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098 捜索依頼④

「お、お前は誰だ?いや待て、マリの捜索依頼をしたときに喫茶店にいた女か…。ん?ということはさっきの探偵の仲間ってことか。おい、不法侵入で警察を呼ぶぞ」

 憶えていてもらえたようで何よりだよ。

「うん、警察を呼んでも良いよ。と言うより、この状況を警察に見てもらったほうが良いよね。さぁ、はたして警察に捕まるのはどっちだろうね?」

「おい、俺を強請(ゆす)るつもりか?いや、待て。その手に持っているのは何だ?ま、まさか…」

「そうだよ。ずっとビデオカメラで撮影していたんだよね。認識阻害の魔法を使ってたから気付かなかっただろうけど、応接室での暴力から始まって、この部屋での傷害行為まで全部撮影済みだよ。これであなたは傷害罪で刑務所行きになって、マリさんとの離婚も問題なくできるだろうね」


 顔面蒼白になっていても、まだ藤原氏は往生際悪く虚勢を張り続けている。どうやら金持ちらしく金銭授受で解決したいらしい。

「か、金でそのデータを買ってやるよ。一千万円でどうだ?お前らのような探偵風情(ふぜい)には払い過ぎだと思うが、なかなかの大金だろう?」

(けた)が違い過ぎるね」

「何ぃ?くっ、くそっ、分かったよ。一億円だ。それで文句なかろう」

「話にならないね。少なくとも百億円は払ってもらわないと…」

「馬鹿なっ!そんな金があるわけないだろうが!」

「だったらこの映像データは警察に提出するよ。刑務所の中でしっかりと反省することだね」

 てか、金額の大小じゃないんだよ。

 ここでマリさんが話に入ってきた。左手で右手の人差し指の先を握っていて、痛そうに顔を(ゆが)めている。

「離婚届に署名捺印してもらえるなら、私としてはそれで十分です」

 はぁ?いやいや、欲が無さすぎでしょ。少なくとも財産分与と、今までの暴力に対する報復として多少は痛めつけるくらいはしないと…。


 藤原氏が勝ち誇ったような顔になっていて、めっちゃイラっとした。

「お前ら探偵は無関係ってことだな。あくまでも夫婦間の問題ってことだ。ああ、離婚届くらいすぐに書いてやるよ」

 この場を逃れるための口先だけのセリフだろう、きっと。僕がいなくなったら今まで通りDVが再開されるに違いない。いや、今まで以上に酷くなるかも…。

「とりあえず離婚届はすでに準備しているから、さっさと署名捺印してくれるかな?」

 僕が離婚届の用紙を差し出すと、まさかすでに用意されているとは思わなかったのか、藤原氏の顔が少し引きつっていたよ。

 応接室に戻った藤原夫妻と僕の三人は、電話で呼び出した美女先輩も(まじ)えて四人で協議を開始した。てか、美女先輩は家のすぐ外で待機していたからね。


「財産分与ですが、マリさんへは五億円を支払うということで構いませんね?」

 美女先輩が読心魔法で藤原家の資産状況を把握し、無理のない額を提示したみたいだ。

「馬鹿な!うちの資産のほとんどは俺が祖父から貰った遺産だぞ。マリには関係ねぇんだよ」

 ここに僕が口を挟んだ。

「じゃあ、今からさっきの映像データを警察に持っていこうかな」

 はっきり言って脅迫です。いや、相手は犯罪者だからね。情けは無用だよ。

 さらにテーブルに置いた藤原氏の右手の人差し指の爪に対して重力子攻撃(グラビトンアタック)を発動した。マリさんに行った先程の傷害行為に対する報復です。

 爪が一瞬で収縮し、生爪が()がれた状態になったよ。多分、激痛が襲っていることだろう。

(いて)ぇ!な、なぜ爪が?くそっ、お前らの魔法か?」

「この家には魔法阻害装置(ジャマー)が働いてるよね?だったら魔法なわけないじゃん。てか、他の指の爪も心配したほうが良いかもね」

 まぁ、僕の魔法って、魔法阻害装置(ジャマー)では阻害されないんだけどね。ニヤリと悪い笑みを浮かべる僕。

 藤原氏は恐怖の色を顔に浮かべ、自分の両手を守るように腕組みをした。うーん、目視できないと攻撃できないってのが重力子攻撃(グラビトンアタック)の欠点だな。まぁ僕としては爪以外の個所を潰しても構わないんだけど、その場合は部位欠損として治癒魔法でも回復不可能になるよ。目玉とか鼻とか耳とか…。

 僕がどこを攻撃しようかと考えていると、藤原氏が早々に屈服した。

「…わ、分かった。払ってやるよ、くそっ」


 細かい取り決めは後日弁護士立ち合いのもとで行うこととして、マリさんと美女先輩と僕は連れ立って市役所へ行き、記入済みの離婚届を提出した。

 これで晴れてあのDV夫から解放されたわけだ。良かったね、マリさん。

「本当に感謝の言葉もありません。財産分与を受け取ったら、半分をあなた方への報酬として支払わせてください」

「いえ、実は私たちBEATは無償奉仕(ボランティア)なんですよ。あの男からは30万円を受け取りましたが、本来なら一銭も受け取る気は無かったのです。ですからマリさんも受け取ったお金は全額ご自分のために使ってください」

 五億円の半分ってのは魅力的だけど、あっさりと美女先輩が断っちゃったよ。

 ちょっと惜しい気もした僕だった。いや、だって二億五千万円だよ。欲が無いにも(ほど)があるよ。


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