見えているのか疑問だ。スクルは思わず素で舌打ちして吐き捨ててしまった。
「トーマとテンライを相手取って力尽くとか何事だよ。その自信はどっからくるんだ…」
独り言のつもりだったのに耳聡いお偉いさまはわざわざ返答を下さる。
「そもそも審議の時点では手の施しようがなかったので保留としただけのこと。処分できる手段が見つかったのなら、地上に残す理由はない」
分かりきっていた決裂。所詮自分の正義以外を悪とする人間とまともに会話はできない。
教皇の方も話は済んだとばかりに手を掲げると、教徒たちの祝詞が始まった。
スクルはすぐさまトーマの首根っこを掴んでテンライの元に投げる。
「トーマは手出しすんな!」
たたらを踏むトーマの傍でテンライが二本目の剣を抜いていた。
『刃よ虹に輝け!』
再び虹色の光を放つと、それだけで刀身にヒビが入った。トーマから見ても常軌を逸した力なのだろうことが伺える。しかも何故か同時にスクルが膝をついたのだ。
「スーさん?」
「だまってろトーマ……」
歯を食いしばる口端から血が滲んでいた。戦っているのはテンライであり、スクルは何もしてないのに。
問い質す暇もなく、周囲が煌めき、次いで天が暗くなる。
『落ちよ裁きの光!』
教皇の呪文でカッと真っ白な閃光が一直線に落ちてくる。こうして広いところで見ると太さ五メートルはあろうか。この二撃目もテンライの剣が放つ虹色の光が相殺した。
「テンちゃん! もう信者ごと切り裂いてあのおっさんやっちゃおうぜ」
「なんとか魔力切れ狙いたい。そう何度も使えないでしょアレは」
「この世界の原則はやられる前にやれだろ!」
「偏った原則だから忘れてよし!」
さすがにあの規模の儀式魔法は単独で使えるものではない。先ほど裁きの光が発動したら囲む信者たちが何人かその場にくずおれた。発動に何人必要なのか分からないがそろそろ打ち止めになってもおかしくない。
問題はテンライの方も長期戦は出来ないということだ。さっきの一振りで二本目の剣も刀身が砕けたので投げ捨てた。剣の残数は残り二本。
チラリとスクルに目を向ける。一撃目の後はまだ走る余力があったが、二撃でもう動くのも厳しそうだ。
【スクルが着実に死に近付いている】
制限を超えて湧いてくる力でテンライには如実にそれが分かる。本当に短期決戦狙いでトーマ案に乗りたくなってしまう。
そんな状況を打破する救い手は、神殿背後の墓地からのんびり歩いてきた。
「僕が思うにこの神殿がとても怪しい」
急に割り込んできた黒魔術士の少年に、教皇一派とトーマが目を白黒させる。
「エスくん⁉」
「来てくれて助かる!」
反対にテンライは安堵の息を漏らした。予定通り後をつけて様子見をしてくれていたようだ。敵の力も測れたタイミングで姿を現したのだろう。
「これだけの儀式魔法を連発するなんて、信者の魔力吸い取ってるだけじゃ理由がつかないよねー」
周りの反応全無視でエスネッサは神殿のひんやりした外壁を叩いていた。
「よほどの聖遺物を媒体にしてるか、術式の基幹魔法陣でもあるんでしょ」
「貴様、何をするつもりだ!」
焦った信者の反応こそエスネッサの検討が正しいことに他ならない。
まあ別に、確認などとる前に彼はとっくに魔術を構築していたが。
『術式展開から即時発動。着弾点展開場所指定。爆風誘導を突入角からマイナス四五度に設置。魔力充填速度重視七〇パーセント。発動、メテオフォール』
エスネッサの触れている外壁に魔法陣が浮かぶと、天の彼方から巨大な燃える石が落ちてきたではないか。エスネッサとトーマが初めて会った時に工場地区を吹き飛ばしたアレである。
「うわぁああ〰〰〰っ‼」
敵味方関係なく全員が咄嗟に命を守る行動に入った。教徒たちは全力で教皇を中心とした結界を組み、テンライはトーマとエスネッサを小脇に抱えてスクルの元へ走り、光の盾を展開した。
轟音と共に神殿に隕石が直撃。
巻き上がる瓦礫は爆風誘導をかけた上昇気流に乗って真上に吹き飛ぶ。落下してくる瓦礫がまた二次災害を生み、丘に墓石を増やした。
異様な光景だった。
呆然とする人々を尻目に、エスネッサは更地と化した神殿跡地を見渡し、瓦礫を背に悠然と真理を語った。
「質量は建物に効く。やはり物理ですわ」
「さすがエスくん。やる〜」
ドヤ顔をかますエスネッサにトーマが並び立ち、少年たちはイェーイと手を合わせた。
一同ゾッと背筋が凍った。
まともな神経なら、これだけ人が集まる場で味方がいるにも関わらず躊躇なく大魔術を行使したりしないし、神殿を丸ごと破壊などという蛮行には及ばない。瞬時にそこまでの魔術を単独で発動するあたりも人間をやめている。
一発で戦況を滅茶苦茶にする。これが災厄級危険因子というやつである。
「な、な、なんてことを…! 罰当たりが!」
「神罰落とせばいいじゃない。できるもんなら」
ぐっと教皇が押し黙る。
とんだ蛮行だったが、エスネッサの狙い自体は当たっていたようだ。続けて裁きの光が落ちてくることはないと見てテンライも安堵した。敵わないと分かって引いてくれればこの場は御の字だ。
だが事態は収束したわけではない。
「もともと神の力のごく一部で邪神を葬り去れるとは思っておらんわ!」
泰然とした様子はどこへやら。人間、追い詰められてテンパった時が一番危険なのだ。立ち直った教皇が、大地に手を当ててなんらかの術を展開する。
『落ちよ、全てのいのちを安らぎの庭に落とせ!』
教皇を中心に地に広がる巨大な魔法陣は、集まっていた教徒たちの座り込む地面に幾重にも広がり、怪しい紫の光を放つ。すると教徒たちが突然バタバタと倒れた。誰も、悲鳴ひとつあげることもない、あまりにも静かにふっと体と魂が分離した。
『証を持って宣言する! 我こそは冥府統括の代行、開け冥界の門!』
「な、なに? 仲間割れ?」
仰々しい魔法陣と大量の信者を使い捨てる割に静かなもので、先ほどのように周囲に異変は感じない。何をするつもりなのかとトーマが首をかしげる。
「下だトーマ!」
一瞬の出来事だった。
エスネッサの声に足元に目を向ければ、突如大穴が空いたのを見た。状況を認識するよりも早く、トーマは横から突き飛ばされて近くの大きな瓦礫に激突した。
「トーマ!」
「エスネッサくん‼」
二人を案じるテンライとスクルの叫びが同時にあがるが、脳まで届かない。トーマの目は大穴に釘付けだった。
自分が狙われた虚にエスネッサが庇って落ちた。
事実は認識しているのに現実味がない。
「エスくん…?」
今は影も形もない。この世界で初めてで、唯一の、トーマの友達。
終始かったるそうな魔法少年は半径三メートルほどの真っ黒い地面に落ちて消えた。
「エスくん‼」
虚がじわじわと小さく閉じつつあるのに気付いたトーマは慌てて駆け戻り、エスネッサを取り戻そうと手を突っ込もうとしたのだ。
「やめろトーマ! お前でもただじゃすまん!」
その手を掴み上げてトーマを押さえつけるのは息を切らせて駆け込んできたスクルだった。
「離せよ! エスくんが落ちた!」
「分かってる! だがこれは冥界に繋がる虚だ! 手を入れただけで引きずり込まれる。物理現象じゃねえんだ、もう……エスネッサは戻れない」
「うそだ……! だって、だって穴が開いて、今落ちた!」
スクルを振り解こうとする力が弱まる。穴ももうマンホール程度。
「元々お前を狙った虚だぞ! ただの穴のわけあるか! あいつの行為を無駄にするな!」
穴を茫然と見つめる。底どころか空間すら見えない。ただの黒い円だ。厚みも深さも何もない、黒い虚はもうゴルフのカップ程度―――そして消えた。
「エスくん…」
冗談みたいだった。
たった一瞬で、何も残さず、人というのは消滅するのか?
虚があった地面を見つめ続けることしかできなかった。
嘆くとどころか呆然と現実を受け入れる暇もない。その地面から、今度はいきなり手が生えてきた。虚ではなく、地中からボコッと。
「は?」
驚いたトーマは反射的にそれを掴む。もしかしてエスネッサの手か? と希望を込めてひっぱり出したら、死体だった。しかも、明らかに古い。腐敗臭と骨の白を認めて悲鳴をあげてそれを遠くにぶん投げた。
「キモ! 気持ちわる! 触っちゃった‼」
ぼこぼこと似たような音が周り中からしだして、恐る恐る目を向けるとアンデッドに囲まれている。
いきなり虚があいて、エスネッサが落とされて、今度はゾンビものだ。トーマの頭は真っ白。
「まったく、余計なことを。冥界の虚を作るのに、どれほど犠牲を要したことか」
トーマを置き去りに、教皇が顔を歪めて何か言っている。
「邪神を滅ぼすまたとない機会を無駄にしてくれましたね。騎士団のお二人については反社会的行動と捉えられても仕方ないのでは?」
「お生憎、俺たちにとってはトーマはまだ保護対象なんだよね!」
テンライが教皇の周囲に侍る死者を必死に薙ぎ払っているが、ここは墓地だ。死者はいくらでも湧いてくる。
「くそっ、キリないな! スーちゃん生きてる⁉」
「うるせえ! こっち見たら殺す!」
「こわっ!」
テンライの戦いが長引くほどスクルの負担が大きい。いまや体内器官を誤魔化している魔術器を停止して血反吐吐きっぱなしだ。正直目も耳も遠くなってきた。スクルは最早気合だけで生きている。
「まさか! 最強の騎士との誉高いテンライ殿が代償魔法ですかそれは!」
「教徒の命使ってる奴が何言ってんだ! 目糞鼻くそ!」
質は圧倒的にテンライとスクルが上だが、教皇は数に勝る。ここまで長引いてしまえばテンライに勝ち筋はない。否、本気でスクルを全部使ってしまえば、相打ちにはなるか。テンライは迷う。
「邪神を抱える騎士は禁呪使い! 先程落とした黒魔術士も確か災厄級危険因子に登録されていましたか! 地上を穢す邪なる者たちめ。ここで私が貴様らを浄化し救世主たらん!」
「テメェもクズなのを除けば結構合ってるのがなんとも言えねえんだよな……」
自らの正しさを信じて悪しきを討とうと酔う教皇にスクルの乾いた声が重なる。
トーマはそこでキレた。いや、意識が戻ってきただけか。
「ふざけんなよ、ふざけんなよまたかよクソだ。この世界はこんなんばっかかよ」
ぶつぶつと不満を漏らすトーマはふらふらと教皇とは反対方向へ歩いてゆく。何かと思えば、神殿に入る前に没収された万能包丁を拾いあげた。
ホルダーから抜かれた包丁に、何故か全員が手を止めて視線がそこに集中した。トーマが包丁を拾いに行ったことにすら気付かなかったのに、いざ抜かれると目を離すことができない。無造作に包丁を右手に下げたまま、ユラリと教皇に向け歩き出すトーマがすぐ隣を素通りしていきかけるのをスクルは慌てて止めた。
「おい、トーマ待て。お前が手ェ出すんじゃねぇ……」
スクルの手は最早隠しようもないほど弱々しく震えていて、掴んでいるのか縋っているのかすら分からない。邪神への畏怖というより単純にスクルの体は限界なのだ。
トーマはそれを雑に振り払った。二の腕に赤い跡が残る。忌々しいと舌打ちが漏れた。
「しらねーしらねー知るか! エスくんが死んだ!俺の友達が殺された! スーさんも死にかけじゃんか! 知らねえよ、俺は俺から奪う奴を潰して歩くって決めたんだ! やってきた! 今更だ!知るか! あいつも殺す!」
「トーマ!」
この世界に突然移動して、救世の神だなんだと崇められたり利用されたり殺されかけたり、殺したり。ずっとその繰り返しで、やっと落ち着いた居場所はこの世界で唯一認めた家族を人質にする代わりに得た仮の宿だ。それでも、スレイが自ら望んだことだから人質はノーカンにした。もう二度と何も奪われたくなかった。
エスネッサという友達ができた。変な奴だったが気が合った。その友達がトーマを庇って死んだ。
目の前では正義ぶった奴が死んで当然だと声高に叫んでいる。クソくらえだ。この世界がトーマを好き勝手に奪うなら、トーマだってそうするだけだ。
「エスくんもテンちゃんもスーさんも!俺も! 生きてんだぞ死んでいいわけあるか‼ 殺されてたまるか! やるなら殺し合いだ! 殺す殺す俺が先に殺す!」
「と、トーマ……」
本人曰く、異世界から来たごく普通の学生だと言うが、これが生物として当然の生存本能なのか、邪神ゆえの荒々しさなのか、はたまた異世界トリップ後の環境で精神がやられたのかは分からない。ただ、普段の軽い様子とは打って変わって今のトーマは邪神と呼ばれて差し支えない。それだけの闇を孕んでいた。
「やってやるよ! 正義も神も、俺の生活脅かすならみんないらない! 全部殺す! 全員が黙るまで、この先沸き続ける似たような奴らみんな殺して生きてやる‼」
トーマが今大人しく王都で暮らしているのは、スレイが望んだからだ。スレイが、トーマのような子供がこれ以上人を殺したりしなくてもいいようにと望んだから、トーマとしても最大限配慮していた。
だがもういい。当のスレイまで人質に取られていると言うのにこの始末。
それなら欲しいもの全部、奪われないように手の中で守った方がいい。いつまで続く連鎖と知れなくても殺し続ける方がいい。
トーマの考えは振り切れてしまった。
先にトーマとの共存を放棄したのは人類の方だ。こうなっては人類の脅威になっても構いやしない。このさき何千、何万殺し続ける覚悟を決めた。人類が敵わないと黙るまで、トーマ・ベルニクスは人類の脅威になる。
「手始めにお前だ!」
教皇に向かって一直線に駆ける。目の前に立ち塞がる元人間など、撫でるように薙ぎ払い、躊躇なく踏みつけて、一片の尊厳もなく潰していく。有象無象がいくらいても、彼の前進は
もう止められない。
「ば、化け物め……!」
聖魔法が降り注ぐ。神の奇跡、なにするものぞ。ほんの少し肌が赤らむくらいで痛みすらない。
トーマはこの世界に生きるものではない。この世界の神ではトーマを裁けない。ましてや
教皇はただの代弁者だ。トーマに文句があるのなら、本人が直接来いというのだ。トーマの方こそ、言ってやりたいことが山ほどある。
この世界はクソだ。そんな世界を作った奴が責任取れ。
一方、冥界の虚に落ちたエスネッサは死んではいなかった。落ち続けている。
(トーマは――落ちてない、よな? よかった……)
思考しているのだから、エスネッサは存在している。
冥界は死者の世界。生きた人間でもそこに存在するということは、事実として死んでいるということだ。単純に地上に帰る方法がないのだからエスネッサという存在が生きていても死んでいても、地上からすれば死んでいる。卵が先か鶏が先かのような、意味のない位置づけだ。
何せ、エスネッサは確かに冥界に存在している。死んでいない。加速度を上げて底のない冥界に落ちている。
そして思い出した。
エスネッサとは誰だ。
急速に冥界に底が生まれた。否、彼が冥界に形を持ったから底に足が着き、落下が止まったのだ。
彼は、四年ぶりに確かな形を得ていた。
遠くから慌てた様子で何かが駆け寄ってくる足音を聞いていた。
数だけは多いアンデッドを切り拓きながら進むのは容易ではなかったが、トーマは教皇へ
あと十歩というところまで詰めた。
「ひぃっ! や、やめろ!!」
展開される強固な五重結界も、触れた瞬間にビリリと静電気のようなものを感じたが、包丁を縦に一刀するだけで四枚を切り裂き、残りの一枚は左手を押し付けるだけであっけなく破れた。
「邪神め、さっきまでと全然違うじゃないか!」
逃げの態勢に入る教皇。少しでも時間を稼ぐべくトーマの足にまとわりつく汚い死体たち。トーマにとってはどちらも同じだ。
「お前が望んだんだろ。俺に本気で殺して欲しいからこんだけのことやったんだろ?」
「なにを訳の分からんことを…」
「お前が大人しくしていれば、俺だってお前らがゴミ虫だなんて知らなかった。今はもう一分一秒も見たくない」
いよいよ包丁を振りかぶり、ゴミ虫を屠らんとする。迷う余地など一ミリもない。だというのに、トーマの凶刃は振り下ろせなかった。
虹色の光が視界を掠めたかと思った瞬間、トーマの体は背後から羽交締めにされていた。
「やめろトーマ!」
「離せよ! テンちゃんでも許さないぞ!」
「駄目だ! 殺すな!」
「許さないって、言った‼」
羽交締めにされているというのに、ブチ切れているトーマは意にも介さず、浮かされている態勢のまま下半身の力だけで背後のテンライの鳩尾に後ろ蹴りを入れ、拘束が緩んだところで抜け出して腕を捕まえて背負い投げをかました。
小柄な少年が完全武装の騎士を豪速でぶん投げた絵面は冗談みたいだ。
「テンライ!」
スクルのそばの外壁にテンライが激突し、衝撃に壁が崩れてきんきら頭が瓦礫に埋まる。
しかしこちらも頑丈なもので、すぐに瓦礫から腕が生えてきた。
「ゲッホ、おぇ……こんのクソがきゃあ……!」
テンライがよろめきながら立ち、再び剣を握るとそこから虹色の眩い光を放つ。
ここでトーマに教皇を殺させてはならない。テンライは、そのために充てがわれた、最強の騎士だ。
「……っ!」
テンライの耳にどさりと不吉な音が届いて目を向ければ、案の定スクルが腹を押さえて倒れ伏している。目に見える異常、震え、脂汗、きっと地面に擦り付けて隠す顔は苦悶に歪み、青ざめているはずだ。
「スーちゃん……」
「いい、いい……全部持ってけ! トーマを止めろ……なんならお前が先にどっちか殺せ! 早く仕留められる方!」
トーマが教皇を殺せば、邪神トーマと人類の全面対決が始まってしまう。ひいては人類の危機だ。そんな事態になるくらいならば、教皇か、トーマか、どちらかを騎士テンライが殺した方がまだいい。
スクルが吐き捨てた覚悟に応える勇気がテンライにないではない。ただ、どうしても、判断が遅れた。
だってそれは、テンライが貴人を殺す覚悟か、子供を殺す覚悟、加えて絶対的にスクルを殺す覚悟が必要なのだ。
戦場の迷いは時に大きく運命を狂わす。まず間違いなく悪い方へ転がる。
しかし、時には善良な者のために奇跡も起こる。
テンライの逡巡のうちに、事態は急転した。
テンライの邪魔のせいで逃げた教皇を追わんと一歩踏み出したトーマの先に、先ほどと同じ冥界の虚が開いたのだ。
エスネッサと同じように落とす気かとトーマの気が更に荒れるが、今度の穴は先ほどより遥かに大きい。直径五メートルの大穴は、トーマと教皇を対岸に隔てて間のアンデッドを根こそぎ冥府に落とした。
回り込んで教皇を殺しに行こうとすると、トーマを追いかけるように虚が広がり、どこまでもトーマの前に黒を横たわらせてくる。
只事ではない。教皇はまだ震えて無意味な結界を重ねていただけだ。こんなに自在に虚が作れるのなら、トーマはとっくに死んでいる。
「なんだ……?」
異様さを感じてトーマも穴を覗き込む。すると穴の底から声が響いた。
『待て少年。それを討つのはこちらのけじめだ』
相変わらず黒一色の、底も深さも分からぬ穴からするりと人影が登ってきた。虚の上に平然と浮いている。
初めて見る人物だった。
全体の印象として黒。血色の悪い辛気臭い男だ。銀糸の刺繍が入った黒いマント、フォーマルなベストとパンツの服装からは、随分偉そうなことだけは分かる。
何者だとて、この世界の未知のすべてはトーマにとって敵だ。穴の上空にいるため手出しできないが、包丁を突きつけて叫んだ。
「なんだお前! いきなり出てきて横取りか!」
『落ち着け。本当にお前が切る必要があるのかよく考えろ』
「エスくんの仇だ!」
『友の仇を自分の手で討つのが本当にお前のやることなのか? お前にはこの世界もこの世界の人間もどうでもいい塵芥なのだろう?』
「は? え?」
初めて会う人物がいきなりトーマの価値観を言い当てて面を食らう。ぱちぱちと瞬きをして見つめ返すトーマだが、やはりこんな男は知らない。
首を傾げるトーマに、さらに追い打ちをかける意味不明な情報が入ってきた。
『人間ども頭が高い! あれなるは我らが冥界の統括者、ギレェスネルザ・バルトロ閣下である』
空いたままの冥界の虚からさらに人が増えた。やはり黒ずくめの衣装を着た者が四人。先の男よりは飾りが少なく位が低いのだろうことが窺える。
『人間も邪神も等しく道を開けなさい』
「はあ?」
とにかく、この男は冥界の偉い奴で、長い名前らしい。トーマの理解はそんなものだ。なんでそんな部外者が突然割って入ってトーマの邪魔をするのか謎だった。
しかし、その名前にトーマ以外の人間はきっちり反応してビビっていた。
「め、冥王ギレー⁉」
テンライの驚愕。そして対岸にいる教皇が一番怯えている。ホラー映画に出るやられ役みたいな、驚きと恐怖の表情はまあ無様なものだ。少しの溜飲も下がったりしないが。
「なっ、なぜ、なぜだ……⁉ 冥王は死んだはずでは!」
『長らく冥界を空けていたが消滅してはおらんよ』
展開についていけないトーマを無視して勝手に冥王と教皇が会話を始めてしまった。
冥王は部外者じゃなく、教皇の関係者なのだろうか。だったらまとめて切っていいのでは? とトーマが腕組みで更に首を傾げる。
『さあ、私から奪った物を返してもらおう』
「ちがう、わたしでは、わたしは持っていない!」
「ああ、まあ、じっくり調べれば良いことだ」
いや、なんか揉め始めた。虚の対岸で教皇は冥王の従者に取り押さえられて黒々とした魔法で拘束されてしまう。
「冥王が不在だったのか……通りで……」
「どゆこと?」
何か納得した風の現地人ことテンライに問うと、彼は肩で息をしたまま答えてくれた。
「ここ四年ばかし冥界からわさわさアンデッドが湧いて大変だったんだよ。トーマもアンデッドロドン退治しただろ。あんなものまでアンデッド化してさ。おかげで退魔に長けた教会が調子こいちゃってこのザマってわけ。様子を見るに、自作自演だった可能性が高いね」
つまり、教皇らの企てで冥王を殺そうとして、冥界が機能不全になったことで地上にアンデッドがあふれて、それに対処できる教会の権威が上がっていた。しかし死んだと思われていた冥王がここに現れた。おそらく首謀者の教皇を断罪しに。というわけか。
トーマにとっては、冥王は共通の敵を持つ他人。ならば冥王は切っても切らんでもいいか?
などと考えていた。
状況把握に苦労するトーマを見て、瀕死のスクルはこの機を逃してはいけないと察した。
「冥王、その教皇はどうか殺さずにおいて欲しい。正規の地上の法で裁きたい」
トーマに教皇は殺させない。先程までは人類の存亡と秩序のためにはここで教皇かトーマのどちらかを殺すしかなかったが、冥王の殺害未遂という話が上がった今は明らかに教会に否を唱えられる。聖王道教会を悪者にできるならば、これはチャンスだ。
人の手で教皇を悪として裁けば、対災厄兵器ことトーマ・ベルニクスを今後も管理下に置いておける。教皇を冥界にくれて地上での結末を有耶無耶にするわけにはいかない。
打算まみれの嘆願は、冥界の従者にピシャリと嗜められた。
『閣下に意見をするなど身の程を弁えよ!』
『構わない』
『さすが閣下――寛容に過ぎます!』
何故か冥王ギレーはスクルの話に耳を傾けてくれるようだ。気が変わらないうちに続けて述べた。
「この度は地上の者が大罪を犯し、あまつさえ貴殿を陥れようなどと企てていたようで大変申し訳なく思う。二度とこのようなことがなきよう、まずはきちんと背景を調査して地上の法で裁き、教会体制も是正させていただく。その上で首謀者も下手人もそちらにお渡しする。如何だろうか」
『よかろう』
二つ返事で了承を得られて提案した側が動揺してしまう。なんだこの話の早さは。理解力が高過ぎて有難いにも程がある。従者の方が憤慨して慌てふためいているくらいだ。
『閣下! あまり地上の者を信用し過ぎます! 四年前のことをお忘れですか!』
『ああ、あー、それを言われると大変痛いところなのだが、私はこの者を信用できると考える』
『閣下ぁぁ』
なんとか事態が最善の方向で収まりそうなことに、スクルとテンライはそれはもう安堵して、両手を上げて喜びたいくらいだった。脳内だけで、現実には神妙にしていたが。
しかし、全く納得出来ていない人物が一人残っていた。
「俺はいやだ……」
急展開に置いてきぼりを食らっていたトーマだ。
ボソリと一言、小さな声だったのに、全員の意識が一気にトーマに引き寄せられる。
「俺はいやだ! 今すぐこいつを殺したい!」
駄々っ子のように自分のわがままを押し通そうとする、明確な殺意。邪神の本気だけは伝わってくるそれに、口を挟めば誰でも切られそうで息を呑む。
聞く耳を持ちそうもないトーマを諭したのは冥王ギレーだった。
『トーマ、冥界の者として一つだけ教えてやろう』
足下の虚のように、静かに淡々と語りかける。温度もなく、情もなく、ただただ事実を聞かせる。
『命は計れない。人数はある。しかし数で命は計れない。自分の命ひとつのためにあらゆる生物はいくらでも食らう。命に重さはない。失ったものに釣り合う重りはないんだ。お前が教皇を殺してもエスネッサは戻らない』
一旦は落ち着いたトーマが再沸騰したのは、明らかに最後の一言だった。トーマはともだちを殺した教皇を絶対に許さない。
「知った口ききやがって! こいつは生かしておけばまた俺を狙ってまた俺から奪う! だから殺す!」
『お前がやれば【教皇は邪神に殺された】、それだけになる。人間たちはこぞってお前から奪いにくる。お前はその度に殺す。その裁きに意味はあるか? 奪われないために殺す。その目的に沿うものか、今一度考えろ』
冥王の言葉に僅かに色が付く。それはトーマへの思いやりに聴こえた。
意外だったがテンライもそれに倣って優しくトーマを諭した。
「そうだぞトーマ。だから教皇はお前にも冥王にもやれない。ここで教皇だけ殺しても意味はないんだ。同じ思想の奴らをまとめて是正しなきゃならない。人は人の法で裁かなければ平穏は訪れない」
「でも、それじゃあ……俺はっ」
「落ち着けってトーマ! そんなの、エスネッサくんだって望まないよ。トーマを庇ってくれた意味をよく考えろ」
それは卑怯だ。そんなことを言われたら、トーマもこれ以上ごねにくい。
エスネッサは世間に興味はなさそうだったが、戦場を作って荒れ狂うトーマと敢えて付き合いたくもないだろう。エスネッサが守ってくれたトーマは、呑気に一緒にサンドイッチを食べて、オセロに興じるただのトーマだったのだから。
その暮らしをトーマも楽しんでいたからこそ割り切れない。
「なら、あんたが冥界の偉い奴なら!エスくん返せよ! エスくんは死んでない! 穴に落ちただけだ! 死んでないんだから返せ!」
「なるほど。それは一理あるな」
思ったより建設的な意見がトーマから出てきて、スクルとテンライはそれはアリでは? と
冥王に期待した。
『あー……あー……どうしよう……』
『閣下?!』
『地上の者の戯言に付き合う必要ございません!』
「戻せないですか冥王様。このままじゃマジでトーマが負の連鎖起こして冥界も死者で溢れ返ります」
『たしかに…』
『閣下! お気を確かに!』
「なんでもいいからエスくん戻せよ! 管理者なら管理しろ!」
『それもなぁ……私どうせこのままじゃあ管理者足り得ないしなー……分かった』
従者たちにワーワー止められながらも、腕を組んでうんうん悩む冥王は、思いの外あっさり答えを決めた。
『そうすればお前、教皇は騎士団に渡すね?』
「ええー」
「トーマ、ここは反骨精神出すとこじゃねーぞ」
「ふぁい…」
ようやくトーマが折れた。大人しく包丁をホルダーに仕舞う。
やっと、本当に落ち着いてくれた。
それを見た冥王は満足げに頷いて空中を浮いたままスクルのそばまでやってくる。その様子にテンライがスクルの元へ行き、動けない彼を支えて上半身だけでもと起こしてやった。
冥王はスクルの顔を覗き込んで静かに告げた。
『では契約者をイサナ・スクルとして契約を結ぶ。教皇および教皇と繋がる者を調査し、4年前に私の謀殺を企てた者たちを地上での裁きにかけること。その後其奴らを冥界に引き渡すこと。後続が出ることないよう関連組織を是正すること』
「完全に一騎士団員の権限を超えてるんだけど……実施責任者スーちゃんなのそれ?」
『ついでに邪神トーマに教皇を裁かせない目付け役をこなすこと。以上の要件を満たすまで、汝の魂は冥界の安息に眠ることを許さず。ギレェスネルザ・バルトロの銘において契約とする』
冥王ギレーが青白く光る指先をスクルの額に当てる。
「え。つまり、スーちゃん、死なない……?」
死にかけのスクルを抱えるテンライが冥王を伺い見ると、彼は鷹揚に頷いた。
『死なないのではない。死ねない』
「や、やったよスーちゃん! ラッキー!もってる! 早く承諾して! 息のあるうちに!」
「契約内容を承諾する。勇魚守操の銘において必ず契約を遂行する」
青白い顔をしたスクルが血反吐を吐きながらなんとかそう返事をすると、冥王ギレーがひとつ頷いて光る指を額からそっと離した。
その瞬間、スクルが燃えた。
「あ゙あ゙あ゙あああああああっ‼」
「わ—————ッッ⁉」
支えるテンライは全く熱を感じないのだが、全身紫色の炎をあげて燃え上がるスクルは、断末魔の叫びを上げて喉を掻きむしってめちゃくちゃ苦しんでいる。テンライも混乱して言語を失って半泣きだ。阿鼻叫喚である。
さすがのトーマもおびえて恐る恐る寄ってきた。
「な、な、なに、どうしたの、なにやったんだテメェ!」
『体の構成に契約魔法が混ざっていくので死ぬほど苦しむかもしれないが死にはしない。そういう契約だから』
「ちょ、ちょ、わああああん‼ スーちゃん! ひど!なにこれ‼ 見てらんない‼」
首筋に力いっぱい手刀を打ち込んで失神させたのは正しい判断だったとテンライは主張したい。
三分ほどで炎はおさまった。その間痛みだか苦しみだかで意識を戻すたびに強制ダウンさせること二回。とんだ地獄のクッキングである。
そして炎がおさまったところでスクルの状態が安定したようには全く見えない。血の気はなく、血反吐もお変わりない。脈も呼吸も消えかけだ。
「ぜ、全然大丈夫じゃない……」
『死なないだけだ』
「ぜんっぜん大丈夫じゃないー!」
テンライは慌てて警笛を吹く。ピーピーと決まったリズムで吹くのは命の危機にある合図だ。巡回の騎士が気付いてすぐに医者と駆け付けてくれるだろう。
冥王の方は仕事終えたとばかりに配下たちに向き直っている。
『よし。ではみんな。後のことは任せた』
『閣下! おやめください!』
『閣下!』
配下たちの制止を聞かず、冥王を貫くように紫の雷が落ちた。足元の虚まで貫く太い稲妻が轟音を轟かせて大気を震わせる。地上の者は突然のことに目が点だ。
視界を焼く一瞬の光が過ぎ去った後その場に冥王の姿はなく、代わりに見慣れた小柄な少年がいた。
トレードマークのとんがり帽子まで、そのまま。虚に落ちたときと全く変わらない。
なのに平然と、冥王ギレーと同じように空中を歩いて虚を渡り、トーマの目の前に降り立ち、いつものように気だるげにトーマを見上げた。
「やあ。ただいまトーマ」
「エスくん‼」
思わずトーマがエスネッサに抱きついたのは、この後かなり揶揄われることになる。
少年たちの感動的な再会、などと呑気に眺めていられるわけがない。目の前で起こったことが理解しきれずにテンライは混乱しきりだ。
「な、なんだあれ……」
震えるテンライを差し置いて、残された冥界の使者たちは何とか立ち直ろうとしている。
『ああ閣下……なんという御姿に……』
『閣下……おいたわしや……』
『嘆いている暇があるか! 我々は後を任されたのだ、冥界へ戻るぞ! 閣下不在の間冥界の秩序は我らが守る!』
『は! はい!』
「ま、待って! 今の、あれ、やっぱつまりエスネッサくんて――」
彼らはテンライなどに一切関心がない。
テンライの問いは最後まで言葉にならず、突如現れた冥界の一段は勝手に虚に入って消えてしまった。広がった虚もあっという間に閉じて消えた。後には荒れた墓地が残るばかりだ。
しかしトーマだけはご機嫌だった。
「あの野郎ちゃんと仕事したな! エスくん冥界ってどんなんだった?」
「え、えええー……トーマ、お前……」
「え、なに?」
「僕がどうなったと思ってんの?」
「穴に落ちたけど地底人の偉いやつと入れ替わりで帰ってきたんでしょ?」
あっけらかんと言い放つトーマに、エスネッサもテンライも固まった。先に復活したエスネッサがトーマの言葉を吟味して出した結論がこれだ。
「んんんん? まあ、概ね、あってる?」
「いやいやいやいや、トーマ全然分かってないよ! エスネッサくん、いやエスネッサくん? て呼ぶの? なんなの君?」
「テンちゃんさん……まあ、普通分かるよねぇ。トーマは、普通じゃないねぇ……」
「何言ってんのさ。へんなエスくん。いつも変か」
「邪神に言われたくない」
遠くからバタバタと応援の騎士たちが駆けつけて来るのが聞こえた。
結局トーマたちも教皇も全員捕まって事情聴取を受けることになった。
この中で一番証言能力がなさそう、という失礼な理由でトーマはスクルの付き添いとして治療院に行かせて後日聞き取り。テンライとエスネッサは出頭となった。
聞き取りが終わったテンライとエスネッサが騎士団本部の廊下の長椅子で力尽きる。すっかり陽が落ちていた。とんだ一日だ。
「そういやスーさんどうなった?」
「おかげさまで死んではないよ。治療院にぶち込まれた」
「そりゃあよかった。スーさんいないと、このファミリーやばいでしょ。無理だよ。誰がまとめられんの。トーマと……僕もいるし」
「スーちゃんのために契約してくれたんだよね。マジで死ぬ寸前だったんでしょ?」
「うん。激ヤバのヤバヤバだった。あの人の根性どうなってんの。なんで魂地上に残ってんのか分かんない」
あのとき出来る最善が、とりあえず契約魔法という強制力で死なないようにする、という乱暴な方法だった。治癒に長けたものがいないのだから仕方ない。
あとは治療院で腕の良い医師に当たり、回復することを願うばかりだ。
テンライは改めてエスネッサに深く頭を下げた。
「本当にありがとう。マジでありがとう。俺一生エスネッサくんに頭上がらないわ」
「マジか。これからはテンちゃんさんにたかって生きれる……」
「きみ変わってないなぁ」
「僕はエスネッサだからね。記憶喪失は治った、ただの魔法使い」
珍しくというか、初めてエスネッサの穏やかな笑みを見てしまってなんだかこそばゆい。
過去の記憶がなく、自己を確立できないまま巨大な魔力を持て余して生きる日々が終わったのだ。自分の正体が何者であったとしても安堵の方が大きいだろう。
元がなんであれ、本人がエスネッサだと主張するからにはそう扱うのが正しいに違いない。
「うちのファミリー改めてやばいな〜。スーちゃんどうやって上丸め込んでくれるのかな〜」
「いやぁ……スーさんにはお世話になります。へへ……」
二人して今後のことはスクルに丸投げすることにした。
半死人が無事生還する期待も込めて。