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099 捜索依頼の後日談①

 田中マリさん(旧姓に戻ったのだ)の銀行口座に藤原氏から五億円が振り込まれたそうだ。

 それを聞いた僕は、あのとき撮影した映像データを警察に提出して、あとの判断を司法に(ゆだ)ねることにした。逮捕するのか、起訴するのかといった法律判断はよく分からないからね。

 ちなみに藤原氏とは、財産分与の五億円によって傷害行為を秘密にするなんて約束…実は全くしていないよ。藤原氏はそのつもりだったのかもしれないけどね、ざまぁ。


 で、結局は警察から事情聴取されたマリさんの証言もあって、藤原氏は傷害罪で逮捕されたらしい。このあと不起訴や起訴猶予になる可能性もあるけど、検察が起訴しない場合は検察審査会に不服を申し立てるつもりだよ。

 まぁ、証拠は揃ってるし、おそらく起訴されることになるだろうけどね。


 一つだけ残念なのが、マリさんが味わった暴力に対する報復ができなかったことだ。親友の嵯峨野(さがの)マイさんのような治癒の魔女があの場にいたら、遠慮なく藤原氏を叩きのめしてやったのにな。

 なにしろどれだけ暴力を振るっても、治癒魔法で無かったことにできるからね。ほんと残念…。


 まぁ、マリさん自身は離婚できたこと、それ自体を喜んでいて、他のことはどうでも良さそうだったけどね。

 あと、藤原氏は自分自身で『資産家の一族だ』って言ってたけど、今回の逮捕によって実家からは縁を切られたってさ。実はマスコミのフリをして、あの男の親御さんに突撃取材したんだよね。美女先輩と二人で…。んで、その場でご両親から直接聞いたのだ。

 いや、実家の財力を使ってマリさんや僕たちに報復するおそれがあったからね。もちろん逆恨みになるんだけど…。

 ご両親が善良で理性的な方たちで良かったよ。僕を襲ってきた場合は返り討ちにするだけなんだけど、マリさんや美女先輩が襲われると困るからね。


 で、会社が休日の今日はいつものファミレスでBEATの集会です。いや、この活動のための事務所を持っていないし、誰かの家に集合するよりも気を遣わなくて済むからね。

 リーダーである美女先輩の発言から会議が始まった。

「みんな今回の案件も納得のいく結果になったわ。ありがとう」

「全員がそれぞれの技量を発揮できたのは良かったよね」

「そうそう、いつもは私の出番って無いんだけど、今回は魔法を使うことができて良かったよ」

 ユカリさん(透視の魔女)の言葉にマユミさん(認識阻害の魔女)が返答した。認識阻害って単なる捜索系の依頼では使わないもんね。


 それにしても『認識阻害』って結構謎な魔法なんだよな。

 最初は『精神系』の魔法で、視界に入っているのに脳が認識できないという魔法だと思っていたんだけど、その解釈だと辻褄(つじつま)が合わないのだ。

 例えばAがBを認識できないというケースでは、精神系の魔法であるならAに魔法をかける必要がある。でも実際にはBに対して魔法をかけているんだよね。

 しかも魔法阻害装置(ジャマー)の影響範囲内に入っても認識阻害の効果が継続しているってことは、Bを見た瞬間、遅延発動型でAに対して認識阻害魔法が自動的に発動されるって解釈もおかしくなる。だって魔法阻害装置(ジャマー)が動いているわけだから…。

 魔法を物理学の知識で解釈しようとすること自体が不毛と言えば不毛なんだけど、僕としては次元が少しだけずれているんじゃないかと思っている。僕たちがいる通常空間から片足を亜空間に突っ込んでいるって解釈でも良い。

 つまり、『次元・空間系』の魔法って考えると辻褄(つじつま)が合うんだよなぁ。

 使い手であるマユミさん本人は『精神系』って言ってるけどね。まぁ余談だけど…。


「ひとつ重大な話をします」

 美女先輩が深刻そうな顔で話し始めた。え?何?

 固唾(かたず)を呑んで静聴する姿勢になった僕たち。

「今回の捜索依頼を出した藤原氏の元奥さんの田中マリさんですが、強く断ったにもかかわらず、報酬を振り込んできました」

 マリさんが美女先輩の銀行口座番号を知っているのは、交通費などの実費だけは振り込んでもらうため、事前に口座情報を教えておいたから。

 ざっくりとした計算で、交通費と寸志を合わせて五万円を振り込んでもらう予定だったのだ。


「報酬っていくらだったの?」

 僕の質問に対する美女先輩の答えを聞いた僕たち(美女先輩以外)は、全員が絶句ですよ。

「一億円を振り込んできたのよ。正確には一億五万円だけどね」

 報酬一億円と実費五万円ってことか。って、もはや五万円が誤差みたいだよ。

「それは困ったわね。おそらく返そうとしても受け取らないでしょうね」

 ユカリさんの発言にマユミさんや僕も同意した。

「このお金をどう処理するのかが今日の議題です。一人ずつヒアリングしていきたいと思います。まずはユカリさん」

「四人で山分けするよりは、今後の活動資金としてプールしておいたら良いんじゃないかしら。私たちは無償奉仕(ボランティア)なんだもの。お金が必要になる場面が今後あるかもしれないわ」

 さすがはサブリーダーのユカリさんだ。感心した(そのあとのセリフを聞くまでは…)。

「うちの銀行の定期預金はいかがですか?投資信託でも良いよ」

 …って営業かよ。さすがは銀行員…。


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