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RAYTEAR 出来損ない魔導士と廃墟の王国  作者: もふ。
プロローグ
1/3

期待の新星









   それは


   叶えられなかった


   小さな願いの物語 ―










○ プロローグ

○ 期待の新星




 ―


 わたしはなぜここにいるのか?


 ―


 眼前に広がるのは宙のように底知れない闇。

 星の瞬きはない。


 手のひらを見る。

 そこにあるのは、タンパク質を中心に複雑に構成された有機物のかたまり。

 それがいわゆる「ヒトの手」のかたちをしている。


 わたしはだれ?


 誰に訊くでもない、つまらない自問をしたのは。


 それはシナプスを介して電気信号の情報を非常に不確定な形で「記録」するニューロンネットワークが導き出した、答えがみつかりそうもない疑問。


 わたしは ―

 わたしは ―


 不意に意識が反響する。


 もう一人の「じぶん」が応える。


 暗闇に手を伸ばす。


 貴方は ―

 私は ―


 …

 … ん!


 …しゅにん!


「主任ってば!」


 …


「んにゃ?」


 一瞬前の事が遠く深淵に吸い込まれたように消え失せる。

 霞みかかった「スクリーン」に映し出されたヒトのかたち。


「主任っ!お昼休みはとっくに終わってますよっ!」

「…」


 お昼休み…はて。それはいったい…


「え?」


 霞みが一気に消し飛ぶ。


「あ」

「あ、じゃないですよ。もー、また寝坊ですかー?」


 じぶんを霞みから救い出したそのヒトガタは、ふさふさの尻尾を振り回しながら凄みをきかせる。


「院長が呼んでますよ!ほら、ディーテも一緒に行ってあげますから!」


 ディーテ。

 自らの名を口に出したその少女は、とてもよく知っている。

 魔導科学研究院の期待の新星、若干16歳の若さで上級魔導士を手に入れた天才。


 ― そして、落ちこぼれのじぶんの部下。


 オオカミ族の特徴的なふわふわのしっぽをぱたぱたと。

 真っ青な瞳に、透き通る金色のショート。

 怒り顔でも愛らしい犬歯を覗かせ、精一杯の威嚇モードで自己主張。


「カワイイが過ぎるにゃ」

「なぁに言ってんですかっ!早く行かないとまたお仕置きされますよ!」

「あー…めんどいにゃー…」


 しぶしぶソファーから身を起こし、めいっぱい伸びをする。

 だだっ広い食堂の一角。

 直前の記憶に留めていた「そこ」とは違い、今は水を打ったように静まり返っている。


 ― 終わったな


 はい。お仕置き確定。

 まーた、あのガンコじじぃのお説教6時間コース。


 なお残業代は出ない模様。


「ねこだもん」


 誰に届くでもない、つまらない自己主張をしたのは。


「…はいはい。ディーテも付き合ってくれるかにゃ?」


 魔導科学研究院の期待の新星、若干16歳の若さで上級魔導士を手に入れた天才。


 ― だった、今は18歳の落ちこぼれ。


 どうして落ちこぼれ?

 まぁ、あとでわかるにゃ。


 細かいことは気にしない。


 じぶんはそうやって、変わらぬ日常をやり過ごす。

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