特務班結成のはなし
騎士団本部は宮廷内にある。
五年前に体を壊してから人事総務に移籍していたスクルの職場は本部の事務室で、そこに団長秘書のセレーナ女史が来るのはおかしくない。いつものことだ。
しかし今スクルに渡された紙は不穏だった。季節外れの辞令である。
「詳しい説明はこの後団長室で行います。五分後にテンライ・メイドウを連れて来てください」
「了解です」
しかも自分一人ではなく、テンライも指名されているのがきな臭すぎる。
幼馴染のテンライは、五年前に王都を半壊させた災厄の巨獣を討ち払った、人類最強の騎士だ。そんなものと揃って辞令が下るなど相当な厄ネタに違いない。それこそ、神の試練に匹敵する類の。
スクルは辞令より先に一緒に渡された封筒に手を付けて中の資料を大急ぎで流し読みしながら事務室を出た。午前の光が目に痛い。胸ポケットからサングラスを取り出して、書類に向き直る。視線は手元の紙束に釘付けだが、足は迷いなく訓練場へ。一分で到着し、目立つ金髪を探すと向こうの方が先にスクルに気付いて近づいて来た。
「スーちゃんが訓練場来るなんてめずっこい。久々に組手でもする?」
「あ? 後輩どもの前で事務方に土つけられてぇのかテメェは」
「加減を知らなすぎでしょ」
実戦ならいざ知らず、単純な組手ならば王国一の騎士も未だ敵ではないと完全に上から見下してくるスクルの気の強さと来たらすごい。何がすごいって事実なのがすごい。今となってはテンライがスクルと戦ったら魔力アリだと即死、魔力ナシでもスクル相手だと下手なところに打ち込んだら医療魔術器の不具合起こして半殺しである。テンライは絶対に本気を出せないが、スクルは手加減なし宣言をしている以上軽くあしらわせてもくれない。
おかしい。本当に組手をするとしたら手加減する側のテンライがどうあっても無様に負ける。
しかし幸いにもスクルの要件は訓練ではなかった。
「ツラ貸せ」
「いいけど」
テンライはひょいと柵を飛び越えて廊下に降り立ち、訓練場を振り返って叫ぶ。
「ちょっと出てくるから皆時間まで訓練続けとけー!」
はいっ! とキレの良い元気な返事が響いた。その間も待たずにスクルは進んでしまっている。慌てて小走りに追いかければ追い付く速度に調整されてはいるのだが。
「で、どこ行くの?」
「団長室」
「俺たちを? 揃ってお呼び出し?」
「俺もまだなんも知らん」
先程のスクルと同様にテンライも嫌な予感に頬を引き攣らせた。
「ま、まさか第二の災厄、とか言わないよね……?」
「違うが似たようなもんだな」
「んー?」
「お前がひと月前に捕まえた大量殺人犯」
「あ、あー! あー……そっか、あの子ね。なるほど」
五ヶ月前、やばい儀式を成功させた邪教徒一六三名が虐殺された。当然、指名手配を受けた容疑者の少年だったが、追手も悉く返り討ちにして逃亡し続けた。少年とその連れを先月やっと捕まえて留置所送りにしたのはテンライである。
というか、その殺人犯の少年がとんだ厄ネタでテンライしか対処できないと白羽の矢が立ったのだ。その後、審判で相当揉めていることは噂に聞いていたが、一ヶ月かけて判決が出たらしい。
「対応決まったのか……そっか……そうかー……」
声もしょぼくれて金髪頭がどんどん項垂れていく。
陰気なテンライは心底鬱陶しい。スクルは舌打ちと共に睨みつけた。
「お前だけの呼び出しならクソ仕事だったろうが、俺も呼び出されてんなら、どんな結論出たのか分かんねーよ」
「ああ、なるほど。確かに。たしかに! そうだね! 良かったぁ、さすがに子供斬れとか言われるのは気が重すぎる」
分かりやすく憂鬱な空気を出されるのも面倒くさいが、楽観的にヘラヘラされるのも苛立たしい。とにかく存在がうるさい幼馴染を振り切る勢いでスクルは足を早めた。
「まだ何も分からん。処分かも、手足斬れとかかも分からん。勝手な期待すんなばーか」
「たしかに〜! さいあくだ〜!」
頭を抱えて天を仰ぐ。無闇に巨大な力を持つもんじゃない。代理も立たずに厄介ごとが回されるばかりだ。
五分かからず団長室に着き、扉をノック。入れとの応えを受けてドアを開いた。
「スクル・イサナ並びにテンライ・メイドウ入ります!」
入室し、一礼。気を付けの姿勢をとる一連の動作が完全に染み付いている。
「来たな。楽にしたまえ」
執務机にはガット団長が、傍らにはセレーナが立ち二人を迎えた。多忙なガットは雑談を挟むこともなく本題に入った。
「お前たちには現在の所属を離れて二人班で特別任務に当たってもらう」
「え、いいんですか?」
隣で鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているテンライを見て、そういえば辞令を詳しく見ていない上に伝えるの忘れていたことに気付いたスクルだった。
テンライは華々しい近衛第ニ隊長だったが、本人は嫌でしょうがなかったのだ。本当は第一隊になるはずがごねまくって第二隊になったくらいだ。ついに肩肘張るばかりの王宮勤めから脱出できる。しかも子供の頃から家族同然のスクルと特別任務。人間関係のストレスから一気に解放されるのだ。スクルが現場を離れたので二度とないと思っていた機会にラッキーとしか言いようがない。
テンライの声が弾みきっているのをスクルはしらーっと眺めていた。
こいつ、さっきまで厄ネタだと分かっていたはずなのに色だけじゃなくて頭の中までヒヨコレベルか?と。
そんな彼らを気にも留めずにセレーナは淡々と話を進めた。
「【対象a】の保護監視任務、期間は無期限です」
「先日捕えた例の少年ですか?」
「そうだ。異界の破壊神を拝する邪教徒たちが邪神召喚の儀を行い、現れたものだ」
「邪神、トーマ・ベルニクスと名乗る少年ですが、調べたところ確かにこの世界には存在し得ない材質の武器を持ち、解析不明の巨大エネルギーを内包していることが黒魔術協会の協力で分かっています」
セレーナの説明にガットは両手を上げて肩をすくめた。
「要するに、なんも分からんのだ。封印の施しようもなかった。おまけに凄まじく人類への敵意が高い」
一ヶ月かけて何の対抗策もないとは。ただの災害である。
似たようなレベルの化け物はスクルの隣にいるが、こいつは人類への敵意はないので容認されている。だが件の子供は放置できまい。
「災厄級危険因子に認定し、貴族院ではすぐさま処分という意見が強かったのですが、審議結果が出る前に勝手に処刑や暗殺を試みた一派の尽くが返り討ちに遭い、関係は最悪の状態です」
「あっちゃー……せっかく相手が大人しく捕まってるのに。碌なことしないよなぁお偉いさんは……」
「テンライ・メイドウに斬らせろとの意見もありましたが、団長がこれを突っぱねて少年およびその保護者と直接交渉に成功し、少年は騎士団預かりになりました」
なぜ異世界から単独で呼ばれたストレンジャーに保護者などいるのか。疑問に思ったスクルは再び資料を捲って【保護者】とやらの情報を探る。あった。
——スレイ・ベルニクス。無職、男、年齢不明。邪神召喚の儀式の生贄だったが、儀式後も生存して【対象a】を保護。以降行動を共にする。ひと月前【対象a】と共に王国で確保。団長との交渉の際、四百年前に人魚の肉を食べた不老不死者と主張。宮廷魔術士の解析により、妥当と判断。以降【対象b】として極秘管理、観察。
とんでもない生贄を媒体に怪しげな儀式をすると異界の門もうっかり開いて邪神を呼んだりするようだ。スクルは引き攣りそうになる頬をこらえるので精いっぱいだった。
いま資料に目を通しているスクルに気付いたガットが簡単に説明を入れてくれた。
「交渉の折、スレイは王宮で保護し、不老長寿の研究に協力する代わりにトーマの命と生活の保証を嘆願。トーマ少年は騎士団監視の下、城下町で暮らすこととした。少年は『スレイの安全を保証するなら大人しく監視生活をしてもいい。ただし非人道的な実験なんてしようものなら殺す。偉い奴から順に皆殺しにする。定期的にチェックにいくから震えろ』と捨て台詞を吐いて了承した」
「全然納得してないじゃないですか」
聞けば聞くほど酷い。最悪一歩手前の状態で丸投げされた任務としか思えない。他に手も無かったのだろうが。
政治判断が絡むとどうしても騎士団の発言力は低く、武力が必要な案件には尻拭いがくるのだからやってられない。
「それで、その危険なクソガキのストッパーとして俺たちが監視員なんですね」
「もちろん、我々がテンライという重要な駒を使ってまで少年を確保するメリットはある」
「災厄の巨獣」
「その通り。元々、神の試練などという混沌の時代を打破するのが目的の邪神召喚の儀式だったそうだ。実際にテンライしかストッパーにならないほどの戦力を屠るのはあまりにも惜しい」
ガットは上層部がごたついて手をこまねいているところに首突っ込んで邪神という戦力が欲しかったらしい。その判断は悪くはない。現時点で使える可能性が低いとしても、力は力だ。
理解した、とスクルもテンライも頷いた。
「諸刃の剣だなぁ」
「諸刃でもなんでもいい」
「流石、あの場にいた君らは話が早い。小心者の貴族院とは訳が違うな」
話は通ったと見るやガットはカラカラと笑う。
「いざというときに使える程度にコミュニケーションを取りつつ、トーマ少年の面倒を見てやれ」
「はっ」
「では細かい説明をしますので別室へ」
ガット団長からの話は以上らしい。セレーナが二人の退室を促すように扉へ向かった。
「ああそうそう。お前らは明日付で零番隊特務班だ。班長はスクル、副班長テンライ」
ひらひらと手を振られて大雑把に下された辞令にテンライだけが諸手を挙げて喜んだ。
「やった〜! 俺スーちゃんの下でラクできるー! よろしくスーちゃん!」
「雑務全部お前に振ろ」
「クソ上司じゃん」
翌日。朝から早速トーマ・ベルニクスを引き取りに行くことになった。
寝泊まりしているという王宮の一室に迎えに行ったが不在。そこにいたのはスレイ・ベルニクスだけだった。
見た感じ何のオーラも覇気もない、学校の先生のような雰囲気の真面目そうな四十前後の男性だが、こんなのが四百年も生きてるなんて誰が思うだろうか。
「ごめんね、トーマときたら拗ねまくって早朝から脱走してしまって」
そう言って開けっぱなしの窓を指す。そこから脱走したと言うのか。五階なのだが。
「自分でも納得して決めたはずなのに。離れて知らない人と暮らすのがやっぱり不安なんだと思います。仲良くしてやってください」
「はあ…」
見た目のみならず、言ってることも普通の親みたいだった。
たぶん迷子になって戻れなくなってると思う、などと言われてスクルたちは仕方なくあちこち聞き込みしながら広い城内で子供探しをすることになった。
二人で手分けして三十分もかけ、ようやくスクルが少年を見つけたとき彼は王宮庭園の噴水の前に立ち、何故かコインを投げ入れて手を合わせていた。行動の意味がわからない。
謎のお祈りタイムが終わったらしいところでスクルは声をかけた。
「トーマ・ベルニクスだな」
「………。」
十五かそこらの子供が荒んだ目と殺気バリバリで見上げてくる。顔立ちについてはまともな感想が浮かばない。とにかく敵意が強すぎて抱く印象は野生動物を超えて魔物のそれだ。それも縄張りを侵されてめちゃくちゃ気が立ってる類の。
平服の腰に下げた短刀らしきものの凶々しさときたら、魔道に精通してるわけでもいないのに怖気が走る。五年前、人類では太刀打ちできない怪物と対峙した感覚によく似ていて、スクルは気が遠くなりかけた。
こんなのとこれから生活するのだ。まともな神経ではやっていられない。
ここで少年と渡り合えるまともじゃない幼馴染が遅れて合流してきた。テンライはスクルの背後で足を止め、気付かれないようにいつでも剣を抜ける体勢になっている。
それを感じ取ったらスクルは逆に開き直ってしまった。これはだめだ。こんなんではどうにもならん、と危機を訴えるあらゆる自己防衛の感覚を無視して小型の怪物に向き直った。
「話は聞いていると思うが俺たちが今後お前を預かることになった。俺はスクル。こいつはテンライ……覚えてるか?」
「やあ」
「……?」
スクルの後ろからひょこりとテンライが顔をだす。
軽い調子で片手を上げるキラキラしいイケメンに面を食らった少年は、しばしその顔を見て記憶を辿っているらしかった。そのうちみるみる目を見開いて、急に飛び退って荒ぶった。
「ア゙ー! おまえっ! お前ェー!」
「あはは、元気そうだな〜」
「気安く話してくんな!」
「めちゃくちゃ嫌われてんじゃねーかお前」
「うーん、不本意」
「あの時はちょっと驚いて遅れを取ったけどな! お前なんか斬ろうと思えば真っ二つだからな!」
「次はないから安心しなー? 俺もう保護する側の任務だし」
「何が保護だ! 足元見やがって! 俺たちにおかしなマネしたらぶった斬るからな!」
警戒心の塊のトーマが怪しすぎる腰の獲物を抜くと、驚くことに普通の包丁だった。何故見た目が包丁なのか分からないが、他に類を見ない魔剣。むしろそれを超えて神器。直視するのも避けたい代物だが、得物を突きつけられたとて子供の癇癪にビビってなどいられない。
スクルが容易くトーマとの一歩を埋めるものだから、トーマの方が驚いてしまった。これまで遭遇した人間は包丁を見ると大体怯えて固まったのだからさもありなん。
「ウルセー、がたがた喚くなクソガキ!」
そして容赦のないげんこつがトーマの脳天に落ちた。
「いっってぇ!!」
「スーちゃん…」
スクルの命知らずな言動に呆れるテンライと、目を白黒させるトーマ。
スクルはトーマが動揺から覚めるのを一切待たずに説教を始めた。
「お前も自分の頭で考えた落とし所だろうが。逃亡生活にケリつけてスレイ・ベルニクスと自分の両方、一旦落ち着いた暮らしすることにしたんだろ」
「う…」
冷静に正論を、それもトーマ自身が決めたことだろうと指摘されてはぐうの音もでない。
攻撃的先制防御がトーマの信条とはいえ、いきなり刃を向けて決め事を反故にしようとしたのはまずかった、かもしれないとチラリと思う。そんな風に考える時点で雰囲気に流されて、スクルの話をまともに聞くことができている。しかし初対面の雑魚人間にぐだぐだ説教されるのは心底面白くない。
トーマはぶすくれていた。反抗期の子供そのものなのだが、続くスクルの言葉はお説教ではなかった。
「悪くねぇ選択だ。お前がそのつもりでいるなら、こっちも約束は守る。だったらお前がすべきことはなんだ」
「は? え?」
急に褒められたような気がして少年がポカンと固まる。さっきから予想外のことばかりで頭真っ白のトーマに、スクルは苛立ちを隠さずにわざとらしく言葉を区切って、強い語気で問う。額を小突くおまけ付きだ。
「これからお前の面倒見る、初対面の相手に、することはなんだ」
「え? え、ええっと……はじめまして……王禍冬馬です……」
頭が空っぽのまま、ひさしぶりに昔の感覚でぽろっと受け答えが出てきた。普通の、中学生だった頃の、トーマのように。
「おう。……オーマガトーマ?」
「あ、違うわ。今のなし。トーマ・ベルニクスだよ。ってちげーよ! なんだよもう!」
聞き慣れない名前を答えられたが、とりあえずはトーマと会話が可能になったことにスクルは満足して頷いた。隣でテンライは内心ヒヤヒヤして眺めていたのだが。
上手いこと流されてくれたが、トーマの反感を買っていたらスクルなど簡単に真っ二つなのだ。そのときは割って入るつもりで神経を尖らせてはいたが、とりあえず大丈夫かとテンライもやっと肩の力を抜いた。
「よしトーマ。俺たちはこれから共同生活をするチームだ」
「はー?」
「チームは協力するもんだ。お前がチームメイトでいる限り、俺たちはお前を保護する。衣食住保証するし小遣いもやるし体も張る」
「はぁ〜? うそくさ」
トーマの年相応の顔は一瞬のことで、またグレた対応に戻ってしまった。
まあ一朝一夕で態度の軟化など期待していない。とりあえずはトーマ自身が納得して騎士団の保護下に入れば良い。
「一緒に暮らすのにいちいちポジション確認して敵意測られてたら鬱陶しくて仕方ねえ。初めに言っておく。俺たちは互いに利益があるから協力できる」
「そうやって利用しようとしやがる」
「そうだ。お前はクソガキだが強さは折り紙付きだ。いざって時には力を貸せ。その分お前の日常は俺らが守る」
「………。」
お為ごかしではなく、正面から堂々とお互いに利用し合う関係だと示されると否定しづらい。
トーマは考える。こいつらが言ってることが嘘でも本当でも結局同じかな、と。
どうせ裏で何を考えていようとトーマの方が強いのだ。
寝首をかこうとする連中は全部返り討ちにしてきたし、都合よくトーマを利用しようとする輩は気付き次第組織ごと皆殺しにしてきた。テンライは今まで遭遇してきた人類と比べて明らかに強いので厄介だが、それを分かった今なら油断もない。殺そうと思えば殺せるだろう。
ただ、今までと違うのは、雑魚が怯えるのでもなく、トーマの機嫌をうかがって懐柔しようとするのではなく、トーマに匹敵する戦力を備えて、初対面から対等に対話をしてきた、という点だ。懇願でも、非難でも、交渉でもなく、立ち位置が違うなりにトーマを認めて話をして、聞いてくれている。
「スーちゃん、子供相手にキツくない? 子供は大人が守るもの〜とか言えないの?」
「どうせこっちを信用してねえんならこの方が分かりやすい」
「思春期ならそんなもんなのかなぁ」
しかもトーマを【邪神】であると同時にさらっと【子供】扱いしてくる。トーマが彼らを頭から害悪だと決めかかって攻撃的な態度を取ったら、げんこつと説教をかまされたのはそういうことだろう。
「まあ、俺たちの班長はこんな感じの人だよ。これからよろしく、トーマ」
「俺たちの、班?」
「そうだよ。俺とトーマは班員、スーちゃんが班長! 騎士団零番隊特務班、三人チームだ」
トーマにとって、この二人は嫌いではないと思う。今のところ。
だがそれは個人の話で、騎士団は別だ。
「俺は騎士団なんか入んねーよ!」
「お前じゃ入隊資格に歳と身長がたりねぇわ」
「でも同じ班だ! そーゆーこと!」
トーマの主張をあっさり躱して大人二人は勝手に話はついたとばかりに動き出した。
「じゃーホームでも見に行くかぁ」
「俺たちもまだ見てないんだよね、たのしみ」
「ついて来いトーマぁ、置いてくぞ」
「わぁかったよ! もう!」
こうしてトーマはこの世界に来て初めて帰る家を持ったのだ。